『FishBowl』 vol.7 - 16 | 佐藤です、小説書いてます。

佐藤です、小説書いてます。

小説を書くこと、読むこと――について。
あと、思いついたことなどを、
まあ、そこはかとなく。

 

「ほんとにここが放火されるの?」

 

 翌る日の朝、車の中で温佳は無感動そうな声を出した。

 

「ん、真昼はそう考えてるな。警察だってそうなんだろう」

 

 欠伸あくびをかみ殺しながら井田隆徳はこたえた。

 

「あんたは? そうなると思ってる?」

 

「うーん、可能性はあるね。昨日はちょっとだけ離れてたけど、それでもだんだん近づいてるんだ、そう考えてもおかしくはないだろう」

 

 車は駅に向かっていた。窓を全開にしてるものだからえらく寒く、僕も温佳もマフラーをしたままだった。井田隆徳は煙草が喫いたくてしょうがないのだろう、指先でハンドルをしつこいくらい叩いていた。

 

「でも、そうなるとも限らないんじゃない?」

 

 外を見ながら温佳はそう言った。井田隆徳はルームミラーをのぞきこみ、わけのわからないことをしゃべりだした。

 

「今日も太陽は東から昇った。昨日もそうだった。一昨日も、一昨昨日もだ。そうなりゃ、明日だって太陽は東から昇るだろう。四日も同じだったのに突然西から昇るなんて変だ。人間ってのはそう考えるものなんだよ。それが正しいかは誰も知らないんだ。ただ、今までそうだったのに急に変わるとは思えないんだよ」

 

「なによ、それ。馬鹿みたい」

 

 井田隆徳は大きな声で笑った。なにがおかしいのかもまったくわからなかった。

 

「でも、それだけじゃない。真昼にたいする中傷のビラ、最初ので燃やされた雑誌――それは君たちの親に関するものばかりだったんだろ? それらすべてを総合すると、狙われてるのは我々だとわかる。まあ、間違いだったらその方がいいよな。だけど、残念ながら間違ってないだろう」

 

 車は駅に着いた。温佳は降りるとき僕を見つめ、こう言った。

 

「いつだって、あたしたちはあの人たちのせいで嫌な目にあうのよ」

 

 小さな身体が消えるのを見届けてから井田隆徳は煙草に火をつけ、「ぷはぁっ」とけむりを吐きだした。

 

「今日も姫君はご機嫌斜めだったな」

 

 僕はただ前を見つめていた。「あたしたち」って言ってた――そう思っていたのだ。温佳がそんなふうに言うのは初めてだった。フォルクスワーゲン・ビートルはプスンプスンと音をたてつつ走った。

 

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