@sin 79「溢れ出る想い 1」 | 青くんの部屋

青くんの部屋

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俺は正直に大野さんの疑問を認めた。
大野さんの顔が歪む。
それは泣きだしたいのを我慢する時の表情。
ニノにまで裏切られてたって知って傷つかないわけない。
俺は自分の気持ちだけでいっぱいで貴方の気持ちを置き去りにしてた。
自分はそんなことしない人間だと思っていたのに、もっと自分は冷静な人間だと思っていたのにあの時、頭がおかしくなるくらい貴方が欲しかった。


「ごめん。 後悔してる。」
『当たり前だ。』


もう傷つけないって決めたのに今更あの事でまた大野さんを傷つけた。
そのまま会話は途切れた。

話したんだ…翔さんに。

じゃあ何で?
翔さんは許さないって言ったの?
そんなハズないよね。
あんたにベタ惚れなんだから。


『ハアー。』


大野さんが大きくため息をついた。


『いい加減帰れよ。』


冷たい言葉。
分かってるけど…辛い。


「じゃあちゃんと食事してよ。
翔さんのとこに戻ったら一番安心なんだけど…。」


あ…
バカだな自分で言っておいて落ち込んでたら世話ないや。


『翔くん家にはもう行かない。』
「どういう事?」
『いずれ分かるよ。』
「なに?何のこと?」
『お前は帰れ!』


大野さんは食器を持ってキッチンまで運ぶ。
俺も慌てて後に続いた。


「大野さん?」
『日本語分かんないの? 俺帰れって言ってるんだけど。』
「分かったよ、帰るけど、ちゃんと分かる様に説明して。
どうして翔さん家に行かないなんて…。」


大野さんの顔を横から見たけど無表情のままで、蛇口を捻っていた。
俺になんか話してくれない?
分かってる事だけど…
…何か…哀しい。
目の前で、大野さんは、ひときは大きく 「ハァー」 とため息をついた。


『別れたんだ。』


大野さんのその言葉を理解するのに、しばらく時間がかかった。





◆◆◆





あの出来事にニノが関わっていたと聞いてショックだったけど、不自然に感じたことが解決した。
縛ったのは潤じゃなくてニノだろう。
余りに意外すぎる発想に潤の事が怖くて信じられなくなっていたけれど、彼一人ではああならなかったんだと思う。
ニノは昔から深い愛情を感じてた。
嬉しかったし好きなのは間違いないけど翔くんのそれとはまるで違う。
ニノにしても潤にしても結局は気持ちを知っていながらどうもしなかったオイラが二人を追い詰めたてしまった気がする。

争い事から逃げておいて
それでも仲良くしたいなんて
オイラはズルいヤツだった。

シャワーを浴びる為に着替えを取りに寝室に向かった。
そこへ潤が追いかけてきた。
意外だ。
躊躇してここには入って来ないものだと思っていたから。


『どういう事?』
「何が?」



分かっていながらとぼけた。
彼の熱を感じる。
俺たちが別れた理由を潤に言いたくなかった。
自分でも持て余しているこの感情を。


『翔さんが…すごく怒ったの?』
「…まあ普通に怒ったけど、俺が望んだことじゃないってちゃんと分かってくれたよ。」
『じゃあ何で?』

「それって潤くんに説明しないといけない事? 俺らの問題だ。」
『…そう…だけど…。』


潤を押しのけて浴室に向かう。


「鍵、ポストに入れといてくれればいいから。」



脱ごうとしているところにさらに潤が追ってくる。


「ちょっ…。」
『俺も関係なくないでしょ。』
「何言って…。」
『俺あんたが好きなんだよっ。
それなのに…別れたって聞いて、何ともないわけないでしょ。
理由は? なんで?』


潤に掴まれた腕が熱い。
そこだけ火が付いたみたいに感じる。
そしてそれは俺の全身へとジワジワ這い上がって行く。
サトは…
いつもジュンといたいと望んでいた。
彼にしがみついて泣いた記憶。
一度や二度じゃない。
それは俺の記憶じゃないのに、潤にこのまましがみ付きたいような衝動を巻き起こしていた。


『大野さん?』
「離して…。」


潤がじっと見ているのが分かった。
耐え切れないなら振り払えばいいににオイラには何故だかそれが出来なかった…







*****************
前世








周りの視線が痛い。
いたずらに媚びる者取り入ろうとする者
突然の態度の変化に正直戸惑っていた。
カズまで、いざという時の為に衣装を新調しようと言う。
私がどれだけ否定しようと、周りは額面通りに受け取ってくれない。
一番つらいのは、ジュンの私を見つめる視線が熱を持っている様に感じてしまうこと。
そんなハズはないと思うのに不安は広がってゆくばかりだった。

ジュンはどんな時でも味方になってくれた。
正義感が強くとても親切だった。
肩身の狭い思いをしていた私にとってどれ程頼もしくありがたかったかしれない。
とても優しい友人。
それなのに私には彼に返せるものは何もなかった。

周りが勘違いして取り返しがつかなくなる前に話さないといけない。
姫巫女にはならないと。
大切な友達を失うのかも知れない。
何も返せないまま嫌われるのかも…
もしかしたらもうここに居られなくなるかもしれなかった。
そうしたらショウとの約束は果たせなくなる。
しかし、このままではただ噂ばかり広がってしまうから、どこかで終止符を打たなくてはいけなかった。

でも、いざ言うとなると気分が落ち込み、緊張しすぎて気持ちが悪くなってくる。

そんな哀れな私の姿を見て最初に口を開いたのはジュンの方だった。



『心配しなくても大丈夫だから。』
「…。」
『しばらくすれば噂も落ち着くよ。』


私を安心させるように、少しお道化たように優しく告げられた。
私は何を心配していたんだろう…
始めから素直に相談すれば良かった。
ジュンが私を本当に困せた事なんて一度もないのに。

緊張の糸が切れて泣きだした私を、安心させるようにジュンが優しく抱きしめてくれた。