小説「恋するプリンセス ~恋してはいけないあなたに恋をしました~」あらすじ&目次
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11 再会
第138話 充実した日々
セイン王子の側近が決まった話はアランとアルバートの耳にも届いた。
「ぬぇ? ギルが? なんでセイン様の側近に?」
「わからない。魔法薬研究の情報交換会でローンズを訪れてそのままずっと残っているらしい」
K地区にあるエリー王女が住む屋敷のリビングで、アランとアルバートがこそこそ会話をしている。
「まじかー。ギルは知ってるんかな? セイン様のこと」
「どうだろうな。だが、ギルならハルさんより連絡が取りやすい。上手く出会うチャンスを作ることが出来るかもしれない」
「んだよな。でも、エリーちゃんは今、王都から出るのも難しいからな~」
二人が面と向き合って唸っていると、髪を濡らしたエリー王女が顔を出した。
「お風呂上りましたので、お次どうぞ」
「おっけ、サンキュー。んじゃ、俺先入るわ」
エリー王女がアルバートと入れ替わり、アランの目の前のソファーに座る。
「難しい顔をしておりましたが、何かあったのですか?」
「いや、セイン様の側近が決まったという話をしていただけだ」
「では、セイン様はこれから公式に活動されるということになりますね。元気になられたようで安心いたしました。まだご挨拶もしておりませんので、こちらから訪問するべきでしょうか?」
「陛下からは公務はせず、教職に専念するようにと言われている。いずれ、あちらから来てくださるでしょうから、待っていればいい」
アランはそんな可能性は全くないのを分かっていながら、エリー王女に伝えた。
「早くお会いしてみたいのですが……」
「そうだな、俺もだ……。さ、もう夜は冷える。エリーは早く髪を乾かして寝ろ。マーサさんが心配そうに見ているぞ」
「分かりました。明日の授業の準備も残っておりますので、部屋に戻ります。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
何も知らないエリー王女が笑顔でリビングを出て行くと、アランは深いため息を吐く。
教員になり、エリー王女は充実した日々を過ごしていた。しかし、レイとの距離は全く縮まっていない。
アランとアルバートが手をこまねいている間に、年が明けた。
セイン王子は北方を中心に活動をしているらしく、噂しか入ってこない。シトラル国王の誕生祭もあったがやはりセイン王子がアトラス王国を訪れることはなかった。
◇
「なぁなぁ、ローンズの教員と勉強会しねえ?」
柔らかな風が吹く春、アルバートが目を輝かせながら二人に提案をした。
「勉強会ですか?」
エリー王女は首を傾げ、アランはじっとアルバートを見つめる。
「ほら、騎士団も魔法薬研究所もローンズと協同で毎年交流会みたいなことしてんじゃん? それによって騎士団も強くなったし、魔法薬だって色々開発が進んでるからさ、教育方面だって何かしら得るものとかあるんじゃねーかなって」
「まぁ! それは素敵な考えです! どのような教育が進んでいるのかとても興味があります。では早速資料をまとめ、教育委員会を通して話を進めましょう」
一年の月日はエリー王女を成長させてくれた。
教師の立場になったことによって、教育という視点から国としての問題点を発見し、教育委員会と共に取り組みを始めた。主に王都だけではなく、地方などの多くの民間人の知識の強化を試みている。
エリー王女の成長を喜んでいたシトラル国王だが、ローンズ王国との交流については眉間にシワを寄せた。しかし、シトラル国王の気持ちとは裏腹に、話はトントン拍子に進む。
「教員として行くのだから、ローンズ城の者に挨拶は不要だよ。周りに身分を知られないように気を付けなさい。王女と知られてしまえば今の生活は出来なくなるからね」
「はい、お父様。心得ております」
希望に満ちたエリー王女の心を折ることが出来なかったシトラル国王は、エリー王女の出国を認めたのだった。
◇
真夏の日差しが強い頃、教員十五名がローンズ王国を訪れていた。アランとアルバートも同行している。
ローンズ王国に到着したエリー王女は、二年前に来たときとは違う視点でローンズ王国を眺めた。王女ではない視点は、人々の本当の生活を直接肌に感じることが出来る。新しい挑戦にエリー王女の心は弾んでいた。
「遠くからよくいらっしゃいました。さ、まずは校内の見学でもいかがでしょう」
ローンズ王国の教育者達は思っていた以上に友好的である。話によればリアム国王からアトラス王国との交流は大事にするようにと声をかけられたとのことだった。心の中でリアム国王に感謝しながらエリー王女は有意義な時を過ごした。
一日目は疲れているだろうからということで、夕刻前の明るい時間に解散したアトラス王国の教員たちは各々の宿の部屋に戻る。
「ねぇ、エリー。どこ行く? 私、国を出たのは初めてだからわくわくしちゃって」
宿に荷物を置き、同室のサラに声をかけられた。サラの瞳はキラキラと輝いている。同じ教師であり、エリー王女にとって初めての友達だった。
「私もです。きっとアランやアルバートが案内してくださると思います」
「あ、やっぱり二人もついてくるわよね。まぁ慣れてるけど。でもさ、エリー。いーーーーーっつも二人がくっついていたら、恋人も出来ないわよ? みんなエリーに近づきたくても近づけないんだから」
くりくりの癖っ毛を高い位置に結びなおしながら、口を尖らせる。
「恋人は……必要ありません。今はお仕事が楽しいので。ふふふ。サラこそ作らないのですか?」
「私!? わ、私は……私はいいの!」
サラの頬が僅かに赤いのを見て、エリー王女は微笑んだ。
「きっと四人でも楽しいと思いますよ。私はサラと一緒にいるだけで幸せですし」
「んもーーーー!! 私もーーーー!! エリーがいればいいっ」
サラが抱きついてくるとエリー王女もぎゅっと抱きしめた。本当にサラという友人が出来たことはエリー王女にとって大きな幸せだった。
「準備できたか?」
扉を叩く音と共に聞こえる声に二人は体を離し微笑みを浮かべる。
「うん、出来た! 今開ける。エリー、行こう!」
「はい」
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サラ
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