台湾・蔡英文新総統の就任演説全文(第10回・最終)  | 如月隼人のブログ
2016-05-22 22:36:46

台湾・蔡英文新総統の就任演説全文(第10回・最終) 

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 蔡総統は就任演説の最後の部分で、再び団結と民主について語った。台湾の民主は、党派争いの場となり、問題解決の能力を徐々に失ったと指摘した。その上で、「民主は前進する場合も後退する場合もある」と論じ、台湾は民主を前進させると宣言した。蔡総統は台湾人全体の団結を強調し、自らの支持層に向けた語りかけをしなかった。ただ、演説最後には2012年の総統選での敗北宣言演説を下敷きにしたとも思われる部分がわずかにある(解説参照)。

 1996年の台湾の第1回総統直接選挙から、今日でちょうど20年です。過去20年間、政府と国民社会の努力のもとで、私たちは多くの新興民主主義国家が必ず直面する難関を乗りこえることに成功しました。

 

 その過程の中で、私たちは多くの感動的な時や物語を経験しました。ただ、世界のその他の国とまさに同じく、私たちも焦り、不安、矛盾、そして対立を経験しました。

 

 私たちは社会の対立を見ました。進歩と保守の対立、環境と開発の対立、そして政治意識の対立です。これらの対立は、選挙の時の動員エネルギーを励起しました。ただ、この対立のために、私たちの民主主義は問題を解決する能力を徐々に失ってしまいました。

 

 民主とは1つのプロセスです。各時代に政治の仕事をする者は、自分自身の肩に負わされた責任をはっきりと認識せねばなりません。民主は前進するものですが、民主は後退もするのです。

 

 私は今日、ここに立って、皆さまに申し上げます。民主を後退させることは、私たちの選択肢にありません。新政権の責任は、台湾の民主をさらに次の段階に推し進めることです。これまでの民主は、選挙で勝つか負けるかということでした。現在の民主は人々の幸福に関係することなのです。

 

 これまでの民主は2つの価値観の対決でした。現在の民主とは、異なる価値観同士の対話なのです。

 

 イデオロギーに縛られない「団結の民主」を作ること、社会と経済の問題に対応できる「効率よい民主」を作ること、人々を実質的にケアする「実務の民主」を作ること。これが新時代の意義なのです。

 

 私たちに必要なのは、新時代の到来を信じることです。この国家の主人(である私たち)が固い信念をもってこそ、新時代は必ずや私たちのこの世代の人の手の上で誕生するのです。

 

 親愛なる台湾人民よ。演説はここまでです。改革に着手せねばなりません。この時から、この国を背負う責務は、新政権に渡されました。私はみなさんにこの国の変革を見ていただきます。

 

 歴史はこの、私たちという勇敢な世代を記憶するでしょう。この国の繁栄、尊厳、団結、自信、正義は、すべて私たちの努力の痕跡なのです。歴史は私たちの勇敢さを記憶するでしょう。私たちは2016年、共に国家を新たな方向に導いていきます。この土地にいる1人ひとりが、台湾の改革に参加できたということを、誇りに思うのです。

 

 先ほどの歌の歌詞の中の1つのフレーズで、私はとても感動しました(台湾語で)「今がその日だ。勇敢な台湾人よ」です。

 

 台湾人のすべての同胞、2300万人の台湾人民よ。待っている日は終わりました。今がすなわち、その1日です。今日、明日、そしてそれに続く1日、1日。私たち皆が民主を護り、自由を護り、この国の台湾人を護るのです。

 

 ありがとうございました。

 

**********

 

◆解説◆
 蔡英文氏が総統選に出馬したのは、今回が2回目だった。1回目の出馬は2012年で、現職だった馬英九総統の得票率が51.60%、蔡英文氏は45.63%で敗れた。その前の08年総統選では、馬英九候補側が得票率58.45%、民進党側が41.55%で、蔡英文氏は08年総統選で得票率を引き上げたが、及ばなかった。

 

 同選挙では、多くの支持者の前で敗戦を語る蔡英文氏の演説は「台湾史上、最も風格のある落選の所感表明」などと評価され、名演説中の名演説とされている。現場で取材したジャーナリストの野嶋剛氏も「さすがに感動で目が潤んでしまったほど」(同氏著「台湾とは何か」より)という。

 

 蔡氏は同演説で、当選した馬英九総統を祝福し、国民のためになる政治をしてほしいとの希望を述べた。そして、前回選挙より得票率が伸びたことを「山頂まであと1里だった」と表現。その「1里」がいかに険しいかと力説した。

 

 さらに、支持者に向かって、時おり笑みを浮かべながら、「今夜、皆さんは本当につらいと思います。 本当に につらいなら、その気持ちを吐き出してもよいのです。泣いてもよいのです。でも、落胆してはいけません……。悲しんでもよいのです。でも、あきらめてはいけない……。なぜなら、明日からはまた、4年前と同じ勇気を持って、心を希望でいっぱいにして、進むのです。なぜなら私たちには、この国を背負わねばならない責務があるからです」と語った。

 

 蔡氏は同演説で支持者に向けて、「総有一天、我們会贏得多数人民的信任(いつか必ず、私たちが多くの人々の信任を得る日があります)」、「有一天我們会叫回来(私たちが戻ってくる日があります)」とも語った。

 

 蔡総統は20日の演説で、就任式典の歌にあった「今がその日だ。勇敢な台湾人よ」の歌詞に感動したと語った。4年前の敗北を思い浮かべ、民進党支持者のことが頭をよぎったとしても、不自然ではないだろう。ただ蔡総統は、支持者に対する思いを直接語ることは控えた。

 

 「全台湾人民のための総統」との自分の立場を強く意識しているからにほかならない。

 
 なお、蔡総統の2012年の「敗北演説」は本稿執筆時点で、日本語字幕付きの動画でも見ることができる。是非、ごらんになっていただきたいと思う。蔡総統だけでなく、国の進む道は自分自身の命運を左右することになると実感する、台湾人の政治意識の高さも伝わってくるからだ(https://www.youtube.com/watch?v=2uhNxQutqMk)。(編集担当:如月隼人)
 

 

関連:
台湾・蔡英文新総統の就任演説全文(第9回) 環境問題で国際社会との価値観共有を強調
参考:
蔡英文520就職演說全文(中国語)

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