ユウの小学校の運動会が無事終わり、ちいの幼稚園の運動会の練習が佳境を迎えていた10月4日の29週6日の検診日。

相変わらず鮮やかにエコーを操るK先生が胎児のユキの様子を見て開口一番

「おっ!逆子が治ってる。」

小さく叫んだ。なんやてユキさん、心疾患で、あまつさえ逆子やったんかい君は。

先生が言うには、逆子が治った事で位置的にエコーで心臓がかなり見えやすくなったとの事。

「コレ、今ならしっかり心臓も見られる時期やし、今度の土曜日病棟でエコー見るから、来てな」

週数が行き過ぎると今度は胸骨がしっかり出来上がってしまい、逆に心臓が見えにくくなるらしい。

今しかない、そしてそんな「期間限定」に弱い私。

先生の勢いに乗って

「ハイ行きます、どこへでも」

と返事をしてしまったものの、この土曜の翌日はちいの幼稚園の運動会、父兄は前日準備に駆り出されるのだ、しかし「今が見え時」の娘のエコーのチャンスを逃す訳にはいかない。

運動会準備には夫を派遣し、ユウは習い事、その日家に一人になってしまうちいは私について行く事になった。

さて「町のお医者さん」なら診察室に子供を帯同する位は普通だろうと気軽にナースに

「土曜の病棟検診なんですけど、娘を連れて行っても大丈夫ですか?」

と尋ねるも少々難しい顔をして

「...先生に確認します」

奥に下がって行った、天下の大学病院では子連れ検診は禁忌でしたか、申し訳ない世間知らずの物知らずで、一瞬不安になったが、K先生の診察室のニ診から

「子供?ええよー!」

先生が顔を出したので天下御免でちいを連れて行くことになった。
ちいはまた赤ちゃんが見られるのかと矢鱈と張り切り、何故か一張羅のピンクのチュールレールのスカートか、デニムワンピースかどちらがいいかしらと箪笥から衣装を引っ張り出した。
別に胎児のユキに姉の力の入ったお出かけコーデが目視できる訳もないのだが、張り切っているならまあ良し、良い子にしていてよとデニムのワンピースを着せてやることにした。


しかしこの勘違いオシャレ娘ちいは当日私のトランキライザーとして大変な活躍をしてくれる。



この検診の日、胎児のユキは体重大きさとも標準通り、私の体調も悪阻はそこそこあるものの問題はなし。

心室が一つの状態、肝心の血管の内の一つつが詰まっているような状況でユキの体内の血流は大丈夫か、血液から肺、そして全身に酸素が行かなければ死に至る事くらい高校時代生物の時間を昼寝の時間と侮っていた私にすら解る。
人はそんな状態で生きていられるのか、胎児は育つのかを危惧したが

「胎児は肺呼吸しないし、胎児の時はね、動脈管っていう胎児だけにある血管があって、そこで別の血液の流れを作ってるから、お腹の中にいる分には順調に育つんよ。」

と講釈を受け、もうずっとお腹にいたらいいよ君はと思った。

この「胎児の時にのみ機能する血管『動脈管』」には無理をお願いしてプロスタグランジンというお薬を打ちまくり、誕生後3ヶ月を経過しようとしている今でもユキの命を繋ぐ為に存在してもらっている。

ありがとう動脈管、そして手術の日まで持ってください。