新華社発表、中国メディアの「報道タブー表現集」<その2>ややチグハグながら人権配慮も | 如月隼人のブログ

如月隼人のブログ

ブログの説明を入力します。

今回は「法律法規名」と題されたカテゴリーをご紹介いたします。報道の対象となる人の「人権」に配慮する部分に、公的な役職や機関についての「名称を正しく使え」という指示の部分が続きます。

 

人権配慮について、中国では実名報道を控える際に「某」という文字を使う場合が多いのですが、日本の記事ではそのような書き方をしませんから、中国語記事を翻訳する場合には、工夫を必要とする部分です。

 

なお、日本では犯罪の容疑者になった時点で実名を公開する場合が多いのですが、中国では容疑者、それも日本の基準ではいわゆる「現行犯」に相当する場合でも「某」を使って実名を伏せることが、よくあります。また、日本では警察官に逮捕された容疑者の場合、画像や映像を使う報道では「顔出し」をしますが、中国ではモザイクがかけられます。そのあたりの「人権感覚」には、どうもよく分からない部分があります。

----------

新華社発表「新華社ニュース情報報道中の使用禁止語及び慎重に使用する語(最新修正版)」

(掲載2回目)

 

【法律法規名】

 

<11>

ニュース原稿中で、以下の対象について実名を公開することは適切ではない。「犯罪容疑者の家族」、「刑事事件に関係した未成年」、「人口受精によって妊娠した女性や出産した女性」、「深刻な伝染病患者」、「精神病患者」、「暴力的脅迫によって売春をした女性」、「エイズ患者」、「薬物乱用の前歴がある者と、あるは薬物乱用についての強制治療の対象になった者。原稿中でこれらの者については、実際の苗字に「某」の文字を追加して、「張某」、「李某」のようにするならば書いてよい。仮名を使うべきではない。

 

★訳者追記:

中国の報道で「張某」、「李某」などの表記は<11>の指定範囲より、さらに広く使われている。例えば、刑事犯罪の容疑者についても「張某」などと報道される場合がある。日本でも、かつての松本サリン事件で、犯行とは関係がなかった被害者の実名を容疑者として報じてしまった経験から、容疑者段階での実名報道は以前よりも慎重になったが、それでも容疑者とされ時点で実名報道されることが多い。

 

さらに、日本では性犯罪の被害者も当人が死亡した場合には実名報道されることがある。当人が生きていれば「実名報道した場合、被害者の今後にとって不利が生じる」との判断で実名報道はしないが、被害者が死亡した場合には、実名を報じても被害者の利益には関係ない、との判断による。中国では、性犯罪の被害者が死亡していても「李某」などで報じられることが多い。

 

なお、中国では薬物関連の犯罪について、密造/密売については厳罰で臨んでいるが、乱用者に対しては、かなり寛大だ。乱用者自身が当局に出頭して乱用の事実を告白したり、家族が当局に届けた場合には、強制治療の対象とはなるが、刑事責任は問われない。「乱用者をより多く発見して、乱用を止めさせた方が、社会全体として薬物乱用の横行を抑止するために効果的」との判断があると思われる。

 

<12>

刑事事件の当事者について、裁判所の有罪判決が出る以前には「罪犯(=犯人)」の語は使用しない。「犯罪嫌疑人」の語を使う。

 

<13>

民事および行政関連の事案について、原告と被告の法律上の立場は平等である。原告は起訴することが出来、被告も反訴することができる。従って、原告が「某某を被告席に座らせた」のような、主観的色彩を帯びた文を使ってはならない。

 

<14>

「某某党委員会(共産党委員会)が、某政府幹部に行政上の免職や解任などの処分を行った」といった書き方はしない。「某某党委員会が某某についての免職や解任などの処分を提案した」の書き方をする。

 

★訳者追記:

中国の省、市などの行政区画には、それぞれ「共産党委員会(共産党支部)」が設置されている。各共産党委員会のトップである「書記」の地位は、行政機関である地方政府のトップである省長や市長よりも高い。共産党委員会のナンバー2が、省長や市長に就任することがほとんどだ。

 

従って、共産党委員会の意思は、行政機関の行動に必然的に反映されることになる。新華社の指示は「形式面に沿って表現せよ」と求めたことになる。

 

<15>

「全国人大常委会副委員長」を「全国人大副委員長」と称してはならない。「省人大常委副主任」を「省人大副主任」と称してはならない。各級の人大常委員会の委員を、「人大常委」と称してはならない。

 

★訳者追記:

中国の報道文では、日本の記事よりも略語がはるかに多く使われる。「全国人民代表大会」には「全国人大」の略称を使う。日本では「全国+人民+代表大会」のように理解されたために、「全人代」の略称が定着したが、名称を分解すると、まず「人民を代表する者」が「人民代表」であり、「人民代表」による大会なので、中国では「人大」と略される。全国から集まった人民代表による会議は「全国人大」、省の場合には「省人大」、市の場合には「市人大」との略称になる。

 

「常委会」は常務委員会の略称。「全国人大」の人民代表(議員)は約3000人で、大会の会期は3月上旬の10日程度であるのが通例。それ以外の時期は約200人の常務委員会が「全国人大」の役割を代行する。常務委員会だけで立法が可能な場合も多い。同常務委員会のトップが「常務委員会委員長」で、「副委員長」は一つ下の役職。ただし、中国では「副」がつく役職の人数が多い場合がほとんどで、現在の「全国人大常委会副委員長」は14人いる。

 

「人大」に出席する資格がある「人民代表」の中から「常務委員」を選出し、「常務委員」が「常務委員会」における役職就任者を選ぶ。したがって、正確を期すために、常務委員会における役職を「人民代表大会」の役職であるように書くなというのは分かるのだが、なぜ「副職」の身についての指示であるのかは不明。実際には「全国人民代表大会常務委員会委員長」の場合にも「全国人大常委会委員長」の形で報じられている。

 

<16>

国務院に所属する研究機構や直属機構、その他の機構は名称を全て書く。「国務院」とだけ略称することはしない。

 

★訳者追記:

 

中華人民共和国憲法は、「中華人民共和国国務院、すなわち中央人民政府は、最高国家権力機関の執行機関であり、最高の国家行政機関である」と定めている。つまり中国国務院=中国政府ということになる。

 

国務院にはさまざまなランクの傘下期間がある。外交部(外務省)、国防部(国防省)など、日本の中央官庁で「省」に相当する組織は「国務院組成部門」に分類されている。なお、「国家発展改革委員会」や「国家民族事務委員会」など、名称に「部」がつかなくとも、「国務院組成部門」に分類される組織がある。

 

国務院直属特設機構に分類されるのは、国有中央企業を統括する「国有資産監督管理委員会」の一組織。国務院直属機構に分類されるのは「海関総署(中国税関)」、「国家税務総局」など。

 

<17>

「村民委員会主任」の略称は「村主任」とする。「村長」とはしない。大学生村幹部は「大学生村官」としてよい。それ以外の村幹部を「村官」としてはならない。

 

★訳者追記:

「村民委員会」とは農村部における自治組織のこと。正式の行政組織ではないとされるが、実際には「村役場」の機能を持っている。「村民委員会」のトップが「村民委員会主任」。「大学生村官」とは1990年代に始まった、大学以上の教育機関の卒業生を迎えるために、幹部としての役職を農村に設ける制度による。

 

<18>

事件報道において「泥棒」、「強姦犯」などと書く場合に、社会における身分や本籍地をレッテル式の接頭辞として使わない。例:労働者としての経験がある窃盗犯を「労働者泥棒」とは書かない。教授が事件を起こした場合「教授犯罪者」とは書かない。「河南泥棒」や「安徽暴徒」の類の書き方をしない。

 

<19>

国務院機構中の審計署の正副行政トップは「審計長」、「副審計長」とする。「署長」、「副署長」とはしない。

 

<20>

各級の検察院の「検察長」については「検察院院長」とは書かない。

 

★訳者追記:

<19>と<20>では、役職名を正確に報じるよう求めた。「審計署(中華人民共和国審計署)」とは、中国中央政府にあって日本の会計検査院に相当する機関。機関名は「審計署」だが、トップの正式職名は「審計長」。

 

<21>

「中共××省省委書記」、「××市市委書記」とは書かず、「中共××省委書記」、「××市委書記」と書く。

 

★訳者追記:

「中共」とは中国共産党のこと。中国共産党は省や市など各地方行政区画に「委員会」を設置している。「省委」とは「省委員会」の略称。「委員会」のトップが「書記」。地方における共産党委員会は、該当する区域の行政、立法、司法などすべてを指導する。つまり、地方の行政組織たる「地方政府」のトップよりも上の立場だ。例えば省の場合、「共産党省委書記」の下に「省委副書記」が複数存在し、うち一人が省の行政トップである「省長」を兼任する場合が多い。

 

<22>

一般に、今後は「非党人士」の言い方をしないようにする。特定の場合において、民主党派の身分を強調する必要がある場合には「非中共人士」を使用してもよい。「党外人士」は主に、中国共産党と党外の区別をするための言い方であり、すでに習慣になっているので、引き続き使用してよい。

 

★訳者追記:

中国で、ただ「党」という場合には中国共産党を指す。ただし新華社は「非党人士」の場合、「党」だけで共産党を意味する用法は避けよと指示したことになる。「党外人士」は記事などでよく使われる用語。新華社としては、定着してしまったので「しぶしぶ認めた」といったところか。「人士」とは社会で一定の地位がある人物を指す言葉。

 

<23>

過去の特定の歴史時期についての記述以外、今後は「少数民族の上層人士」の言い方を使用してはならない。

 

※次回は「民族宗教類」に分類された項目をご紹介する予定です。

----------

(編集担当:如月隼人)