薫の君は妊婦のしるしの腹帯に気が付いて、
それが痛々しかったばっかりに、すんでのところで
思いとどまりになられました。
かたずをのんで見つめていた天空の源氏は、
「何と間抜けな男だ薫は」
柏木も渋々うなづいています。
翌日、久しぶりに突然匂宮がお見えになりました。
中の君は昨日そんなことがあったのでお召し物は
すべてお着換えになっておられます。
心の内も開き直っていつになく匂宮にお甘えになります。
匂宮も御無沙汰を申し訳なく思っています。
ところが薫の君の移り香がたいそう深くしみついています。
「ななな、何としたこと?この移り香は?これはこれは情けない」
中の君は申し開きもできずに泣くばかり。
相手が薫の君なので口惜しいやらおかしいやら、
口ではさんざん言いますが匂宮の心は複雑です。