妖精さんシリーズのスピンオフでーす爆  笑
ヒロインは、シン・ジェラードの義姉リズ・ワトソン・ジェラードの妹に、ティナ・ワトソン・レイフォードがいますね~。
そのティナの夫は、ダン・レイフォードという、老舗テキスタイルメーカーの御曹司です。
ダンにはクララ・レイフォードという妹がいますが、そのクララがヒロインのシリーズです。
 
クララのお話は『空と彼と鳥』というカテゴリーに入っております。第1話はここから飛べます。
 
世の中に、素敵な操縦士っているのかしら・・・ゲロー
大抵は「普通のオッサン」なんですけどね~。(夫の周りに、素敵な操縦士などいないわ~真顔
だけども、なんとなく、イメージ先行の職種なので、そのイメージでヒーローのエリックを作ってみましたってのが、
このシリーズですわ~。
 
 
 
飛行機飛行機飛行機飛行機飛行機飛行機
 
 
「どうして…?」

オフィスのビルから出て階段を数段降りたところに、エリックが立っていた。クララは立ち止って呆然と彼を見つめた。

「どうしてって?」
黒い革のライダーズジャケットに濃いカーキ色のパンツを履いた彼は、雑誌の中から抜け出してきたモデルのようだ。
腕を組んで階段の手すりに寄りかかっていた彼は、眉をピクリと上げた。

「だって」
立ち止ったままで一向に自分に近づいて来ないクララに苦笑しながら、エリックは自分から彼女に近づくことにした。
綺麗にネイルが施された上品な手を掴み引き寄せると、一段、また一段とクララが降りてきた。

「どうしてここに居るの?」
今日は確か一日中操縦桿を握る予定だったはず。エリックのフライトスケジュールは自分のスケジュールと同じようにスマホのアプリに入っている。毎晩次の日の彼の予定を確認してからベッドに入るのが習慣になっているのだ。

「今は空の上だわ。違う?」
「でも、僕はここに居る」
エリックはいたずらそうに笑うと、両手を広げた。
「ほら、ね」
くいっと顎を上げてクララに合図した。

彼女はあたりをキョロキョロと見わたし、それから頬を染めるとポスンとエリックの広い胸に抱き付いた。

硬くて逞しい体

クララはエリックの胸に頬をつけ、目を閉じた。
ごつごつとした手が自分の髪を撫でている。

「でも、どうして?」
真っ直ぐな彼女は曲がったことが嫌いらしい。何に対しても説明を求めることにエリックは気づいていた。彼女に嘘をつくことは難しいだろう。

「クララ、予定はあくまでも予定さ。変更することだってあるだろう?」
エリックはクララの頭のてっぺんに顎を乗せると、彼女が納得するにはお粗末すぎる言葉を探して答えた。
「―――うん、そうね」
意外な事に、クララはその説明でよかったようだ。
いつもの彼女なら、もう少し理論的な説明を彼に求めたかもしれない。でも今日だけは彼の簡潔な説明で十分だった。

彼がどうしてここに、自分の前に姿を現してくれたのか、彼女にはその理由が分かっていたから。
エリックのジャケットの中にほっそりとした腕をさし入れると、クララはトクトクと規則正しい音を鳴らす堅い胸板に頬をつけた。
すっかり慣れてしまった彼の香りを大きく吸い込むと、おもむろに顔を上げ、髭を剃ったばかりの彼の顎の下を見た。


+++++


クララはエリックが髭を剃る姿好きだ。彼の部屋のバスルームに小さなスツールを持ち込み、彼が鏡の前で髭を剃っている姿を飽きずに見つめている。そんな彼女に、エリックは苦笑しながら鏡越しに視線を合わせると、笑うのだ。

「真剣に見てるね」
「そうよ」
「何がそんなに面白いのか、僕には理解できないな」
クララは美しい眉を上げると、
「あら、そんなの私だって同じことを言いたいわ」
「うん?」
今度はエリックが眉を上げる番だ。
「エリックだって…」
「僕だって?」
「私が靴を脱ぐ姿を見たがるじゃない」
赤く頬を染めたクララが僅かに視線を反らすと、口を尖らして拗ねたように呟いた。
そんな彼女にニヤリと笑うと、エリックは、
「―――確かにそうだね」
幾分低い声で答えた。
「でもそれは――――その先のプロローグだからさ」
クララが勢い良く息を飲み、今度は誰から見てもはっきりとわかるほど赤くなった。。

「髭剃りはちがうだろ?」
そんな彼女のことを愛おしそうに見つめた後、彼はまた髭剃りに集中し始めた。
「な、なんでもベッドに結びつけないで」
抗議してるにしては弱弱しい声でクララが返した。
「ふーん」
「ひ、髭剃りは…」
「うん」
「髭剃りは…朝するものでしょう?」
「そうだね、大抵はそうだ」
ね?と得意そうにクララは肩をそびやかす。良家の令嬢である彼女は、時々こうしたプライドの高さが顔を出すときがある。それを権高いと勘違いする人もいるのかもしれないが、エリックは彼女が動揺しているときや照れているときに、そういう態度を示すことに気づいていた。

「朝は…朝は、夜の後に来るのよ」
クララは下を向いて自分のつま先を見ながら小さく呟いた。
カタンとエリックがシェーバーを鏡の前に置いた。その音にクララが顔を上げると、大きな体が振り向き、自分を見つめている。


「ふむ」
エリックの端正な顔が目の前にある。
彼は曲げた膝に手をつき、自分の顔を覗きこんできたから。クララは恥ずかしさに視線を反らした。
「それは…僕の自惚れでなかったら、エリック・バードンの夜を独占したと言う意味にとってもいいのかな―――ねぇ、クララ」
彼女が答える前に彼の口でそれを覆われ、彼女の答えを聞くことはできなかった。


+++++


幾日か前の朝、エリックとかわしたやり取りを思い出しながら、クララはエリックの頬に手を滑らせた。
「ありがとう、エリック。今日会うのは無理だと思っていたわ」
クララの手を上から覆うと面白そうに口を開いた。
「それは僕のことをひどい恋人だと思っている証拠だな」
「エリックたら」
クララが笑うと、彼は急に真剣な面持ちになり、彼女の白い手の甲を自分の口に持って行き、甘く口づけた。

「――――大事な恋人の誕生日をひとりで過ごさせるわけにはいかないだろう?」
「エリック…」






今月のスケジュールを彼女に教えた時、僅かに彼女のグレーブルーの目が曇ったのを彼は見逃さなかった。理由を聞いても、クララは「なんでもない」の一点張りだ。業を濁したエリックは、クララの義姉ティナに尋ねることにした。

「あら、その日はクララの誕生日よ。毎年パーティを開くけど、今年は前日にする予定よ。だってエリック、あなたが居るもの、ね」
思わせぶりな笑みを浮かべられ、彼は適当に誤魔化してその場をやり過ごした。

「クララに何をプレゼントしたらいいでしょう。思いつかないな」
レイフォード家の娘に生まれた彼女が欲しくてたまらない品などあるのだろうか?
エリックは頭を悩ませた。
「エリックからのものなら、何でも喜ぶと思うわよ。だってクララはあなたに夢中だから」
それ以上は自分で考えなさい、とばかりにティナは美しい目で自分を見つめてきた。
「―――とにかく、考えてみますよ」
エリックは自信なさそうに零した。
「そうそう、エリック。“前日に”パーティがあるのよ?みんなから山ほどプレゼントをもらう事を忘れないで」
悪戯そうにそう言うと、ティナはひらひらと手を振り、レイフォードの大きなリビングから出て行ってしまった。

ティナ出て行くとほぼ同時に、彼の恋人であるクララが
「お待たせしました」
上品な笑みを浮かべ―――その瞳はエリックが満足するほど輝き―――現れた。
「ティナと何を話していたの?」
彼の腕に自分の腕を絡ませながら、クララが尋ねた。
「クララには内緒だよ」
「ひどいわ。きっと私の悪口ね」
「悪口言われるようなことでもしたのか?」
エリックがクララの鼻先を摘まむと、からかった。
「私って案外、“悪い子”なのよ」
肩をすぼめて口を尖らせた。
「ふーん、じゃあ、その“悪い子”な姿を十分見せてもらおうかな」
欲望の色をにじませながら、彼は囁いた。