最上冴菜が倒れた事でその場はにわかに騒がしくなったが、不幸中の幸いというべきかここは病院内だ。
すぐに駆けつけた医師によって処置が施された。
極度のストレス、過労、睡眠不足、内臓の衰弱もあるらしく・・・・・さっきは気付かなかったが、気を失った姿は確かに顔色が悪いように見えた。
様子を見る意味でもそのまま入院することになり、事故後で動けない久瀬明人をショーに任せて、キョーコと蓮がその辺りの対応に当たる事になった。
さっきまで怒りをぶつけていた相手なだけに、蓮としてはかなり複雑だが・・・・かといって、キョーコ独りに任せる気ももちろん無かった。
「あの・・・・・僕、先ほど連絡をもらった最上先生の事務所の者ですが・・・・娘さんですか?」
一通りの手続きが終わり、意識を失ったままの冴菜が病室のベッドへ運ばれるのを確認した頃、一人の若い男性がやって来た。
「・・・・・・はい、そうですが・・・」
「ああ、良かった。最上先生、携帯の留守電確認したと思ったら真っ青になって出て行ったので何事かと思ったんですよ。」
これ、先生の荷物です。と言って渡された鞄をキョーコは困惑気に受け取って御礼を言った。
鞄も持たずに飛び出したのか・・・
冴菜は弁護士をしているが、事務所に行った事は無かったし、そこで働いている人にも会った事が無かった。
高木と名乗ったその男の事も名前すら知らなかった。
あの頃は、あの人に拒絶された記憶しかない
「元々ワーカーホリック気味でしたが、ここ2カ月ぐらいは更に根詰めて働いていて・・・・いつか倒れるんじゃないかと心配していたんです・・・」
「2か月・・・・」
「弱音を吐くのが罪みたいに感じている人ですからね、いい機会なんでしっかり休んで欲しいですよ」
確か、明人が帰国したのもその頃だと聞いている。
まっさきに冴菜には会いに行っているハズだった。
また来ますという高木の背中を見送りながら、キョーコは冴菜の鞄をじっと見つめていた。
「元々お母さんは明人さんの家庭教師だったんです」
冴菜の様子を伝えに明人の元へ行くと、薬が効いたらしく眠っていた。
やっと落ち着いた状況になった事もあり、キョーコも蓮に事情を説明する余裕が出来ていた。
いや、時間的な余裕と言うよりも、気持ち的な余裕が・・・・。
何も詳しい事を言えない状況で、何も聞かずに傍にいてくれた。
ここまで自分を連れて来てくれた
そして、自分の為に怒ってくれた
だから・・・全てをちゃんと話したかった。
「お母さんは元々天涯孤独で、でも頭はよかったので大学は奨学金で入って・・・明人さんに会ったのはお母さんが19歳で、明人さんが15歳の時です。明人さんが言うには、明人さんが惚れて猛アタックしたらしいです」
一体どんな恋物語があったのか、自分は知らない
一体どんな時間を二人が過ごしてきたのか、自分は知らない
ただ、自分が知っているのは・・・・・その1年後に二人は関係を持ち、そして、恐らく意図せずに冴菜は身籠った・・・・・キョーコを。
当時冴菜は司法試験を控えた大学生で、何より・・・・明人は高校生・・・未成年だった。
若すぎた二人にとって、相手は巨大過ぎた。
久瀬家は政界にも財界にも顔が利く旧家で、名家で・・・・そんな家にとって、それは「汚点」以外何ものでもなかった。
そして、元々天涯孤独で、学生の身分である冴菜が太刀打ちできる相手でも無かった。
一体どれほどの屈辱的な言葉を振りかけられたのか・・・・
いくばくかの「手切れ金」と「中 絶費」を冴菜に渡し、二度と明人と関わらないという念書を書かせ・・・明人は留学させられて・・・・・二人は引き離された。
そして・・・冴菜は久瀬家から隠れて子供を産んだ。
その理由も、経緯も・・・何を想っての決断か・・・冴菜から語られた事は無い。
「・・・・君は久瀬社長の存在をいつ・・?」
何となく予想出来た範囲ではあったけど、改めて聞くと胸に苦い思いが渦巻いてくる。
女性が独りで子供を産んで育てるという事が、どれだけ勇気いる決断か、どれだけ大変な事か・・・自分には想像する事しか出来ない。
予想だが、キョーコを不破の家に預け続けたのも、久瀬家から隠す目的があったのかもしれない。
だけど、だからと言って・・・という思いも正直ある。
「明人さんはそのまま向こうの大学に進学して、卒業後、久瀬の会社に入社する事でやっと帰国出来たんです。すぐにお母さんの消息を探して・・・私の事を知ったらしいです」
その時の明人の心境はどんな気持ちだったのだろうか
かつて守れなかった恋人が、そして今も忘れられない恋人が、自分の子供を独り産み育てているという気持ちは
いくら家から猛反対されていても
いくら全てにおいて監視され、パスポートを没収されていたとはいえ
もっと・・・戦えたのでは無いか
「最初はウチの客としてキョーコに近付いたんだよ」
会話に乱入してきた新しい声に、蓮とキョーコはハッとドアを振り返った。
「ショータローどこに行っていたのよ」
「仕事の電話だよ。お前と違って俺は忙しいんだ」
だったら帰れ、とつい蓮は毒づいたが流石に胸の内にとどめた。
胸の内まで伝わった訳ではないだろうけど、ショーも蓮を一瞥してフンっとそっぽを向くに止めた。
「一応老舗の高級旅館だからな。お忍びとはいえ、やたらキョーコに優しいし、何度もよく来る客だなと思っていたら、キョーコの父親だったんだからな。あの時は驚いたぜ」
「・・・・・・・ショータローは明人さんに懐いていたものね」
「・・・・・・気味悪い事言うんじゃねーよ」
最初に気付いたのはショータローの母親・・・つまり、女将さんだった。
冴菜と大学時代からの親友だったショータローの母親は、ある程度の事情を知っていた。
元々ずっと隠す気の無かった、そして切り出すタイミングを窺っていた明人は、キョーコに全てを打ち明け・・・・そして、キョーコは自分の母親の過去と父親の事を知った。
最初は驚き・・・困惑して・・・・それでも、母親に受け入れられた事の無かったキョーコには、ずっと求め続けた親の愛情だった。
ずっとずっと求め続けたもの・・・・それが、やっと手に入ると・・・・そう思った。
明人も、同じ事を想っていたのかもしれない。
浮かれていたのかもしれない
甘かったのだ
たび重なる明人の行動に久瀬家が気付くのは時間の問題で・・・・明人が近付いた事で、冴菜が隠し続けていたキョーコの存在に気付くのも、時間がかからなかった。
血相を変えた冴菜が尋ねて来た時、冴菜は会社を解雇された後だった。
久瀬家の圧力だった。
久瀬家はキョーコにも直接、今後明人との親子関係を口外しない旨の念書を要求した。
不破家・・・松乃園を盾にして。
常連に財界・政界の人間が多い老舗旅館には十分すぎる程の圧力だった。
そして、明人はそれらから二人を守る力をまだ持っていなかった。
キョーコを守る為に、契約違反として冴菜を訴えようとする久瀬家を停める為に、再び二人を捨てるしかなかった。
色々詳細を妄想はしているんですが、ここでダラダラ書いても読む方は飽きるよな~と、相当割合い。あくまで蓮キョ話なので☆ただ、割合いし過ぎたかも・・・判らない点があったら教えて下さい(ぺこり)
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