民衆は翔一を担ぎあげて、立っている高い十字架に彼の手足を括り付ける。そこまでの手順がとても素晴らしいチームワークで行われた。彼はもう駄目だと観念をした。みんな彼の敵なのだ。彼はもう殺されるより他仕方がない。
十字架の根元あたりに藁がたくさん敷き詰められる。民衆は黙ってそれだけのことをして、壇上に立つヨシオカ一世を見る。
ヨシオカ一世の命令でぼくの命はおしまいになるんだと翔一は考える。
「女王の演説を邪魔する者には死刑しか残されていない。失脚、あなたもそう思うでしょう?」
翔一は素早くサコダ十六世の方を見る。今の彼を救ってくれるのは、サコダ十六世一人しかいないからだ。
ところがサコダ十六世はあっさりと「そうですね」とこたえる。翔一と目を合わそうともしない。
きみはとてもいい友達になると言ってくれたはずじゃないかと、翔一は心の中で叫ぶ。しかし口には出さなかった。彼はもう諦めていた。妹を連れて帰れないとしたら、彼はもう全てを失ったも同然だ。一人だけ帰っても仕方がない。
「さあ、みんな早く火をつけて。こんな邪魔者は退治しましょう」とヨシオカ一世が号令をかける。民衆の何人かが手に松明のようなものを持っている。翔一は目をつむる。最後に雅美の姿を見る。雅美は体育座りをして空の彼方を見ている。
藁に火がつけられたようだ。だんだん熱くなる。涙が次から次へと溢れ出る。
死んだらどこに行くのだろうと考えていると、どこかから女の人の怒号がきこえる。目を開けるとヨシオカ一世が手を振って何かを叫んでいる。ヨシオカ一世が叫んでいる相手を見ると、それはまさみだった。