日本卵子学会発表「ZP3遺伝子変異が見つかった難治性不妊症例に対するZPFの臨床的意義」 | 京都IVFクリニック, 木下レディース活動ブログ

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こんにちは! 胚培養士の大野です。

 

今回は、2026年6月に開催された「日本卵子学会」で発表させていただいた内容をご紹介します。

 

以下は、発表者からのレポートです。

 

 

# 第67回卵子学会で口頭発表を行いました

 

先日、埼玉県で開催された第67回卵子学会に参加してきました。

 

会場には全国から多くの医師や研究者、胚培養士が集まり、

最新の研究成果や臨床報告について活発な議論が行われていました。

私自身も多くの発表から刺激を受け、大変有意義な学会となりました。

 

今回、

**「ZP3遺伝子変異が見つかった難治性不妊症例に対するZona Pellucida-Free(ZPF)の臨床的意義」**

 

という演題で口頭発表を行いました。

 

 

## 難治性不妊症例への新たな視点

 

今回ご紹介したのは、治療に難渋していた不妊症例です。

これまでの治療経過を振り返ると、

 

* 卵子の成熟率の低下

* 受精率の低下

* 変性卵の増加

 

といった特徴がみられていました。

そこで詳しく検討を行ったところ、

卵子を包む透明帯(Zona Pellucida)の形成に関わる**ZP3遺伝子変異の可能性**が認められました。

 

 

## ZP3遺伝子と透明帯

 

透明帯は卵子の周囲を覆う膜状の構造で、受精や初期発生において重要な役割を担っています。

 

ZP3はその透明帯を構成する主要なタンパク質の一つであり、

これまでの研究では、ZP3遺伝子の変異によって透明帯形成不全や卵子の機能異常が生じることが報告されています。

 

しかし今回の症例では、顕微鏡で観察できる範囲では透明帯に明らかな異常は認められませんでした。

また、卵子や透明帯の各種計測値を比較しても、大きな形態異常は確認されませんでした。

 

このことから、形態だけでは評価できない透明帯機能の異常が関与している可能性が考えられました。

 

 

## ZPF(Zona Pellucida-Free)の実施

 

そこで、発生能や着床能の改善を期待して**Zona Pellucida-Free(ZPF)**を実施しました。

 

ZPFとは、レーザーを用いて透明帯に開口部を作り、胚を透明帯から解放する技術です。

 

これまでの報告では、

* フラグメンテーション率が高い胚

* 細胞質と透明帯の癒着がみられる胚

 

などに対して有効性が示されており、胚盤胞発生の改善が期待されています。

今回の症例では、ZPF実施後も胚の発育成績そのものに大きな変化は認められませんでした。

 

しかし、ZPFを用いた治療によって妊娠に至りました。

 

 

## なぜ妊娠につながったのか

 

今回の症例では、特に胚盤胞段階でのZPFが有効に働いた可能性が考えられました。

その理由として、

* 透明帯による物理的な制約が軽減された

* 子宮内膜との接着が促進された

* 着床時に必要なエネルギー消費が軽減された

 

などが考えられます。

もちろん現時点では推測の域を出ませんが、ZP3変異が関与する症例において、

新たな治療選択肢となる可能性を示す結果であったと考えています。

 

 

## 分子レベルから考える不妊治療

 

今回の発表では、臨床経過だけでなく、

遺伝子変異によってZP3タンパク質の構造がどのように変化するのかについても考察しました。

遺伝子変異はアミノ酸配列やタンパク質構造に影響を与え、その結果として細胞や組織の機能変化を引き起こします。

 

生殖医療はこれまで形態評価を中心に発展してきましたが、

今後はこうした分子レベルの理解がますます重要になると感じています。

 

形態的には正常に見える卵子や胚であっても、

その背景には遺伝子やタンパク質レベルでの異常が隠れている可能性があります。

 

そうした視点を持つことが、難治症例の原因解明や新たな治療戦略につながるのではないかと考えています。

 

 

## おわりに

 

今回の発表では、ZP3遺伝子変異が関与している可能性のある難治性不妊症例に対して、

ZPFが有効となる可能性を示すことができました。

 

もちろん単一症例から結論を導くことはできませんが、これまで十分に説明できなかった症例に対して、新たな視点からアプローチできる可能性を示す興味深い結果であったと考えています。

 

今後も形態評価だけでなく、遺伝子や分子レベルの視点も取り入れながら、患者様一人ひとりに最適な治療を提供できるよう、研究と臨床の両面から取り組んでいきたいと思います。