「エリザベート」東京公演ももう
千秋楽なのですね。

DVDの発売と聞くと、
もう私、自分の観劇の記録も
どうでもよくなりますが

トートの事、今回どんな風に感じたか
やはり綴っておこうと思います。





エリザベートは作品自体が好きですが
私が何度も観劇した理由は、単純に
井上芳雄さんのトートが見たいからです。

佇まい、歌唱、芝居、
徹底的に作り込んだ上で
完全にご自身のものにして舞台に立つ。
井上さんの真骨頂を発揮されたトートでした。

皆さまは、井上トートいかがでしたか。


私の昨年の井上トートの印象は

初恋の感情豊かで、
冷たさと情熱の揺れ方や
プライドと垣間見える劣情がいとおしくて

ラストの儚く消失するような表情までが
とても若くて新鮮なトートでした。


黄泉の国から響く美しい声。
恋した瞬間の熱。
引き込まれる冷たいまなざし。
マントを翻す誇り高い背中。
妖しく誘う指先。

これは昨年と同じ。

でも全体の印象は少し違いました。

エリザベートにとても優しく
見守っているような甘い余裕を感じました。

井上トートは
舞台に出てくると全てが見所ですので、
キリがありませんので抜粋して。

エリザベートとの出会いの
「愛と死の輪舞」

私はこの曲が好きです。
この愛の告白、すごいんですよ。

♪俺の全てが崩れる
お前の命奪う代わりに
生きたお前に愛されたい
禁じられた愛のタブーに俺は今踏み出す♪

命を返せばお前は俺を忘れるが、
お前の愛を勝ちうるまで追いかけよう♪


城田トートは
この歌詞を全く無視したトートでしたが、
それはそれで良かったし、
井上トートもこの歌詞とおりではないけど
でもとても良かった。

どちらもタブーの愛に堕ちていく罪の意識
はなさそうでした。

「最後のダンス」
これはトートの見せ場だから
どんなに激しくてもその方が盛り上がります。

でも私は最初の
恋した男トートのかしこまった所が
とても印象的でした。

下手の上段から登場したトートが、
階下のエリザベートにお辞儀をするのです。

初対面の舞踏会で
一目惚れした女性にダンスを申し込む
みたいに。

全編でトート閣下の二人称三人称は
基本「お前」とか「あいつ」なのに、

ここだけ、うやうやしくお辞儀したり、
エリザを「あなた」と呼んだり、
フランツも「陛下」と呼ぶ礼儀正しい
トート閣下に
「恋したのねドキドキ」ときゅんとします。


エリザベートの居室「最後通告」のあとに
後ろから登場するトート。

♪エリザベート泣かないで~♪

ここ。
エリザベートは透けるタイプの部屋着で、
なぜかトートまで墨流しのような透ける
衣裳でやって来ます。

なんだか迫る気満々なトートにまた
きゅんとではなくドキドキします。


1幕のラスト。
♪私だけに♪のとても短い3重唱。
素敵だからもっと聞かせて見せてほしい。


2幕の「戴冠式」
ムチをあつかうトートがとてもカッコいい。
昨年は見たときは
「馬車ないのになんでムチ持ってるの!?」
と笑ってしまいそうになりましたが、
もうおかしくなくなりました。

とても似合うので、
もっとムチをもったまま、
踊ったりしてほしいです。


「闇が広がる」は大きな見せ場ですが、
私、もう少し派手な演出の方が好きです。

ルドルフに気を使いすぎな感じでトート、
物足りない。
もっとルドルフをいたぶってほしい。


「ハンガリーの独立運動」も大好きです。

棺の上で
革命家たちにルドルフを引き合わせるところから、
ずっとトートばかり見てしまいます。

意味があるのかないのか、鞭うつ仕草や、
棺から舞台に立つ降りて、

♪今を逃すともうチャンスはないぞ~♪

からのダンスシーン。

上手から
トート一味がEXILEみたいに客席に迫ってきて、
下手でルドルフチームが踊って、
トートが掻き回すところ。

とてもカッコいいので、
もっと踊って欲しいです。

トートは
すぐルドルフをエスコートする役目で
二人とも歩くだけですが、
踊りながら操り導く演出なら
もっと嬉しいのに。


「マイヤーリンク」もルドルフから
トートにキスをする演出もいいですが、
もっとトートの積極性や残忍な感じが
欲しいです。
トートが奪う演出の方が好きです。


今回の井上トート、
余裕があってカッコよく、
所々その余裕が優しさにも見えます。

エリザベート本人が自分を欲するまで
待つ。必ずお前は俺を必要とするはず。

それって今だよね!?って感じで、

エリザベートの居室にやって来たり、
体操室で倒れたエリザベートに迫ったり、

なのに「出てって!」と拒絶される所。

昨年は「まだ違うのか~!!」という
感情がみえてそれも良かったのですが、

今回は拒絶されて退場する佇まいも
とても潔くて素敵でした。

マントがあるときは、
翻すと格好がつきますが、
ドクトルのシーンはマントがないので
難しそうです。
違うんだね、と出ていくトート、
とても包容力ある男に見えましたよ。


とにかく全編、
纏う空気も冷たく美しく圧倒的な歌唱と
芝居で劇場を支配する井上トートです。

DVDになるから、
自分の思い込みや記憶違いも
また確認できて楽しみです。

不思議ですよね。
ちゃんと見たはずなのに、
記憶違いしていたりすること、
結構あります。

でもその時の感動や印象は
嘘ではないんですよね。


井上芳雄さんのトートが、
素晴らしいのはもちろんですが、
なぜか私の心に残る内野さんのトート。

語られる事の少ない
内野聖陽さんのトートです。

「愛と死の輪舞」に
とても忠実に演じていて
作品の整合性と合致していたのです。

「俺の全てが崩れるほどの恋
禁じられた愛のタブーに踏み出す」


私の勝手な推察なのですが。

愛して初めて「孤独」を
知ったのではないかと
いう印象の内野トート。

宮廷で孤独を極めるエリザベートが
幻にみる「死」の具現化としても
このトートは説得力がありました。

ラストの黄泉の国に迎えるキスシーンも
アンサンブルの叫びのような不協和音も

「命ゆだねるのは…私だけ…俺だけ」の
更なるすれ違いの孤独にも
胸震えたのですね。









死ぬことを受け入れるエリザベートも
迎えるトートも
一瞬のキスと抱擁で結ばれると思うのに
更に孤独になる感じ。

井上トートは
昨年も良かったし、今年もまた違う
素晴らしいトートになっていたので、

またいつか再演があれば是非、
孤独と色香の冷たい背中をみたいなと
期待します。


博多、大阪、名古屋公演も
大成功をおさめられますように。

観劇された皆さんの感想も
楽しみに待ちたいと思います。