『FishBowl』 vol.7 - 27 | 佐藤です、小説書いてます。

佐藤です、小説書いてます。

小説を書くこと、読むこと――について。
あと、思いついたことなどを、
まあ、そこはかとなく。

 

 中年警官は入口近くの椅子に腰かけ、母さんがれなおしたコーヒーを飲みながら着替えにいった二人を待っていた。コーヒーがなくなると胸のところで両手をあわせ、首をうつむかせて、指先を口にあてた。

 

「じゃ、行きましょうか」

 

 井田隆徳が押し開けたドアには深紅のワンピースに革のロングコート姿の真昼ちゃんが立っていた。もちろん、メイクもばっちり施していた。

 

「真昼、どこに行くつもりなんだ? パーティーじゃねえんだぜ」

 

 父さんは半分笑った顔でそう茶化した。もう半分は耐えがたい疲労に覆われていた。

 

「せっかく警察署へお呼ばれになるんだから、きちんとした格好の方がいいじゃない。それに、これはパーティーみたいなもんでしょ?」

 

「ははっ!」

 

 中年警官は笑いながら立ちあがった。

 

「そうですなぁ、パーティーとまではいきませんがケーキはありますな」

 

「ケーキがあるんですか?」

 

 井田隆徳が明るい声でそう訊いた。彼だけはなにがあっても疲れないようだった。

 

「今日はクリスマスでしょう? ま、とはいっても私どもにはあまり関係ありませんがね。なにしろ、ずっと署に詰めとりますんでな。――いや、これはつまらぬ愚痴ですな。まあ、そういうわけで、若いのがケーキをくれたんです。ちょっと高級なのということですよ」

 

 僕たちは中央棟を出た。風が強く吹き、雲のかたちをめまぐるしく変えていった。それに合わせて地上へ届く光は揺らめいた。明るくなるとパトカーはピカピカと輝いた。汚れたパトカーを僕は見たことがない。きっと「若いの」が常に磨いているのだろう。

 

 中年警官は振り向いて、父さんと母さんを見た。

 

「マスコミの皆さんがね、けっこういらしてるようなんですよ。ということで、あなた方はこの辺で引き返した方がよろしいでしょうな」

 

 母さんは手を差しだした。中年警官はうやうやしくその手を握ると、腰を低くし頭を下げた。

 

「いやぁ、こんなにお綺麗な、しかも女優さんからコーヒーを振る舞っていただけるなんて、こりゃ、いいクリスマスでしたなぁ。では、ご機嫌よう。佐藤さん、あなたも」

 

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