『FishBowl』 vol.1 - 25 | 佐藤です、小説書いてます。

佐藤です、小説書いてます。

小説を書くこと、読むこと――について。
あと、思いついたことなどを、
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 十九歳のときに出演した映画『細雪』で妙子を演じたことが母さんの転機になった。

 それは『豪華キャスト陣による感動巨作』などと撮影前から宣伝されるタイプの、昔よくあった《お正月大作映画》というやつだった。実際にも四姉妹の上三人は当時大女優と呼ばれていた方々が受け持っていたし、それ以外にも名前を聞けばすぐに顔のわかるような出演者が揃っていた。

 だから、そこに母さんの名前が連なっていたのには少しく違和感があったのかもしれない。

「ま、あのときもいろいろ言われたものよ」

 熊井女史は暗い顔をして、煙草に火をつけた。

(ねた)みたいがために芸能界にいるんじゃないかっていう手合いがいるの。そういうお人たちからすれば、美紗子が選ばれたことは納得いかなかったんでしょうね。

 前にも言ったけど、あれは奇跡みたいなことだったのよ。ま、逆に言えば、出演者の中であの子だけ浮きあがってたってことね。でも、――でもよ、あの子は別に変な運動をして役を手に入れたわけじゃないの。私たちだってそんなに派手なことはしなかった。話題作になるのはわかってたから、そりゃ、ちょっとは売り込みをしたわよ。だけど、そんなにはしてなかった。

 ま、美紗子の実力が認められて出演が決まったってのが本当のところよ。それでもいろいろと言われたけどね」

 

 外野はいつものように騒がしかったようだけど、母さんは(ほん)(ぽう)にして不幸な妙子を見事なまでに演じきった。

 抑圧されつつも自立を指向し、しかし、完全には自立し得ない弱さをあわせ持つ母さんの妙子は、高度経済成長期に歯を食いしばって職業婦人をやりつづけていた女性たちに大きな共感を呼び、それまで主に男性ファンが中心だった母さんの支持層を広げることになった。

 また、男を(ほん)(ろう)する母さんの妙子に演者の内面の女臭さを感じた男性ファンは単純に性欲上で興奮することになった。可憐にみえた若かりし頃の母さんに肉欲の臭いを感じるだけで彼らは高揚感を持ったわけだ。

 そのこと――妙子を演じた後にそういった意味でちやほやされること――に母さんは喜びを感じていた。

 唯一、母さんが不満だったのは原作において妙子が『(姉妹の中で)一番丸顔で目鼻立がはっきりしてい、体もそれに釣り合って堅太りの、かっちりした肉づきをしている』と書かれていることだった。

 人一倍容姿を気にする母さんからしてみれば、体型からいったら三女の雪子、見た目の華やかさからいったら次姉の幸子あたりが自分にあっている役どころだと思っていたのだ。

 つまりは、それらを演じた先輩女優たちより自分の方が()せているし華もあると考えていたということだ。もちろん、年齢については差し置いてということだけど。

 

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