小説「恋するプリンセス ~恋してはいけないあなたに恋をしました~」あらすじ&目次

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14 黒衣の魔力戦闘部隊
第175話 緊急事態

 

 

 マーサが暗い後宮を駆け足で走る。エリー王女とサラが眠る部屋の重い扉を開け、二人が眠るベッドへ駆け寄った。

「エリー様、緊急事態です。今すぐお支度を」

 エリー王女を優しく揺すりながら、耳元で声をかける。
 いつもと違う様子を感じ取ったエリー王女が、ハッと目を覚ました。

「どうしたのです?」

 隣で眠るサラを起こさぬよう、声を潜めマーサに尋ねた。

「落ち着いて聞いてください。今、王都では――」

 マーサは神妙な面持ちで状況を説明を行う。その内容にエリー王女は両手を口に当て、悲痛な表情を覗かせた。

「そんな……! 皆さんは無事なのですか?」
「避難はしているようですが、全員無事とはいかないかもしれません。エリー様も直ぐにお支度を。いつでも逃げられる準備が必要です」
「わかりました。サラ、起きて下さい。サラ……」

 隣でスヤスヤと眠るサラを起こし、サラにも状況を簡単に説明した。サラが暮らすK地区はまだ爆発が起きていないということだったが、血の気が引いたように顔を青く染める。

「お父さん、お母さん……」
「今は皆さん避難をしていらっしゃいます。ご無事を祈り、お着替えをしながら気持ちを落ち着かせましょう」

 マーサはサラを安心させるように微笑んだ。

「……はい。そうですね」

 二人は急いで着替えを済ませると、後宮内の建物から中庭に出た。

「空が赤い……」



 エリー王女は視界に飛び込んできた光景に息を飲む。
 夜中だというのに、空が赤く染まっている。そこからは炎は見えないものの、その明るさに規模の大きさが窺えた。
 エリー王女は隣に立つサラの腕を掴み、瞳を揺らす。

「エリー様。ディーン様と共にこの国から離れるようにと陛下から言伝てが今、参りました」

 マーサが侍女から受け取った手紙をエリー王女に渡した。素早く目を通し、マーサに手紙を突き返す。

「私も皆とここに残ります。一人で逃げるなど!」
「シロルディアの馬車であればデール王国も手を出されないとのことですので、私共のことは気になさらずお逃げ下さい!」

 マーサは険しい表情で訴えた。

「エリー、あなたはこの国にとって必要な人なの。ここに残ったとしても何も出来ないわ。だけど、逃げて生き延びることが出来れば必ず道は開ける。大丈夫、きっとアランもアルバートも直ぐにエリーの所へ戻るはずだから」

 サラもエリー王女を説得する。エリー王女は自分が大切な人達を残して逃げるなど考えたくもなかった。

「出来ません……そんなこと――」
「セイン様だってきっとエリーの所に来てくれるわ。だから今は陛下の仰る通りにすべきよ」

 愛するセイン王子の顔が脳裏をよぎる。胸の前で両手を握り締めて、瞳を閉じた。

「……いえ、サラ。それでも皆を置いては――」

 サラはエリー王女の言葉をさえぎり、ぎゅっと抱き締めた。

「あなたは王女なの。お願い……逃げて……」
「サラ……」



 ◇

 シトラル国王の執務室を出たディーン王子は、エリー王女と逃げる準備を進めるため部屋に戻ってきていた。

「予定とは違いますが、まぁいいでしょう」

 ディーン王子のやることは、シトラル国王の側にいて寝首を掻くことだった。しかし、エリー王女とこの国を離れてほしいと願われてはそうするしかない。
 予定外ではあったが、エリー王女は人質としても使える。それに戦乱の中でエリー王女を殺すには惜しいとディーン王子は思っていた。

「ディーン様、ポルポルです」

 ソルブが窓からポルポルを入れると、ディーン王子の側の机に止まった。

「状況報告だな。ありがとう、ポルポル……」

 ディーン王子が胸を撫でて手紙を受け取ると、すぐに内容を確認する。ディーン王子の手が震え、顔が大きく歪んだ。

「失敗しただと! なんて使えない連中だ!」

 デール王国が落とされたことと、セイン王子とエリー王女の側近二名、デール王国から数名アトラス王国に向かっているという内容だった。

 恐らく自分のことも知られているのだろう。

「如何しますか?」

 ディーン王子はソファーにどかっと座り、暫く考えを巡らせていた。

「ディーン様。あれを使いましょう」
「あれは……しかし……」
「私は必ずディーン様を誰もが認める王にしてみせます。ディーン様はそのまま第二案で進めて行ってください」

 ソルブはいつもディーン王子を信じ、支えてきた。ここで終わらせるわけにはいかない。強い意思を宿したソルブにディーン王子は重い首を縦に振った。

「わかった……頼んだぞ」
「はっ!」

 ソルブは嬉しそうに笑みを浮かべると、素早く部屋を出ていった。部屋に静けさが広がる。

 一人残されたディーン王子は、深く息を吐いてから瞳を閉じた。
 

 

 

 

 

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