向日葵の恋 の続きです☆
「葉桜みたいだね」
「え?」
海の言葉に司が振り返った。
ずっと司を避けていた海が、ある事件の現場で合流して、解決したその帰り道。
いつもよりもずっと続く沈黙を破ったのは海だった。
「司は葉桜みたいだ」
「葉桜?」
聞き慣れない単語に、司は振り返った
「覚えている?この通りって桜並木なんだよ。」
「あ・・・そういえば・・」
今は緑の葉をつけている木々の通りは、一見すると忘れがちだが、そういえば春には桜の名所として有名だった事を思い出した。
「桜の花びらが散ったら忘れられがちだけど・・・それでもずっとそこにあるんだ。また・・・・次の花を咲かすために」
「・・・・・・・・・」
なにか言いたげな司の目をまっすぐと海は見据えていた
「司が薫子の傍でずっと寄り添っている姿・・・羨ましかった。多分、そんなアンタを好きになったんだ。満開の桜じゃなくて、葉桜の司を。」
「海・・・・俺は・・・・君が大事だ。とても・・・・」
家族がいない自分にとって、海は妹の様な存在になりつつあった。
だけど、一人の女性としてずっと心にあったのは
「だけど、俺は薫子さんなんだ」
「うん。知っている」
当然の様にそれを受け止めて、当然の様にそれだけ言うと、海はまた歩き出した。
その背中を司はじっとみていた。
*********************
「ふぅ~・・・・」
「あら、お疲れね、キョーコちゃん」
杏美と蓮のお陰でリテイク知らずになっている現場は、スケジュール進行がとてもスムーズにいっている。
ロケバスの中で座りこんでいたキョーコに、同じく出番待ちの杏美が声をかけてきた。
「あ、桐崎さん・・・お疲れ様です」
「キョーコちゃんの方が疲れているけど、そんなにハードな撮影だったの?」
「まあ・・・・午前はアクションシーンで階段を3往復ダッシュしまして・・・」
演技の最中というだけで、いつもよりも体力を使い、気を抜いた所で疲れがドッときてしまっていた。
同じシーンをこなした蓮はしれっとしていたのが、余計に癪に障る。
「ねえ、ところで・・・コレ」
ロケバスから人がいなくなるのを見計らって、杏美が2枚の白い封筒を差し出してきた。
「え・・・」
「招待状。彼の分とのね」
何の招待状かは聞かなくてもわかった。
白い封筒に書かれた「ウェディング」の文字を思わず凝視してしまう
「あ、ありがとうございます・・・是非伺わせて頂きます」
「ええ、是非」
ほんわかした空気の後
「そういえば、同棲おめでとう」
「え・・・・ッ!」
なぜそれを・・・ッ!と驚くキョーコに、杏美はクスクスと笑った。
「だって・・・彼、すっごいご機嫌なんだもの。判るわよ」
「あ・・・・・・」
ある程度の事情を知られているだけに、恥ずかしくて顔が赤くなってしまう。
先日社が超が付く高級スイ―ツと共に謝罪に来た時も、その場にいた友人二人に散々突っ込まれたのだ。
「お互い、新境地ってやつね」
「はあ・・・まあ・・・」
「それこそ葉桜ね」
「え・・・」
先ほどの自分の台詞を思い出して首をかしげた。
「花が散ったら終わりだと思っていたけど・・違うのよね。そこから新しい関係を築けていく・・・・そういう相手がいる事がすごく幸せなの」
杏美の言葉に、キョーコも口元が緩んだ。
どんな時だって浮かぶあの人がいる事が確かに嬉しくて仕方がない
「そう・・・ですよね・・・ええ・・・」
「とはいえ、お互い恋愛初心者だしね。また先輩たちの話をききに行きましょ?」
「え?」
「次の女子会、来月の4日に決まったから」
「あ・・・はい!」
「同棲の心得でも聞きましょうかね?」
おどけていう杏美にキョーコもつられてクスクスと笑った。
それから雑談をして杏美が出番を呼ばれて出て行って、キョーコも少し疲れが取れたので撮影の見学でもしようとロケバスを出たところで
「あ、京子ちゃん」
いつものごとくのグットタイミングで村雨に声をかけられた。
「あのさ、この近くに有名なイタリアンがあるんだよ。普段は予約取れないんだけど、俺そこのオーナーと仲が良くてさ。特別に席を取れたんだ。夜行かない?」
「え・・・・」
困惑してしまうのは、今日はこの後蓮と約束があるからだった。
今回迷惑をかけた社にごちそうするという名目で、蓮の家で食事をする予定だったのだ。
「あの・・・・ええと・・・」
「何?この後仕事?」
「いえ・・・そういう訳では・・・」
「じゃあイイよね?」
ニッコリと笑う村雨に、キョーコは困った
現場をすっかりまとめあげているムードメーカー的な所は流石だと思うが、正直辟易しているのも確かで、なにより蓮がいい顔を全くしないのだ。
いや、いい顔をしない・・・で済めばいいが・・・
「あの・・・村雨さん、申し訳ないんですが私・・・・」
「最上さん、監督が呼んでいるよ」
何か言いかけたキョーコと村雨の間に入ってきた第三者の声。
誰か・・・何て見る必要もないぐらい自分にはなじみのある声。
「あ・・・・敦賀さん」
「ああ、敦賀さん。ゴメン、今彼女と話していてさ、すぐ行くから」
青褪めるキョーコとご機嫌の村雨
対して蓮はニコニコと笑っていて、穏やかそうな笑顔の裏にキョーコは久しぶりの「似非紳士」の仮面を見た気がした。
「ごめんね、村雨君。最上さんは今日俺と先約があるんだ。」
あっさりと暴露する内容にキョーコはぎょっとした。
「え・・・敦賀さんが、最上さんと?あ・・・事務所の関係で?」
「それもあるし、それもない」
「はい?」
訳がわからないという顔をする村雨を無視して、蓮はキョーコの腕をとる。
「現場の和も大事だけど、それは強制するものじゃない。いい作品を作ろうとすれば自然にそれは出来るものだよ」
そう言って、キョーコを引っ張りながら、ポカンとする村雨の横を通り過ぎる際に
『ちゃんとそのエレメンタールの頭に叩きこんでおけ。今度ちょっかい出したら、本当にぶち殺すぞ』
英語でのその言葉はキョーコには完璧に理解できて、村雨は・・・恐らくほんの少しだけ
つまり
脅されたという事はわかったみたいで
青褪めて固まる村雨を置いて、蓮はキョーコとの腕をとってその場を離れた。
「つ、敦賀さん!今の・・・」
「問題は奴がそこまでの英語力をもっていない事だな。ちゃんと通じていないな、アレは」
「何言っているんですか!問題はあんな事を言ってしまった事で自体です!」
きっと単語では意味が通じているハズだ
カインヒールはまだ正体を公開していないし、もし今の言葉や様子から感づかれたら・・ッ!
「大丈夫だよ」
「大丈夫って・・・」
「彼だって、自分の作品を愛する気持ちはあるだろうから」
それに対して不利益な事を言う事はないとう事だろうか
でも、蓮に対してはまた別の話になるのでは・・・・
青褪めながらそんな事をグルグルと考えていると、じっと自分を見つめる蓮の視線に気付いた。
「な・・・・・なん・・・ですか?」
どうしてだろう。
(一応恋人)に見つめられているだけなのに、冷や汗が流れるのは
「・・・・・・君は本当に隙だらけだよね」
「え」
「今夜のアレは恐らく二人きりの誘いだったんだよ。行っていたらどうなっていたか」
「ちゃんと断ろうと・・・」
「ふぅ~ん・・・・」
全く信用のない表情にムッとしてしまう。
「私だってちゃんと言うときは言うんですから!」
「本当に?」
「本当です!」
「じゃあ、次こんな事があったらお仕置きだからね」
ニッコリ笑顔と共に言われた言葉のギャップに一瞬思考が停止した
「お・・・しおきって・・・」
「ああ、ちゃんと内容は知っておくべきか。浮気したらどうなるか・・・・じゃあ、今夜社さんが帰った後に教えてあげるよ」
「浮気!?」
とんでもない単語に声をあげた。
一体どこでそんな話になったの!?
「一緒に暮したら、浮気はすぐバレるからね?したら承知しないよ?」
たしか、ワタクシの狭く浅い知識を掘り起こしてみる所
それは女性側の台詞では!!??
青くなるキョーコの手を嬉しそうに蓮は握った。
その笑顔を見て思わずついてしまったのは幸せの溜息
花が咲いて
花が散って
散らない花はないけれど
散ってもそれで終わりじゃない
恋は続いていく
葉桜みたいに
~fin~
参加しています☆ぽちっとお願いします☆
↓↓↓