トキ 朱鷺

英名:Crested Ibis

学名:Nipponia nippon

コウノトリ目トキ科トキ属

生息地:中国、韓国、日本

全長:77cm

鳴き声:ガァー

雌雄:雌雄同色

国の特別天然記念物。絶滅危惧ⅠA類(環境省レッドリスト2020)

 

学名は「ニッポニア・ニッポン」。シーボルトが初めて世界に紹介したことから、トキは日本を代表する鳥のように思われているが、実は日本の固有種ではない。

 

 

現在、トキが最も多く生息しているのは中国であり(5,000羽~7,000羽)、日本と同様、一度は絶滅した韓国でも放鳥したトキの野生繁殖が確認されている。

 

日本のトキは2003年にいったん絶滅したが、その後、中国から提供を受けた親鳥から繁殖と放鳥を繰り返し、次第に野生下で繁殖するものも増え、現在は500羽ほどが佐渡島で暮らしている。

 

 

その佐渡島は今、トキをシンボルとした「エコアイランド佐渡」を合言葉に、自然に優しい美しい島を目指しているという。トキと共生するために農薬や化学肥料を減らし、冬の水田にも水をためておくなど、「生き物を育む農法」が行われているのも、その活動のひとつだ。

 

 

しかし、農薬の散布を減らせば雑草取りなどの手間が増える。高齢化が進む農家にとってはこれが大きな負担になるという。そして、トキの保護には人件費など、少なからぬ支出が伴う。「トキの保護にかける金があるならば……」という議論が起きるのもやむを得ないことだろう。

 

 

トキの保護は、単なる税金の無駄遣いなのか。調べてみるとトキが佐渡島にもたらす経済効果は馬鹿にならないことがわかった。

 

2021年8月に公開された佐渡島鳥類研究所の岡久雄二氏の論文によれば「トキを目的として佐渡島へ来島する観光客は年間に約 5.2 万人、トキを対象とした観光がもたらす経済効果は直接効果で約 29.7 億円、総合波及効果は約 44.5 億円と推定」されるという。

 

この個体の背中が黒いのは「生殖羽」の残りであろう。繁殖期になると、頸のあたりの黒い皮膚がはがれたものを自分の羽に塗りつけ、頭、翼、背中が灰黒色になる。これが「生殖羽」と呼ばれるもので、巣で卵を抱くときに保護色の役目を果たすものだという

 

もちろん、「トキの保護」や「生物多様性」はお金だけで語る問題ではない。しかし、44.5億円だ! その経済効果の大きに、なんだかホッとしてしまったのは事実である。


 

【参考文献】

「保全自然観光資源活用が野生下のトキの保全へもたらす正と負の影響」著/岡久雄二氏(佐渡島鳥類研究所)、生態学研究 (Japanese Journal of Conservation Ecology) J-STAGE Advance published date: August 31, 2021。 街・野山・水辺で見かける「野鳥図鑑」(日本文芸社)