ファースト・ラブ
ー無償に与えられる愛を君へ・・・ー
「早・・・!!」
「そりゃあ、写真だもん。早いですよ~~五分もいらないわ。」
社の反応に女性は笑って言う。
「ん?あれは・・・?」
何かに気付く社。社の視線の先には黒いコートにマスク、サングラス、帽子をした見るからに怪しい男。
「ああ・・・雑誌記者よ。『BOOST』の。」
「え!?BOOST!?流行を生み出すことも多いが同じくらいに捏造記事も多いという!?」
「そ。明日、うちの映画の取材に来る予定でこのホテルについたらしいんだけど、偶然キョーコちゃんの撮影みてね。制作発表でいなかったはずのキョーコちゃんが監督といるのが気になるらしくって。一体何者かって、あの衣装だし。話を聞かせてほしいって、さっき監督に交渉してたみたいだけど。」
「ええ!?それ・・・ヤバくないの!?もし、瑠璃子ちゃんのために希望のない演技対決させられた事とか、バレたりしたら・・・。」
「だから・・・監督も断ったみたい。激しい捏造させられるのも恐いけど、『極秘の演技対決、敗北者』とか全面に押し出されて名前が売れるの、キョーコちゃんのためにならないからって・・・。」
どうやら、新開はこれでもキョーコのためを思って断ったらしいが、
「はぁああ~~~!すごぉ~~く気持ちよかった~~~!!まだドキドキしてる~~なんだか自画像描かせるフランス王妃のような気分だった~~。」
すごく嬉しそうに感動しているキョーコは
「よかった。気に入ってもらえて。」
「ありがとうございます!監督!!私、こんな高度なメイク今度いつできるかわからないから、これが夢じゃないって確かな証拠がほしかったんです!!それを記念にとってあげるなんて、ああ・・・!新開監督!本当にいい人ですね!!」
本当に心から礼をいうので、良心が痛くなっている新開は笑顔を崩さないものの、
(う~ん・・・困った・・・そんなに喜ばれると・・・。)
なんて思い、それを遠くで聞いているスタッフがつっこむ。
「いい人だとよ・・・。」
「本当にいい人は怪我を負ったいたいけな少女を『当て馬』なんかに使わないよな・・・。」
「まあ、そのお陰で撮影がスムーズに進んだだけどな・・・。」
真実を知るスタッフたちはため息をつきたくなったが、
「ってことにしておきます。」
「え・・・。」
キョーコの言葉に不意を突かれ、新開もうまく反応ができず、
「新開監督・・・?本当は私のこと、『当て馬』に使いましたよね?」
笑顔で新開に問いかけるキョーコ。でも、その笑顔が新開にとっては刃物のようだ。
「違うとは言わせませんよ・・・?私、気付いてるんですから。」
笑顔が消え、真顔のキョーコに新開はお手上げのようで
「悪かった・・・確かに君の言うとおりだよ。すまなかった。」
白状し、謝って、気になったことをきく。
「でも、なんで気付いた?」
「なんで、と聞かれても困ります。だって、私が監督の立場になれば、分かることですから。」
聞くとキョーコは普通の事かのように答える。
「だって、これは映画ですよ?そんなに時間はかけられません。それなのに、そんな内容の中、怪我してる女の子を使おうなんて、私なら絶対に考えないですし、それに、瑠璃子ちゃんの、あの我が侭ぷりだと、業界ではかなりの噂になりそうですから、そんな瑠璃子ちゃんをわざわざ選ぶってことは、困難を予想してまでも、彼女を使う、何か深い理由があるんだと考えたので。だから、突然現れた私を使うなんて、絶対に考えられません。」
そして、淡々と答えていくため、新開は驚く。
(そこまで、分かってるのか・・・。)
キョーコの勘の良さと頭の良さに驚き、関心もした。これがキョーコが病院で気付いたと言う『あれ』だ。
「でも・・・俺は決して君が瑠璃に劣ってるとは思わない。むしろ、演技は君のほうが上手かった。」
何もかもほぼバレている新開は本心を告げると
「当たり前です。」
キョーコは凛として答えた。
「私のほうが上手くって当たり前です。これでも中学の時、演劇部で主役をやったこともあります。でも・・・私は瑠璃子ちゃんに負けてよかったと思います。」
そしてつづけた言葉に新開は彼女が芝居初心者ではないことに知り、
「どうして・・・」
なぜ瑠璃子にまけてよかったのか、と理由を知りたくて聞くと
「だって、私・・・あのまま続けても、敦賀さんの思うツボにはまる自分にムカツクだけだもの・・・。」
表情に少し影を落として言う、キョーコの理由を聞いて、また驚いた。
「私・・・あの時、確かに台本通りの反応はしました。でもあれは、敦賀さんの演技に本当に不意を突かれて、本気で驚いただけだもの・・・。」
「君だけじゃないよ・・・それが蓮のすごいところだ。あいつは相手が蓮に惚れる役なら、本気で自分に惚れさせるし、蓮にビビる役なら、本気で相手をビビらせる。だから、蓮を共演する人間の演技はいつも本物になる。」
「そんなのずるいわ!!私にしてみれば、『あれ』は詐欺です!!誘導です!!遠隔操作です!!念動力です!!私は、私の意志関係なく、あの人に動かされたに過ぎないんです!!手も触れられずに超能力者に首へし折られるスプーンと同じよ!!」
(それがたまらなく悔しいのーー!!)
新開の解説にキョーコは悔しくってしょうがなくなる。
「もし・・・私の演技が褒められたとしても、それは私の実力じゃありません。私は・・・演技なんかさせてもらえなかったんです・・・。」
あれは決して自分の実力ではないとキョーコは言い切る。その言葉に新開はただ目を見開いていたーー。