「あ、あの・・・人違いでは・・・」
せめてもの抵抗と、キョーコは否定してみますが、レンは全く怯みません。
「人違い?ひどいな。君を間違える訳がない」
「え・・・だって・・・・」
あまりにも自信満々に言われて、こちらが困惑してしまいます。
知り合いでさえ、自分に気付きませんでした。
一度会っただけのレンが気付くなんて・・・・。
じりじりと迫ったくるレンに、キョーコは何やら危機感を感じます。
きっと、肉食動物を前にした草食動物はこんな感じなのでしょう。
壁に背中があたり、完全にキョーコは逃げ場をなくしてしまいます。
レンはキョーコを逃がさないといわんばかりに、後ろの壁に手をあててキョーコを囲みました。
「こんなに君に会いたかったのに」
そう言って、もう片方の手でキョーコの手をとって自分の唇にもっていきます。
チュッと音をたてて口づけをされて、手袋越しとはいえキョーコは真っ赤になってしまいます。
ここまで、こんな仕草が似合う人をキョーコは知りません。
そして、普段はされない扱いに戸惑っていました。
「あの時はありがとう。御礼も言えなくてごめんね?乳兄弟にもらった大事なブレスレットだったから、助かったよ」
レンの言葉にあの時の事を思い出し、キョーコはさっきとは違う意味で赤くなりました。
「ああああああああの!ごめんなさい、あんなはしたない真似・・・」
「はしたない?どうして?君のお陰で俺は助かったんだよ?どうして、君が謝るんだい?」
心底不思議そうなレンにキョーコがポカンとしてしまいました。
何事も集中すると周りが見えずに一心不乱になってしまうキョーコに対して、ショーは散々「色気がない」「みっともない真似をするな」「恥をかかせるな」と言ってきました。
こんな風に御礼を言われるなんて思ってもいなかったのです。
「だって・・・・」
「俺にとって大事なものなのに、俺は飛び込む勇気がすぐに持てなかった。君は凄いよ」
「いえ・・・その・・・咄嗟にだったので・・・」
「それは君だから出来るんだよ?」
まばゆい笑顔で言われて、キョーコはますます顔を赤くします。
ここまで手放しで褒められる事なんてキョーコはありませんでした。
「俺だけじゃなくて、あのパーティーで君は色々な人を助けていたよね。人の為に一生懸命になれる君の本質は素敵なものだと思うけど」
さっきもそうだよね?と言われ、キョーコは幸せな気持ちになりました。
自分を認めてくれる人がいる事も、自分を見てくれる人がいる事もとても嬉しかったのです。
胸の奥がくすぐったくなってきます。
「ありがとう・・・ございます」
(こんな素敵な人と話せるなんて・・・・もっと色々話したいな・・・)
キョーコは頬を染めて上目づかいでレンを見上げます。
するとレンが無表情で固まりました。
「あ・・・あの?」
「まいったな・・・その顔は反則だよ・・・・」
口元を押さえて、ほんのり頬を染める姿にキョーコは思わず「可愛い・・・」と思ってしまいました。
つい笑みがこぼれてしまいます。
「君がそんなに可愛いから・・・」
「可愛いって・・・お世辞はいいです」
そんな事言われたことはありません。
「心からの本音だよ?」
「嘘です。ショーちゃんはいつも色気がないって・・・」
「ショーちゃん?」
「私が養女になっている家の跡取りです」
「そいつは眼がおかしいんだよ」
爽やかな顔で毒を吐くレンにキョーコはおどろきましたが、同時に胸のすく思いもありました。
ショーが他に女性を囲っている事は知っています。
色気は外に求めて、家の中の面倒な事はキョーコに押し付けていればいいと思っているのです。
「ありがとうございます・・・。でも、いいんです。ショーちゃんは別に私にそういうのを求めて結婚するわけじゃないし・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
キョーコの何気ない一言にレンは固まりました。
(結婚・・・と今彼女は言ったのか・・・・?)
「そいつは、君の恋人なの?」
「え?!いえ・・・ただ、養夫婦がそう決めていて・・・」
何やら不穏な空気にキョーコはどうしたのか判りません。
ただ、部屋の温度が下がったようなのは・・気のせいではないようです。
「君はそれでいいの?」
俺がいるのに・・・と若干暴走がまた始まりました。
「いいもなにも・・・他に選択肢なんて・・・んっ・・・・」
気がつけば、レンはキョーコの腰を引き寄せて唇を重ねていました。
一度知ってしまった甘い甘い誘惑にレンは何度もキョーコの唇を堪能しました。
角度を変えて唇を合わせ、チュッと下唇を甘噛みします。
そうして、息をつく為にキョーコが唇をひらけばその隙に舌をねじ込めて、さらに深く口づけます。
「ふわッ・・・うぅん・・・っ」
自分の舌を絡められて、キョーコは思わず身じろぎしますが、レンの腕はがっちりキョーコの腰を押さえて抱き締めているので身動きができません。
そうしている間も、執拗にレンの舌はキョーコの舌を攻めてきます。
「は・・・・ぁ・・・ッ・・・・」
やっと唇が解放された頃には、キョーコの唇はすっかり赤くはれて艶やかになっていました。
あまりの激しさにキョーコの瞳はトロンとしていて、ぼんやりとレンを見上げています。
その艶めかしさに、レンの喉が無意識にゴクリと音をたてました。
「・・・・本当に無いの?」
「え・・・私は・・・・・」
ぼんやりと何も考えられませんでしたが、何故か捨てられた子犬のようなレンの表情に何も言えなくなります。先ほどまで夜の帝王のようだったのに、詐欺です。
「ねえ・・・・?」
耳元で話されて、キョーコは背筋が粟立つのを感じました。
本当に詐欺です。
いつの間にかレンからは色気がとりとめなく出ていて、心臓の音が高鳴ります。
もう一度深く、今後は最初から舌を絡められながら唇を交わしますが、あまりの激しさにキョーコは腰が砕けてしまいました。
「・・・・おっと・・・」
ガクッと崩れそうになるキョーコをレンは慌てて支えます。
「ご・・・・ごめんな・・・さ・・・キャッ」
涙目で真っ赤になって謝る姿に、レンはもうどうしてやろうかと思います。
自分を支える為に、ギュッとレンの服を掴む姿にもはや理性なんてありません。
ニヤリと笑うと、キョーコを抱きあげそのまま奥の続き部屋へと運んでいきました。
原作ではありえないスピードくっつきです。
いいんです。パラレルですから!
次回限定です。読まなくても話は通じます。
レン君の暴走は続くよ。どこまでも。