白石 一文
私という運命について

この作者の本を読むのは初めてでした。一人のキャリアウーマンの29歳から40歳までの人生を描いた小説で、自分もその年代に差し掛かっているので興味を持って手にとった本だったのですが、読みやすい文章と先を読みたくなる構成の本だったので、一晩で一気に読みました。

運命や人との縁、生と死を強く意識した小説なのですが、どちらかというとそういった「人」を描いた部分より、1994年から2005年という時代背景がきちんと描かれているところや、東京や福岡の地理が細かく描かれているところが面白く読めたかなあと思います。会社組織の描写もこまかくて、きちんと取材されているなあと・・。(ここに描かれている会社のモデルはNECなのかなあ、フィクションと書いてはありますが)結末までの構成も、きちんと練られた小説だなあと感じました。

しかし、大手企業のキャリアウーマンで、頭もよく気が強くてしっかりした冬木亜紀というこの主人公にも、彼女を取り巻く周囲の人々にも、心とか気持ちという部分では、あまり共感することが出来なかった。こんな風に運命を強く意識して生きる人はどうもピンとこない。他の登場人物も、女性は美人と形容される人ばかりだし、人にはもっと汚い部分や悪意もあるはずなのにそういうことも全然描かれていなくて、なんだか薄い感じがしました。どうも人物が魅力的でないのです。

「私はあなたのためならなんだって出来るよ」「僕はきみのためならなんだって出来る」まあ、そういったような台詞が何度か出てくるのも、ちょっと違和感が・・・。命にかかわるような病気になった人ならたしかに日々強く生と死について意識するのかもしれないけれど、この作品の中の描かれ方では共感するというところまではいかなかったです。

この小説では、結局は、女は好きな人のために、健康を気遣って、食事を作って、子供を産んで、家を守ってゆく、そういうのが幸せなんですよと、そういうことを言いたいのかなと思えて、その部分も共感できなかったです。

と、批判ばかり書きましたけれど、1994年からの時代背景を振り返ったりするには良い本ですし、色々と自分の生き方を考えさせられたりもしました。文章も綺麗ですし娯楽小説と思わずに、小説の形で作者の思想を読んでいるのだなあと思えば、悪い本ではないです。男性を主人公としたこの作者の本を読んでみたいと思いました。