『FishBowl』 vol.7 - 19 | 佐藤です、小説書いてます。

佐藤です、小説書いてます。

小説を書くこと、読むこと――について。
あと、思いついたことなどを、
まあ、そこはかとなく。

 

 父さんはビールを不味そうにめていた。

 

「けっきょく誰だかわからないってことだろ? それに、真昼が言ってるのはいかにもそれっぽいけど、想像でしかない。なあ、俺たちは馬鹿な奴の考える馬鹿げた考えなんて理解できないんじゃないか? 昨日までこうだったからといって、馬鹿ってのは次の瞬間には違うことをしでかすんじゃねえのか?」

 

「人間がすることっていうのは、その『いかにもそれっぽい』ものなんですよ」

 

 井田隆徳が静かな声で語り出した。

 

「僕たちが考え得る人間の行動は数え切れないほどあるんでしょう。しかし、それでも、ひとりの人間がすることには限界があるんです。馬鹿な人間であっても――もちろん、こんなことをするのは馬鹿に違いないですが、ちぐはぐな行動はしないものです。

 

 あるいは、馬鹿な奴ほど自らの限界を超えられないんです。固執して、同じことを繰り返してるんですよ。そして、きちんと丁寧に見ていけば、そこには原因と結果の連鎖があるものなんです」

 

 父さんは彼を見つめていた。顔の歪みはそれまで見たことがないほどになっていた。

 

「なるほどね」と言って、父さんはまた不味そうにビールを舐めた。母さんは女優的大仰さを前面に出していた。当然のことに今の会話を理解してるはずもなかった。それを隠すためにも女優らしさを強めさせたのだろう。

 

「それじゃ、あくまでもここに火がつけられるっていうのね? それも、今日、この後で」

 

 真昼ちゃんは大きくうなずいた。

 

「そうでしょうね。最後の放火はクリスマスイブに決まってたのよ。そこから逆にたどって同じ曜日に火をつけてたのね。じわじわと恐怖を味わわせようってつもりなんでしょ。はじめに草介や美紗子の記事が載った雑誌が燃やされたのはそれを指し示してたのよ」

 

「それで、そいつはなにがしたいんだ? なにを言いたいんだ? ただ単に俺たちをビビらせようってんで、いろんなとこに火をつけまわってたっていうのか?」

 

 父さんはわめいた。真昼ちゃんに向かって言ってたけど、井田隆徳の方をちらちら見ていた。どうせ、こいつがくだらないことを吹きこんだんだろう――といった顔つきだった。

 

「表現する術を持たない者は、我々とはまったく違う突拍子もない方法で表現しようとするものなんじゃないですか?」

 

 井田隆徳はゆっくりとひとつひとつの言葉を吟味するように話しだした。その顔はすこし得意げに――これは彼をあまり好きでない僕の持った印象に過ぎないのかもしれないけれど――みえた。

 

「もちろん、そんなのは表現なんてものではないですが、そういう人間にとってはそれが唯一の方法なのでしょう。すくなくとも、その行為がどういったかたちであれ終息するまでそのように思いこんでる。僕にはそう思えます」

 

 母さんはまぶたを瞬かせて真昼ちゃん、父さん、僕と見ていった。翻訳して欲しかったのだろう。父さんはまさに『苦虫を噛み潰したような』顔をしていた。ひとこと言うごとに小難しい感じにされるのが気にくわないのだ。それに、「我々」というのにも引っかかっていたのかもしれない。きっと「お前は『表現者』なんかじゃない」と思っていたのだ。

 

「でも、それも今日で終わりよ」

 

 真昼ちゃんは宣言するように言った。

 

「私たちが終息させてあげるわ。ふん縛って、もう二度とどんな表現だってできないようにしてやるのよ」

 

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《佐藤清春渾身の超大作『FishBowl』です。

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