『FishBowl』 vol.7 - 17 | 佐藤です、小説書いてます。

佐藤です、小説書いてます。

小説を書くこと、読むこと――について。
あと、思いついたことなどを、
まあ、そこはかとなく。

 

「君はどう思ってる? この一連の放火騒ぎについてさ」

 

 僕は口を閉じたままでいた。この男のことだからこたえなくてもしゃべりつづけるだろうと思っていたのだ。そして、その通りになった。

 

「真昼はこの前のコンビニの件が引っかかるようなんだ。俺にも言わないけど、あれでなにか気づいたようだ。それがなにかわかるか?」

 

 僕は首だけ曲げた。彼も同じようにしていた。車は信号で停まった。

 

「わかるはずもない」

 

「なるほど、そうか」

 

「あんたはわかるのか?」

 

「俺? いや、俺にもわからない」

 

 車は走り出した。ただ、前がつかえていて、ゆっくりとしか進まなかった。

 

「あんたはいつだってなんでも知ってるって顔してるよ」

 

「そういう顔に生まれついてるってだけさ。俺には知らないことの方が多い。ま、気づくことはあるけどな。――ところで、もしあそこが放火されたら大変なことになる。この前、変な手紙が投げ込まれただろ? ああいうのをする連中からすれば『それみたことか』ってとこだろう。

 

 当然、俺たちにたいする風当たりはさらに強くなる。俺は、まあ、そんなの気にしないし、君のご両親はほぼあそこにいないから影響は少ないだろう。それに、真昼は強いからな。いや、そうでない部分もあるが、基本的には強い女だ。だから、まあ、大丈夫だろう」

 

 僕は窓を閉めた。寒くてしょうがなかったのだ。

 

「なにが言いたいの?」

 

 彼は二本目の煙草をくわえた。ただ、火はつけず下唇に引っかけていた。

 

「君は王子様だろ?」

 

 顔をしかめ、僕は横を向いた。

 

「そう呼んでるのはあんただけだ」

 

「そうか? でも、実際に君は王子様なんだ。これはもうどうしようもないことだ。揺るがせにできない決定事項なんだよ。――でな、温佳ちゃんはお姫様だ」

 

「だから?」

 

 車はゆっくり進み、じきに停まった。僕は鞄を取ってドアに手をかけた。彼は明るい顔つきで見つめてきた。

 

「王子様ってのは、お姫様を守るものなんだ。これもな、変えられないことなんだよ。そうだなぁ、鴨や白鳥が海を渡るように、カエルや蛇が地中へもるように変えられないんだ。ま、いわば、習性ってやつだな。王子様はそういう習性を持つものなのさ。お姫様を守らずにはいられないって習性だ。自然と言ってもいい。そうするのが王子様の自然なんだよ」

 

「だから?」

 

 外へ出るとき僕はもう一度同じように訊いた。

 

「だから、風当たりが強くなったら、あるいは、それよりもっとひどいことになったら、君が温佳ちゃんを守るんだ。それができるのは君だけだし、務めでもある――王子様のな」

 

 大きな音をたててドアを閉めると、井田隆徳は口をあけて笑った。それから、煙草に火をつけ、車を動かした。オンボロのフォルクスワーゲン・ビートルが去っていくのを見ながら、僕は大きく舌打ちをした。

 

↓押していただけると、非常に、嬉しいです。
にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へ
にほんブログ村

  

現代小説ランキング

 

〈BCCKS〉にて、小説を公開しております。

 

《詩のようなものと幾つかの短文集です。

 画像があるので重たいとは思いますが、

 どうぞ(いえ、どうか)お読みください》