「ようやるなあ、匂宮は。昔のわしでもあそこまでは」
「東宮におなりかというお立場であられるのに」
「明石の血かもしれぬ、あの一途さは」
お二人の行く末を危ぶむ天空の源氏と柏木でした。
その日は事前に連絡がありましたので準備は万端
整っています。
前回の突然の訪れの時のように、
物忌みのための方違えと皆に心得させてあります。
川向うのお屋敷へと小雪舞う中、匂う宮と浮舟は
舟でこぎだします。
「橘の 小島の色は かはらじを
この浮舟ぞ ゆくへしられぬ」
まる二日の間お二人は誰にも邪魔されずに愛の限りを
尽くされましたご様子です。
そののち薫の君から間もなく京へご引越しの準備が整
いますと連絡があり母君も大喜びしておられます。
ところがある日双方の使いの者が鉢合せをしてしまいました。
薫の君は疑いを起こして警備を厳重になさいます。
とうとう匂宮は山荘に近づくこともできません。
犬にも吠えられ這う這うの体で京へ戻られます。
姫様は匂宮との不倫が発覚した時のことを思うと
もう生きた心地が致しません。考えあぐね疲れ果てて
宇治川へ身を投げようと決心されました。