『FishBowl』 vol.8 - 14 | 佐藤です、小説書いてます。

佐藤です、小説書いてます。

小説を書くこと、読むこと――について。
あと、思いついたことなどを、
まあ、そこはかとなく。

 

「ね、清春、お願いよ。温佳と話してみて」

 

 作戦総本部にいても、どうかすると僕の頭には『スチュワーデスの情事』の一ページ――苦悶か歓喜かわからない表情で尻を突き出した女、その上と下に男がいるというものだ――が浮かんできた。シニフィエは足許をうろちょろしはじめていた。

 

「毎回これを言ってあんたを縛りつけるのも悪いけど、温佳はあんたの妹なのよ。それに、あんたはもうひとりの子のお兄ちゃんにもなるの」

 

「私からもお願いするわ。美紗子の件についてはあなたたちにこれ以上迷惑がかからないようにする。だから、温佳ちゃんのことはお願いよ」

 

 僕はしばらく黙っていた。父さんのように舌打ちしたかったけど、それは控えていた。真昼ちゃんは顔を前へ出し、じっと見つめてきた。たぶん、了解したと踏んでいたのだろう。口に出さなくてもそれくらいわかったはずだ。しかし、きちんと了承するまで待った。

 

「わかったよ」と僕は言った。「努力はする」

 

「我々が求めてるのは努力ではない。結果だ」

 

 井田隆徳はおごそかな声をつくりこんでいた。当然のことに僕はにらみつけた。これには真昼ちゃんも熊井女史も強い目を向けた。

 

「冗談だよ、冗談。そんな怖い目で見ないでくれよ」

 

 手をおおげさに振ってから居住まいを正し、彼はよく通る声でこう宣(の)べた。

 

「これは予定されてたことだ。君の意思とは関わりなく、そして俺たちの意思とも関わりなく定められていたことなんだ。つまりは、どうしたってやらなきゃならないってわけさ。なにしろ君は王子様なんだからな。

 

 ――ま、かくこのようにして、王子様はその騎士道精神を発揮する舞台を得たのです。さてさて、どうなることでしょうって感じだな。そういう物語なんだから乗るしかないんだぜ」

 

 真昼ちゃんはそれとわかるように溜息をついた。僕はもちろん腹をたてていた。しかし、誰も気づいていないようだった。前にも書いたように僕は普通にしてると不機嫌と思われ、ほんとうに不機嫌なときは誰からも気づいてもらえないのだ。

 

「とにかく、清春、お願いね」

 

 真昼ちゃんは念を押した。

 

 僕は天井を仰ぎ、それから、その目をしっかり見返した。兄であるという事実からはどうやっても逃れられないようだった。

 

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《詩のようなものと幾つかの短文集です。

 画像があるので重たいとは思いますが、

 どうぞ(いえ、どうか)お読みください》