実は包丁を研ぐのが好きである。


 シャッカシャッカシャッカシャッカ・・・・・・・


 休みの日の午前中、ゆったりとした時間がとれる時に包丁を研ぐ。どうだろう、月に1回くらいはやってるかな?いろいろ雑事がある時は出来ない。気持ちが入らないから。

 実際にかかる時間なんてのはそれほどのものでもないのだけれど、ちょっと出かける前にとか、食事の用意の前にちょっと、とか、そういう合間には出来ない。


 一応、簡易の研ぎ器も持っていて、スリットの間に包丁を挟んで、ザアーーーーっと引っ張れば刃先が研げる便利なモノも持ってはいる。でもほとんど使わない。


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 愛用は、昔ながらの砥石。

 中研ぎ用と、仕上げ研ぎが表裏になっているタイプを4~5年使っている。


 水に砥石を浸して、砥石を水になじませる。シュワーっと砥石の中から細かい空気の粒が吹き出してくる。

 充分になじむまで、コーヒーを飲みながらたばこを一服。


 普段使いの包丁を2本ほど、30分くらいの時間をかけてゆっくり研ぐ。

 表を研いで、裏を研いで。太陽の光の下で刃先の出来を見ながらまた表を研いで、裏を研いで。


 シャッカシャッカシャッカシャッカ と小気味良い音が台所に響く。


 普段は、ラジオやCDの音楽をかけながら流し仕事をするのだけど、包丁研ぎの時はそう言えば何も音楽はかけないね。結構真剣勝負なのかな。


 研いで、水をかけ、刃を見て、また研ぐ。

 この単純な繰り返し。


 時間をかけてゆっくりと包丁を研いでいると、なんだか何も考えていない真っ白な空白の時間が手に入る。

 真剣で、精密なのに、そこには”空”がある。


 そういう瞬間がすきで、砥石を使って包丁を研ぐ。

 ずっとずっと遠い記憶


「包丁を研ぐのは男の仕事だ・・・・・・」


大きな背中のその人は、やはり静かな台所の中で、砥石に向かっていた。




砥石