「実は、クオ・・敦賀さんに聞いた事があるんです・・・その時は何かの冗談だと思っていたんですが、23歳の私に会った事があるんだって・・・」
「・・・・・23歳?」
先ほど彼女は21歳だと言っていなかったか
21歳・・・つまりは今の俺と同い年か
本当に変な感じだ
「はい。その時は私、階段から落ちて1週間分の記憶喪失になったと聞かされていたんですが、後になって、実はその期間23歳の私がタイムスリップしてきていたんだって・・く・・敦賀さんが・・・」
「つまり、タイムパラレル・・・平行世界ってやつかな」
以前少し本で読んだだけだったけど、ほんのささいなきっかけで未来が変わり、いくつもの過去と未来が存在する・・・だったかな
という事は、今の俺の未来が目の前の最上さんと同じものとは限らないという事か
そのことに少し残念のようで、ホッとした
「でも、おそらく戻れない期間は同じ1週間だと思います」
「・・・・・どうして?」
「・・・・・・・・・・」
そんな気がするんですと泣きそうにいう彼女に、取り敢えず今日はもう休むよう伝えた
正直俺も頭が混乱して付いていかないし、彼女もずいぶん混乱して憔悴している様に見える
もちろんだるま屋には帰れないから、泊ってもらうことになった
電話では気付かれないだろうと、連絡は彼女が自分で入れていたが・・・・
しかし・・・・一体これは何の状況なんだろう
彼女をゲストルームに案内して、溜息をつかずにいられなかった
酒をあおって寝てしまおう
明日になったら・・・全て元通りになっていないだろうか
らしくもなく、他力本願な考えをしながら、リビングに戻ることにした
「この部屋で寝るの・・・久しぶり・・・・」
ゲストルームで、最上さんがそう呟くのを俺が聞こえるはずはなかった
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トントントン.・・・・・
翌朝、リビングへ行くとキッチンからいい香りが流れてきた
釣られるようにキッチンへ行くと、最上さんが朝ごはんの支度をしていた
それは、よく夕飯を作ってもらう時に見る光景で
ただ、違うのは
「あ・・・・久遠・・・敦賀さん、おはようございます」
「うん・・・・おはよう、最上さん」
少し期待していたが、やはり一晩経っても最上さんは4年後の最上さんのままだった
最上さんは一瞬困った顔をしたが、すぐになんでも無い様に笑顔を向けた
「今、朝ごはんの用意できますからね。今日は何時入りですか?」
「あ、11時にスタジオ入りだから少しゆっくりできるよ。ごめんね、気を使わせてしまって」
「・・・・・いいえ。先にシャワー浴びて来て下さい」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
そういってバスルームへ向かう俺の背中を、最上さんがどんな目で見ているかなんて、気付かなかった
「・・・・・『最上さん』・・・・か・・・・」
ポツリと呟き、朝食作りを続けた
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朝食を食べて、俺たちは今後の事を相談した
意外だったのは、彼女からの申し出だった
「1週間、私を泊めていただく事は出来ませんか?もちろん、家事全般はやりますので。」
たしかに、日々一諸に生活しているだるま家のご夫婦をごまかすのは難しいだろう
最上さんがいうには、4年後はだるま家を出ているらしいけど
もちろん、俺もこの状態の彼女を放っておく事はできないし、仕事もあるからずっと貼りついている訳にはいかない
彼女の様子を知るにも、願ったりだった
「学校は休んでもらう事にして、後は仕事だよね。確か今はドラマの撮影は無かったと思うけど・・・」
「はい、先ほど手帳を落とした事にして、電話で椹さんに1週間分のスケジュールを聞いたんですけど、幸か不幸か、ラジオの収録とバラエティの打ち合わせがあるぐらいでした。後はドラマのオファーがあるからその打ち合わせに来るように言われたぐらいで・・・」
あのドラマに出たのこの時期だったんですね。懐かしい・・・と呟く最上さんに、いつの間に・・・と思ったが、やはりある程度仕事が入っていたのは仕方がない
仕事に穴をあける訳にはいかないけど、どの道後から『17歳の最上さん』には記憶喪失になってもらう事になるんだし、インフルエンザにでもかかった事にしてもらった方がいいかな・・・
そういうと、最上さんはきょとんとした顔をした
「大丈夫ですよ?打ち合わせ内容は細かくメモしておきますし、ラジオは声だけです。」
「え?でも・・・・」
「お化粧して、OLの役作りですって言えば納得してくれますよ」
あっけらかんと言う姿に、つい「確かに」と納得してしまった
彼女の化粧の変貌ぶりは、最近ではすっかり周知の事実となっている
その後いくつか打ち合わせをして、俺は予定よりも少し早めに家を出た
こうして、俺と『21歳の最上さん』との不思議な生活はスタートした
キョーコなら、これぐらいの年齢差なんとかなるのでは・・・?と・・・・