『FishBowl』 vol.2 - 15 | 佐藤です、小説書いてます。

佐藤です、小説書いてます。

小説を書くこと、読むこと――について。
あと、思いついたことなどを、
まあ、そこはかとなく。

 

 母さんが妊娠に気づいたのは一九七二年の夏の終わり頃だった。

 その三月ほど前に父さんは母さんとシゲおじさんの住むマンションに転がりこんでいた。とはいえ、コンビ名をヒール/ソールに変え、少しは認められる存在になりつつあった父さんは営業に行くことも多く、ほとんどそのマンションに寄りつかなかった。

義兄(にい)さんは荷物だけ置いてたけど、ほんと滅多に帰ってこなかったんだ」とシゲおじさんは言っている。

「姉さんも忙しいだろ? 家にいることなんてまれでさ。だから、あの二人は同棲してたっていえないくらいだったんだ。俺も一緒に住んでたし、たまに顔をあわすときは真昼さんもいたりしてね。いつ二人だけで会ってるんだろって思ってたよ。でも、仲は良かったな。義兄さんのために弁当まで作ったりしてて、これがあの女王様だった姉さんだとは思えなかったものな」

 

 

 僕と温佳は何ヶ月間かにわたり、母さんから話を聴きだしてきた。

 はじめのうちは《清純派》と呼ばれていた頃の話を聴いて気持ちをほぐさせ、それから温佳が生まれたときのこと、僕たち《家族》が一緒に暮らしていた頃のこと、(たけ)(よし)(ろう)誕生の経緯と聴きだし(これにも手間取った)、父さんとどうやって出会うことになったのかに移っていった。

 母さんが女優的大仰さを前面に出して、とくに男女関係の話となるとのらりくらりと質問をかわした――というのは、この章の冒頭に書いた通りだ。すぐにわかるような嘘をつくのも、なにも父さんとの出会いに関わることだけでなく全般にわたってそうだった。

 だから、僕は他の人たちに話を聴くのとは違う態度と準備でもって母さんに臨んだ。ぎちぎちに揺るがないような事実を積み重ねた上で質問するようにしていたのだ。母さんが誤魔化したり嘘をついても、すぐに反証をあげられるようにだ。そうすることによって、だいたいの部分に関しては真実により近いことを聴くことができたと思う(武良郎の誕生については謎が多く含まれているにせよだ)。


 ただ、僕が生まれたときのことを聴くのはなるべく最後の方にまわすようにした。

 というのも、それによって生じた影響は長くつづいていたから資料(雑誌の記事なんかだ)が多く、それらをまとめるのに時間がかかったというのもあるし、また僕が出来てしまったことで両親が受けることになったショックを聴きだすというのがその原因となった者としてし難かったというのもある。

 まあ、真昼ちゃんや熊井女史はいろいろとその辺のことを聴かせてくれていて、二人とも母さんは「すぐに産む決心をした」と言ってもいた。しかし、それは僕を傷つけまいとしてついた嘘かもしれなかった。

 僕がそう考えるのはなにも突飛なことではない。雑誌の記事なんかに書いてあるのはどちらかというとそういった論調のものだったのだ。さらに、僕はあるビデオテープを見てもいた。そこに映っていた男の語ったことは真昼ちゃんや熊井女史の発言の真逆だった。

 

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