『今年一番の注目作!主演、クー・ヒズリで日米共同制作決定!!』
『クー・ヒズリのライバルにハリウッドの新鋭レイン・ポークス決定。』
『日本側キャスト続々決定!敦賀蓮がクー・ヒズリの部下役』
『最後の主要キャスト決定!レインの妻役に京子抜擢!クランクインは来月から』
世間を騒がす相次ぐ報道を経てとうとうクランクインを迎え、キョーコはこの上なく緊張していた。
世間での注目もさることながら、なんと「父」と慕い「師匠」と敬う「あの」クー・ヒズリとの共演なのだ!緊張するなという方が無理で・・・・しかも・・・・・
「おはよう、最上さん。早いね」
「お、おはようございます!敦賀さん!」
・・・・・敦賀さんとの共演でもある・・・。
「あ、先日はロケのお土産ありがとうございました」
「いや、いつも最上さんには食事の事とかお世話になっているからね。大したモノじゃないけど、気に入ってもらえればよかったよ」
先日、北海道の小樽ロケに行った時、妖精をかたどったガラス細工のオルゴールをキョーコにお土産に買ってきたのだ
「気に入ったなんてもんじゃありません!とっても綺麗で、毎日眺めて聞いています!」
「そう・・・よかった・・・」
甘い甘ーい笑顔の蓮と、頬を染めて喜ぶキョーコ・・・どこかピンクの空気漂う二人の空間を、社は少し離れて眺めていた。
うんうん・・・イイ感じだな・・・・。蓮のヤツ、クー・ヒズリとの共演で緊張していたのか、最近口数も少なかったし、ピリピリしていたけど・・やっぱりキョーコちゃん効果は絶大だな。
というか、あんな空気作っておいて、なんでまだ付きあえていないんだ、蓮のヤツ・・・・
今回の共演で少しは進展してくれればな~・・・と思っていると・・・突然入口がざわついた。
「クー・ヒズリさん入りました!」
一気に現場の空気が変わる。
それだけの大スターで、他の役者と纏う空気も違う。
相次ぐ人間が挨拶をしている中、蓮とキョーコもクーの元へ向かった。
「MR.ヒズリ、よろしくお願いします。」
「・・・・・・ああ・・・君と共演出来るとはね・・・・嬉しいよ、敦賀君。」
しっかり握りあう手と手、合わさる目と目には、伝えきれない程の複雑な思いがお互いこもっていた。
だけど、それを表面には出さず、あくまで単なる共演者とふるまう。
「・・・・・よろしくお願いいたします。Mr.ヒズリ」
「会いたかったよ、キョーコ。こんなに早く君との共演が叶うとはな」
こちらは隠す必要もないので、相好を崩して笑顔でキョーコにハグをする。
一瞬驚いたキョーコだったが、すぐにフニャリと頬を染めて受け入れていた。
無条件で自分との再会を喜んでくれる『父』が嬉しくて仕方なかった。
「・・・・・・・・なあ、蓮。MRヒズリって結婚していたよな?」
二人の様子を見ていた社が、蓮にこそり・・と聞いてきて、蓮は素知らぬ顔で「確か、そうですね」と答えた。
「よかったな。もし、独身だったらキョーコちゃん浚われていたかもな」
にや~と笑うマネージャーに蓮は「冗談じゃない」と心の中で毒づいた。
母を溺愛している父を知っている。けど、それを別としても、俳優としても、一人の男としても、まだまだ父に敵うとは思っていないが・・・・彼女を想う気持ちだけは負けるつもりはない。
まあ、そんな事を言えば「ならさっさと告白しろ」と言われるのがオチだけど。
「クー、日本ではセクシャルハラスメントの問題が最近過敏らしいですよ?過剰なスキンシップは控えないと」
入って来た男性に更に入口がざわめいた。
その存在もさることながら、流暢な日本語に驚いたのだ。
「おお、レインか!大きくなったな!!活躍は耳にしているよ」
クーが笑顔で駆け寄った男性こそ今回のメインキャストの一人であるレイン・ポークス。
去年ぐらいからハリウッドのヒット作に恵まれて、日本でも知名度が上がってきているハリウッド俳優だ。
「嫌ですね、俺はもうすぐ23ですよ?大きくなって当然です」
「ハハハ、そうだな。スマン、何せ子役の頃から知っているからな」
クーがそう言ってレインの背中を叩くのを見て、蓮は先ほどから感じていた既視感の正体がわかった。
そうだ、ハリウッドの子役時代に何度かオーディションで見たことがあった。
会話をした事も無かったし、合格した所を見たことは無かったが、あの後もハリウッドで頑張っていたのか・・・
そして、今の地位を手に入れた・・・・
途中でリタイアした自分とは違って
なんとも言えない気持ちが心の中を渦巻いていく・・・。
「キョーコ、敦賀君、彼はレイン・ポークスだ。日本語が堪能なのは、私と同じく彼の母親が日本人なんだ。」
クーに紹介されて、キョーコと蓮もそれぞれ自己紹介をして握手を交わした。
一瞬レインの自分をじっと見る視線にギクリとしたけど、どうやら気付かれなかったみたいだ。
密かにホッと胸をなでおろしているのもつかの間、聞こえてきた会話に蓮は目を見張った。
「キョーコさんが今回俺の奥さん役なんだろ?キョーコって呼んでいいかな?」
「はい、かまいません。私もレインさんとお呼びしていいですか?」
「レインでいいよ?」
「でも・・・そんな、大先輩を呼び捨てなんて・・・」
「役の上では夫婦なんだから、親密な雰囲気をお互い作っておかないといけないだろ?レインって呼んで?」
おどけてウインクをするレインにキョーコもついクスクスと笑ってしまった。
「わかりました!レインと呼ばせて頂きます」
「ありがとう、キョーコは可愛いね。日本人形みたいだ」
臆面なく言われた台詞に、キョーコは「流石お国柄だけあるわね。慣れているわ」と妙に感心し、笑顔でお礼を言って流していると、何やら隣からピリピリとアンテナが反応が・・・・・・・
おそるおそる横を見ると・・・・
ひいィィィッッッッ!!!!
「つ、敦賀さん……あの…」
「ん?何かな?」
予想通り、さっきまで普通だった敦賀さんがキュラキュラスマイルに!
こ、これは………怒っていらっしゃる…?
え~・・・と・・・・・つまり………
「あ、あの…やはり、失礼ですかね…ハリウッドの俳優様を呼び捨てにするなんて……」
「え………?」
相変わらず蓮の感情には敏感なのに、中身が読み込めていないキョーコの問いに蓮は一瞬言葉を詰まらせた。
確かにキョーコがレインを呼び捨てにする事も面白くない上に、キョーコがアッサリと名前を「キョーコ」と呼ばせる事を許可したのが面白く無いなんて……………言えない。
とはいえ、せめてキョーコが呼ぶのだけでも阻止しておくか…と、いつものごとく先輩面して説得しようと口を開きかけると
「なに、問題ないさキョーコ。レインがいいと言っているんだ。現場の人間との円滑なコミュニケーションは大事だぞ」
ニコニコとキョーコの頭を叩きながら言うクーの言葉に、キョーコも「そうですか」と意識をそちらに移してしまった。
主演であるクーがそういう以上、蓮はこの場では反対を唱える事が出来ない。
キョーコだって困るだろう。
しかも自分は完全な私怨だ。
とはいえ・・・
この人は余計な事を……!
クーとしては蓮思惑など気付かず・・・・というか、自慢の息子がそんなみみっちい真似をするなど夢にも思わず、完璧に悪気の無い善意からの言葉だったのだが、子の心親知らずである。
表面上は普通を装いながら、内面では完全個人的な感情で父に対する恨みを募らせる息子だった。
とはいえ、蓮もレインは「馬の骨」認定はしてはいなかった。
単なるお国柄のリップサービスの一つだと思っていたのだ。
現に他の共演の女優達にも似たような事を言っていたし。
蓮にとってはやはりクーとの共演に神経を集中させていた。
この時はまだ。
35000HITkauzmaru様のリクエストです☆
時間がかかってすみません・・・。さて、何話でまとめられるか・・・。