向日葵の恋 の続きです☆
『春は恋の季節だとはよく言ったものよね』
満開の桜を見ながら、薫子が呟いた言葉に海は黙って耳を傾けていた。
ずっと出所していなかった海を学校まで薫子が会いに足を運んだのだ。
『この満開の桜を見るといつも思うのよ。こんなに惜しげなくにエネルギーを使って、盛大に散っていって・・・短い命を散らして行く・・・・恋と一緒よね』
それは薫子の過去が言わせた台詞だと、海は気付いていた。
だから、ずっと薫子が恋に対して距離を置いていたのも知っていた。
そんな薫子の傍で司がずっと見守っていたのも
きっと異質だったのは自分だと知っている
『咲かなければ・・・何も失わずに済むのにね』
そう言った薫子の表情はいつもと違って・・・儚げだった。
*************
カットの声がかかり、息をついたキョーコは杏美がぼんやりとしているのに気付いた。
「桐崎さん?どうしたんですか?」
「・・・・・・ん?・・・今の薫子の台詞を思い出していたのよ」
今回は撮影スケジュールの関係で桜は合成を使う事になっている。
実際には見えない満開の桜がそこにあるように、杏美は顔を見上げた。
「散ったら終わりか・・・・」
「?」
「確かに、散らない花があるなんて思わなかった・・・・終わりの無い恋があるなんて想像出来なかったなと思ってね」
クスクス笑う姿に誰を思い浮かべているのか判って、羨ましく思った。
かつて、杏美が不安の中にいたのをしっている。なのに今はそんな気配全くなくて
自信いっぱい・・・・・
タイミングが合わなくて凹凹の自分とは大違いね・・・・
「はぁああああぁ・・・・」
「あら、大きな溜息。幸せが逃げちゃうわよ」
「・・・・・よく言われます」
自分に逃げる幸せが残っていればの話だけどね。
「ケンカでもしたの?向こうも黒いオーラ撒き散らしているけど」
周囲に人がいないのを確認して、杏美が耳打ちをしてきた言葉にギクリとした。
ちらりと視線をなげれば、いつもと違って周囲に誰もいない状況でたたずんでいる主演の一人。
隣のマネージャーも冷や汗を流しながら気を使っているのが判ってしまい申し訳なくなる。
とはいえ
「・・・・っっいえ・・・・・ケンカすら・・・・・出来ていません・・・・」
ガクリと頭が下がりながら、昨夜の事を思い出すと声も身も小さくなってしまう。
言葉の意味が判ったのか、杏美は頷きながら軽く苦笑した。
「私も以前は、よくすれ違って凹んでいたわ。」
「桐崎さんでもそうなんですか?」
「そりゃあね・・・ご存知のとおり恋愛初心者ですから」
おどけて言うのは、今が余裕のある証拠だと判る。
だから、キョーコも少し身を乗り出して聞いてみた
「・・・・・なんといいますか・・・もう、呪われているんじゃないかってぐらいすれ違っているんですが・・・一度お祓いをした方がいいですかね?」
心の底からの真面目な顔で言うキョ―コに、杏美は首をかしげた
「一緒に住めばいいんじゃない?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「帰る場所が同じなら、すれ違い様がないでしょ?」
私もそれで解消されたのよね。と晴れやかな笑顔の杏美を思わずまじまじと眺めてしまう。
脳裏に浮かぶ光景を慌てて追い出そうとしたが、誘惑と現実がせめぎ合っているのを感じていた。
「キョーコちゃん?」
「あ・・・・・あの・・・桐崎さ・・・」
「何話しているの?二人とも」
何か言いかけたキョーコの声は、明るい第三者の声に遮られた。
会話が会話なだけに、元々周囲に気を配っていた二人は特に慌てる事もなく近寄ってきた人物に笑顔を向けた。
「女同士の内緒話ですよ、村雨さん」
「え~、気になるな~京子ちゃんも内緒?」
「ええ・・・すみません・・・・」
最近、暇を見つけては近寄ってくる村雨にキョーコも笑顔で答えるが
雪花の時は突っかかってくるだけだったのに(主にカインに)、こうまで違うものなのね
確かに元々いい人なんでしょうけど、なんでいつもタイミング良く私が空いている時に声をかけてくるのかしら・・・。
「京子ちゃん、今日はここでラストまでだろ?終わったら皆で焼き肉食べにいこうよ」
「はあ・・・・」
これまたタイミングよく、夜の仕事が入っていない時にタイミング良く誘ってきてくれるのよね。
このタイミングの良さを少し分けて欲しいわ・・・
そんな事を考えながら、惰性で頷こうとするのを遮ったのは杏美だった。
「だ~め。今日は京子ちゃん、私と女同士の約束があるのよ。ね?京子ちゃん?」
「へ・・・・ッ」
覗きこまれてウィンクする杏美の言葉の心当たりがなくて、キョーコは思わず変な声をあげてしまった。
「え~、女同士って・・・俺は入れてくれないの~?」
「ふふっ、ごめんなさいね。また今度行きましょ?」
わ、私、桐崎さんと何か約束したっけ?
ま、まさか、私・・・ッ忘れていて・・・ッ?!
失態に思わず青くなるキョーコに気付かずに杏美と村雨は話を進めていき、気が付けば村雨は監督に呼ばれて去って行った後だった。
「・・・・・・・全く、面倒見がいい男と面倒な男は紙一重ね」
「あ・・・・の・・・」
「キョーコちゃんも、毎回毎回律儀に付き合う事ないのよ?効率よく付き合っていかないと」
効率よく・・・なんて、私には向かない言葉かしら・・・・じゃなくてっ!
「ええと・・つまり・・・さっきのは」
「色々考え過ぎずに、彼の部屋で待っていてあげたら?合いカギとか持っているでしょ?」
「持っています・・・が・・・」
いつでも来ていいから・・と、付き合ってすぐに渡されたカードキーだが、その出番はまだまだ数えられる程しかなかった。
だが
今夜敦賀さん何時に帰って来るのか・・・
「いいのよ。きっとね、帰って来た時に例え寝顔でも見れると嬉しいんだから」
「・・・・・・・・・」
不安なキョーコの表情から気持ちを読んだのか
杏美の言葉に背中を押された気がして、気持ちを決めた。
うん、そうよね
今夜、敦賀さんの部屋で待ってみよう。
例え何時でも起きていて、例え5分でもいいから「恋人」として会いたい
一瞬でもいいから抱き締めて、敦賀セラピーをしてほしい
あと・・・・謝らないと・・・・
心の中で固まった決意に、笑顔で杏美に御礼を言う
そう、今の自分がどれだけタイミングが悪いのか都合よく忘れていて
敦賀さんが別の仕事で途中で上がった時も、気持ちが少し浮ついていて彼の視線の意味に気付かなかった。
「よし、OK!じゃあ、京子ちゃん、次の出番夜のシーンだから休憩していていいよ」
「はい」
まだ日も高い時間帯に一度出番が終わって、息をついた。
他の人の撮影現場を見ながら、さてこの時間帯をどうしようか・・・と思っていたタイミングで
「キョーコちゃん」
「あれ?社さん?どうしたんですか?」
声をかけてきたのは先ほど敦賀さんと一緒に現場を出たハズのマネージャー。
いつもとは違う微妙な微笑みにキョーコは驚き、次に首をかしげた。
「次の出番夜のシーンだよね?3時間近く時間あるよね?」
「へ?ええ・・・」
「じゃあ、ちょっと事務所に来てくれる?呼んでくるように言われてさ」
「え?・・・・・それは・・・かまいませんが・・・」
何で社さんが?
敦賀さんは?
疑問符ばかりが顔に浮かんでいたが、社はさっさと現場の人に事情を説明するとキョーコを連れてタクシーに乗り込んだ。
発車したタクシーの中で、キョーコは黙りこんでしまった社をのぞきこんだ。「あの・・・社さん?」
「・・・・・・・・・」
「ええと・・・・呼んでいるのは椹さんですか?」
「・・・・・・・・・・・ゴメン。キョーコちゃん。」
「はい?」
「俺は・・・・・俺には・・・・”敦賀蓮”を守る使命があるんだ~ッ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
社の涙と懺悔と共にタクシーが停まったのはLMEの事務所・・・・・ではなく
ある高級ホテルの前。
かくして魔王の元に生贄は届けられたのだった。
参加しています☆ぽちっとお願いします☆
↓↓↓