旅に出て六日目の土曜日。もう明日と明後日よりない。朝は二日ぶりでシャワーを浴びる。病院の薬はちょうど切れた。血圧とコレステロールの薬だから数日ぐらいはいいだろう。それから下着とシャツは古いし色褪せているので捨てて荷物を軽くする。最終的には全部捨てて、ユニクロも無印もあるし、そういう日本のでなくてもこちらのショップがあるので、買って着替えて帰ろうと思う。

昨日は残金を調べたら、後三千円よりない。25000円の両替でいままで持ったのは、如何に使わない旅行かということだ。

 チェックアウトする。杏は堅くて酸っぱくて生食はできないのでジャムか漬物だろうと、ホステルの掃除のおばあちゃんに上げる。日本語を話せるフロントに銀行は土曜日で休みだから、両替商はないかと聴いてスマホで調べてもらう。大きなホテルでもやってくれるだろうか。両替もないし、銀行以外でATMはあまり見かけない。日本でもATMは減らしている。経費節減で、これからはすべてネットバンキングになるのだろう。現金の必要がない。わたしも月に一度コンビニのATMで下ろすぐらいで、まず銀行にも行かない。中国では完全にキャッシュレス時代で、コンビニにもATMの機械は置いていなかった。いま、朝マックで宿の近くでコーヒーと入ったが、マスターカードのクレカが使えなかった。なんと閉鎖的な国なのだ。クレカも使えないと困る。万札はまだあるから、現金両替しかない。現金は何も利用価値がない国なのだ。

 今日は疲れた翌朝で、一日ゆっくりと街中を地下鉄散歩。美術館巡りでアートに触れる一日にしたい。

 ところで、宿にもWi-Fiはあるが、使ったことがない。ガイドブックによれば、中国のWi-Fiに繋ぐと、LINEも繋がらないし、グーグルもと書いてあった。それで、データローミングにして使っているが、それならなんでも見られたし繋がる。知り合いか青森から電話が来ていたが、当然通話はできないのは、朝晩の少しの時間だけ繋いでいるからだ。着信履歴が残っていても、電話は別料金で高くなる。LINEの通話ならできるのか。

 近くに銀行があって土曜日だからやっていないと思ったら、男子銀行員一人だけ外国人の相手をして、ATMでの両替だけしていた。わたしもやってみたがパスポートの読み込みができないので手伝ってもらう。銀行員も三回やって認識しないが、ようやく一万円札が元になった。機械はプロがやっても簡単に言うことを聞いてくれない。現金を手にすると急に気が大きくなって、隣のマックで240円のアイスコーヒーを飲み、これを書いている。日本の倍の値段だ。それでも一番安い。

 駅も近いが、もうこのホステルは二泊で終わり。今夜は別のホステルに移動する。地下鉄駅でまたワンデーパスを買う。もう券売機からは買わない。釣銭管理をしていないので、現金は入らないで拒否される。

 街中を歩くときは車に注意しないといけない。なんとバイクは歩道を走る。バスも赤信号でも平気で侵入してくる。なんでもありありで、日本ではアウトだが、実に寛大で、昔は税金を納めている車の運転手のほうが歩行者より偉いと香港では言われ、轢かれ損と注意されたときもあった。歩行者もまた赤信号でも横断する。交通ルールなんかあってないようなものだ。

 

 今日はアートな一日にしようと、まずは、地下鉄で移動、上海工芸美術博物館に入る。そこも勘で、裏通りに入ったら偶然見つける。洋館でフランス租界当時のものを博物館にしている。そこは入場無料だ。竹細工や硯、緻密な大理石彫刻など、どうやって掘るのかと見ていて気が遠くなる。その近くには上海交響楽団のコンサートホールがあり、周辺には楽器店が並ぶ。楽器博物館みたいな小さな洋館もあって入ろうとしたら、予約なしでは入れないと門前払い。そこでもまだ午前だが、地下鉄の旅は続く。ひとつ先に上海図書館もあり、見て行こうと思ったがやめた。荷物検査だけでなく、いろいろと理由を聞かれたら困る。第一、図書館に旅行者は来るか。

 どこの駅でも大きなモールがあり、飲食店が並ぶ。朝飯はまだ食べていないで、昼と一緒になったが、モールにあるミニスーパーで、コンビニより安いと、ドリンク何本かとサンドイッチ、ケーキなどを買う。真夏のように暑いので、汗ばかり。水分も摂る。駅ひとつに静安寺というのがあり、そこの前に公園もあるから、昼はそこのベンチだなと行ってみる。キンキラキンの寺はあまり好かない。まして、見たら、入場料を取る。それと寺の一階はテナントがびっしりと入っていて、カフェから売店飲食店がずらりと並ぶ。すごいお寺モールだ。隣にはエルメスのショップがあり、なんとも寺院とブランドショップの取り合わせが面白い。中のお釈迦様はブランドもので飾られていたら見てみたい。坊主丸儲けの世界だなと笑う。

 

 次に向かったのが、黄浦江に面した龍美術館だ。港のような資材の積み荷をするところに美術館が大きい。それはガイドブックによれば石灰工場の建物そのままリフォームして造られたとあるの、コンクリートの古い昔の建物の一部をわざと残して建物も作品なのだ。個人のコレクション展示というが、維持費はどうするのか。入ろうとしたら、ずらりと並んでいる。二百人以上は並んでいたか。それでも30分くらいで入れたが、入場料は取らないのだ。中国は芸術を大事にしているので、国の負担なのか、全部国営にしたものか。現代美術で、世界の若い作家たちの作品をオークションで買い取ったものだろうか。年齢を見たらみんな五十代以下で若い。オーナーの眼力で、これからの人たちの作品を買い取って集めた。それにしても工場を利用するなど、天井も高いし、頑丈なので中はひんやりとする。

 

 まだまだ午后だが行けると、次は紅坊国際芸術文化社区という芸術の街を訪れた。ところが、ただいま工事中で、アートの街とペインティングされた柵には来年か再来年にはビルが完成するのようで、それまでの小路で作家たちがギャラリーをしたりしていたのを大きくするようなのだ。

 アート続きで。今夜の宿の近くにある、田子坊に行ってみる。そこが一番面白かった。入り組んだ小路にはアメ横みたいな店がひしめきあっている。ギャラリーもあるが売り絵ばかり。それと似顔絵で画家たちが喰っている。怪しい店もあるが、わたしはそういうのが好きで、覗いて歩く。すごい人で歩けないほどだ。外人観光客も多い。そこでわたしは思い出したように、息子に頼まれたお守りをひとつ買う。ご利益は別で、プラセボ効果だ。それだけでは可哀想なので、息子の干支の猪がレリーフされた真鍮の可愛らしい懐中時計も買う。鎖はないが、付けたらいい。

 

 暗くなる前に今夜から二泊するホステルに向かう。近い駅にモールがあったので、その地階にあるスーパーでドリンクと朝飯のパンなどをまた珍しいのだけ買う。玩具も売っていたので、四歳の孫に頼まれた動物なのかなんなのかスポンジみたいなぬいぐるみの小さいの。ついで、晩飯も食べてゆこうと、いっぱい店がある中で、美味しそうな麺屋に入った。平たいきしめんに牛肉とまた香草がどっさりとのった辛い蕎麦だ。味はいいが、あまりに辛さに汗汗汗。

ホステルのだいたいの場所は地図落とししていたが、その近くの番地まで行っても判らない。番地はまた途切れているのは、通りに面していないのだ。その裏も同じ通りの名前の住所になっている。交差点に交番があった。翻訳機でホステルの住所の予約メールを見せて、教えてくださいと話した。おまわりさんは住所をスマホの地図に表示させたら、やはり少し入ったところだった。行ってみたらあったあった、看板があった。ビルの三階がフロア全部使っている。フロントでチェックイン。六人部屋だが、黒人男性もいて、アラブ系の若者は音楽をがんがんと流して歩いていたが、その音楽が日本の民謡のように聴こえる。フロント前のリビングでは、ビリヤードをしたりテレビをソファで見てくつろいでいる若者ばかり。パソコンでネットを見たりしている人たちがずらりといた。いま、わたしもそこに陣取り、これを書いている。いつもながら世界の若い人たちばかり中でいい雰囲気だ。ところで、今日はどうかと万歩計を見たら、歩いていないようで29000歩あるいていた。毎日がこうで、体は鍛えられたか。