悲しき言語「台湾語」 | 如月隼人のブログ
2016-11-23 23:34:46

悲しき言語「台湾語」

テーマ:ブログ

東京の岩波ホールで、台湾のドキュメンタリー映画『湾生回家』が上映されています(12月16日まで)。日本統治下の台湾で生まれ、敗戦に伴い日本に引き揚げざるをえなかった人を描いた作品です。

この作品については、まずはこちらをどうぞ。
https://matome.naver.jp/odai/2147833133885676401

ところで、日本ではこの作品名を「わんせいかいか」と音読みにしています。私は中国語を多少なりともかじったことで、中国語の日本語読みには、なんか抵抗があるのです。「Wansheng Huijia(日本人の耳には『ワンション フイヂア』に近く聞こえる)じゃないと、しっくりこないなあ」と思っていました。


最近になり、ふと気づきました。「Wansheng Huijia」は北京語ベースの発音です。台湾では「国語(グオユー)」と呼ばれる言語であり、この「国語」を台湾に持ち込んだのは、戦後になって台湾にやってきた国民党政権です。


それまでも台湾で話されていた言葉は「台湾語」などと呼ばれます(解説参照)


つまり、「湾生」が台湾で生活していた時期、周囲の人たちが彼らを「ワンション」と呼ぶことはありませんでした。私に台湾語の知識はありませんから、ネットで調べてみました。台湾政府・教育部のサイトにある台湾語主要語の発音一覧を調べてみたところ、「湾生」は「ウァンシン」に近い音のようです。

カナ表記すると似た発音のようですが、中国語系の言葉で音韻認識に極めて重要な声調(1音節ごとのイントネーション)が異なるので、北京語を知らないかつての台湾人は「Wansheng」の発音を聞いても、「湾生」とは認識できなかったでしょう。

ちなみに台湾語では、「家に帰る、ふるさとに帰る」を「回家」とは言わず、「轉(伝)去(デンキー)」と言うそうです。いろいろ調べると、現在の台湾語では「回家(フエカ)」とも言うようですが、おそらくは「国語」から取り入れられた、外来語表現ですね。日日本人が「ゴーホームしようか」と言うようなものですね。


さて、この「台湾語」ですが、考えれば考えるほど、「悲しい歴史」を歩んできた気がするのです。


まず、清朝統治の公用語とは文章語であり、官僚らが使う話し言葉は北京の宮廷で成立した「北京官話」でした。19世紀になると、台湾からも科挙の合格者がではじめたのですが、「台湾土着のことば」が顧みられることはありませんでした。支配階級にとって台湾語は「全くの問題外」だったわけです。


1885年から1945年まで続いた日本の統治時代は「日本語の時代」でもありました。公用語である日本語教育に力が入れられ、台湾人の「母語使用」は次第に厳しく制限されていきました。民間では自らの母語を大切にする動きがあったものの、公的権力が台湾語を大切にすることはありませんでした。


さて、戦後になり国民党政権が乗り込んでくると、「国語」が公用語になりました。学校でも「台湾語」を使った生徒は「罰」を受けました。この状況は1990年代まで続きましたから、戦後になりそれまでの時期に学校教育を受けた人には、「台湾語」が苦手な人も結構いるようです。

とは言っても、台湾人の多くは「公式の場では『国語』を使い、プライベートな場では母語である『台湾語』をよくつかう」という言語生活なのですから、民主化が実現し、台湾の独自性を強調する民進党政権も誕生した現在の台湾では「台湾語」を公用語か公用語に準じる言語に指定してもよさそうです。それが実現しないのです。


いくつかの理由が考えられますが、そのひとつが、中国大陸との関係です。


台湾で公式に使われている「国語」とはすなわち、「中華民国の言語」ということです。「台湾の言語」ではないのです。周知のように中国は「1つの中国」を主張しています。台湾当局が「国語」の地位を相対的に低下させる措置をとった場合、大陸側が「独立を目指して既成事実を積み重ねる行為」と理解することは間違いありません。


台湾にとって大陸との関係はただでさえ「微妙きわまる」のですから、政権側として台湾語の地位を向上させることは、現実として難しいと言わざるをえないのです。


言語の形成には、「権力側の意向」が強く働く場合があります。日本では戦後になり、漢字を簡略化し、かなづかいも、実際の発音により近いように変更されました。中国では漢字を大胆に簡略した簡体字が作られ、定着しました。


ところが台湾では、多くの人の母語である台湾語の「公的な整理事業」が、なかなか進まない状態です。ある言語の正式な書き綴り方を「正書法」と言いますが、台湾語には「正書法」も存在しません。


台湾語の中には、中国語圏以外から取り入れられたとみられる語や、「国語」など北方系中国語とは別の語があります。「正書法」が定められていないこともあり、漢字で書けない語もしばしば出てきます。そんな場合には、ローマ字を用いたり、音の近い漢字を当てたり、意味の近い漢字を用いて、その漢字とは全く異なる読み方をしたりで、個別の対応をしています。つまり、言語として相当に未整備な状態にとどまっているわけです。


かつての台湾の支配者は、台湾固有の文化に無頓着だった。排除すべきものとすらみなした。現在は台湾の独自性を重視する政権が登場するようになったが、政治的な理由で手をつけられない場合もある。


私は台湾語のことを考えるたびに、台湾が歩んできた苦難の歴史が反映されている気がして、しかたがないのです。
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◆解説◆
台湾の言語事情は極めて複雑だ。まず、漢人が移り住む以前からいた原住民族(先住民)の人々は、オーストロネシア語族(マレー・ポリネシア語族)に属する言語を使ってきた。原住民族と言っても政府が認定しただけで16の民族があり、それぞれが別の言語を用いてきた歴史がある。


中国大陸から台湾に移ってきた人の多くは、福建省南部で使われる「閩南語(びんなんご)」系の言語を用いていた。当時の「閩南語」を土台に形成されてきたのが、現在の「台湾語」だ(異説もある)。


さらに、台湾には「客家人(はっかじん)」と呼ばれる人々もいる。客家人は早いケースでは2000年以上昔から、中国北部から戦乱を逃れるなどで南部に移動した人々だ。彼らの母語は「客家語」と呼ばれる。


台湾の人口構成は、閩南系華人(最近ではホーロー人と呼ばれることが増えた)が74%、客家系が12%、戦後になり大陸からやって来た外省人が12%、原住民族が2%程度とされる(混血の場合も多く、大まかな目安)。


台湾政府が「台湾語」の問題について積極的に取り組めない事情としては、記事本文で挙げた理由以外に「それでは客家語をどう扱うか」、「原住民族の諸言語はどうするか」との問題も大きくかかわっている。蔡英文政権は原住民族の言語問題については積極的に取り組むことを表明した。


現在は、閩南系の言語だけで台湾の言語を代表させるのは問題として、「ホーロー語(河洛語)」の呼称を用いる人も増えつつある。


記事本文で参考にした台湾政府・教育部のサイトは「台湾語」の呼称を用いず、「台湾閩南語詞辞典」と表記している。教育部はテスト版として「台湾客家語詞辞典」、「台湾原住民族歴史語言文化大辞典」などのウェブページ公開にも着手した。(編集担当:如月隼人)


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