『FishBowl』 vol.12 - 29 | 佐藤です、小説書いてます。

佐藤です、小説書いてます。

小説を書くこと、読むこと――について。
あと、思いついたことなどを、
まあ、そこはかとなく。

 

「なんか聞いたことあるような話ね。終わりの方はなんだかわからなかったけど、はじめの方はここに似てるわ。何度もひどい目にあって、いろんな噂をたてられ、呆れるってとこ」

 

 温佳を見たときには、いつもの陽性な表情に戻していた。声も明るいものだった。

 

「そうか? いや、そうかもな。だけど、俺はここのことを書いたんじゃないんだぜ。まあ、いわば、その逆だ」

 

「逆?」

 

 サーバーからコーヒーを注ぎ足すと、彼は天井へ目を向け、口許をゆるませた。

 

「ま、書きあげたら読んでくれよ。優れた小説というのが予言的なものだってよくわかるはずだ。これは家族の物語であると同時に、常識であるとか倫理を破壊するものでもあるんだ。ストーリーにそういった力があるか実験するものでもある」

 

 突然立ちあがると彼はドアを開け、外をうかがった。電話のベルは鳴りつづいていた。

 

「そういや、君のお父さんが書いたのにこういうのがあったな――『鳴りつづく電話のベルは予感である。夜中にそれはかかってくる。そういう場合、誰もが電話に出られない状況にいる。そして、それに出ると報されるのはたいてい悪いニュースだ』これは、王子様、君のとこにかかってきてるんじゃないか?」

 

 そう言ってるあいだに電話は切れた。首を弱く振りながら彼はドアを閉じた。その瞬間にまた鳴りだした。僕たちは耳を澄ませ、それがどこからくるのか聞いていた。でも、僕の居住棟からではなかった。もう少し近くで鳴っていた。ベルはしばらく響き、しかし、それまでと違ってすぐにやんだ。誰かが出たのだ。

 

 彼が言ったのは『Always Look On the Bright Side Of Life』の一節だった。主人公が様々な死を知るとき、たいていそれは電話で伝えられた。後半以降ではベルが鳴るたび誰かが死んだとわかるくらいだった。何人目かの仲間の死を報せる電話に出たあと、さっきの一節が出てくる。その後はこうつづくのだ――

 

『死にはいろんなかたちがある。病院で消えゆく命を計られながら訪れる死もあれば、突然やって来ては全てを奪うような死もある。僕のもとにあらわれるのは、だいたいにおいて後者だった。電話のベルはそれを伝えるためだけに存在してるかのようだった』

 

 僕たちは見えない影に意味をあたえようとするように外を見つめていた。父さんの書いた文章ではあったけど、彼の言葉は魔術師の唱えた呪文のように耳に残っていた。どこかのドアが勢いよく開き、誰かが外に出たのがわかった。真昼ちゃんか田中和宏のどちらかが、そうやって居住棟から飛び出したのだ。足音は近づいてきた。僕にはそれが真昼ちゃんだとわかった。それこそ予感といってよかった。それも、悪い方の予感だ。

 

 ドアは開かれた。真昼ちゃんは驚きに満ちた表情をしていた。亡霊を見たような顔つきだった。僕は立ちあがっていた。寒気が腰の辺りから首筋近くまで上がってきた。真昼ちゃんは僕たちを見ると、こう言った。

 

「梵ちゃんが、死んだって」

 

 

―― 『12.Family Affair/見てはならないもの/もうひとつの芸人の死』 終わり ――

 

 すこしお休みしてから第13章となります。

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