令和6年4月13日(土)13:30〜、俳優座劇場にて。


原作/堀川惠子『戦禍に生きた演劇人たち』(講談社文庫より)
脚本/シライケイタ
演出/松本祐子
美術/石井強司
照明/中島俊嗣
音響/山北史郎
衣装/有島由生
お神楽指導/おかめ会・社中
宣伝美術/早川さよ子[栗八商店]
舞台監督/相川聡
制作/横川功
公演協力/移動演劇桜隊平和祈念会
芹沢銈介画提供・協力/芹澤恵子、日本新薬株式会社、東北福祉大学、芹沢銈介美術工芸


出演/
三好十郎:星野真広
八田元夫:能登剛
丸山定夫:南保大樹
森下彰子:宇坂ひなの
薄田研二:豊泉由樹緒
永田靖:奥山浩
園井恵子:橘麦(e-factory)
多々良純:小泉隆弘
仲みどり:中花子
島木つや子:古山華誉
戸川春恵:三森伸子

高山象三:常深怜(フリー)
水谷健三:原野寛之
川村禾門:羽生直人(フリー)

ものがたり/
 戦争一色のなか、自由を奪われ、検束の危険を冒しながら、それでも芝居をやり続けようとした新劇人たち。
 劇作家・三好十郎、俳優・丸山定夫、演出家・八田元夫らが炎のように向かった先は…。

   ※     ※     ※

1945年(昭和20年)8月下旬、八田元夫は世田谷・赤堤の三好十郎宅に広島からやっとの思いでたどり着いた。
大事に抱えてきた風呂敷包みの中には丸山定夫の骨壺があった。

あの惨劇からまだ三週間もたっていない。
挨拶もそこそこに骨壺を前に、二人は言葉少なに稀代の名優を偲び、まずい酒を酌み交わす。

突如男の声が割って入ってくると、時は前年(昭和19年)の秋にさかのぼる。
丸山定夫はしきりに八田元夫を「苦楽座」の演出家として、一緒に芝居をやろうと土下座までして説得をする。しかし数年前検挙投獄されて以来、演出家登録は取り消されていて、鑑札が無ければ演劇活動は出来ないのだ。それでも丸山定夫は諦めない…。

一方、戦局がますます厳しくなるなか、苦楽座も大政翼賛会・日本移動演劇連盟に参加しない限り芝居を続けられない状況に追い込まれていた。せっかく創りあげてきた芝居もこのままでは上演できない…。

「僕は芝居がしたい、したいんです」
「それしかお芝居やれる手段がないんですよね?」

やがて皆の心は一つとなって、広島へと向かうのだった…。

(公式サイトより)



私の記憶が確かならば、今回は再々演だろうと思う。


2019年の東演パラータでの初演も、2022年の俳優座劇場での再演も観ている。(その間に各地の演劇鑑賞会での上演もあったはずだ)


しかし今回は、ひときわしみた。


どこがどう変わったのか、言葉にするのは難しい。解像度が上がった、という言い方が少し近いかもしれない。あるいは、私はロングランの力というものを信じているので、そういう意味での深化もあっただろう。加えて、観ている側の自分がすでに話の行方を知っていることも影響しているかもしれない。


冒頭、「移動演劇 桜隊」という幟旗を掲げて、人々が舞台を行き交う。透明な明るい表情を浮かべながら。


と思うと、痩せた男のもとに別の男が訪れる場面が描かれる。


広島から戻ったばかりの八田が、三好十郎を訪れた場面だ。八田が抱えていた骨壷を置くと、三好はこれに縋りながら声を上げた。


「丸山!丸山!」


八田は、広島での彼の死を語る。彼だけではない、桜隊の俳優たちの悲劇を。たった一発の新型爆弾によって街ごとそっくり焼けてしまったことも含めて。


2人の会話と交差するように、八田と丸山の過去の会話に切り替わっていく。


丸山が自分の劇団で演出するように八田を誘おうとしているのだ。


戦時下での演劇人に対する弾圧。演劇だけでなく芸術や弁論すべてに課される検閲。先の見えない状況の中で、それでも自分には芝居しかないのだ、という思いを抱く人々が、丸山のもとで芝居を続けていく。


彼らは三好十郎の戯曲『獅子』を上演しようとしている。


映画で活躍していた丸山を批判した三好だが、やや偏屈な彼なりに丸山の才能と舞台への愛情を認めていた。丸山の方もそういう三好の才能と作品を信じていた。


『獅子』は、気の優しい娘が母親の決めた資産家との婚礼から逃げて、好きな男のもとに走る話なのだけれど、彼女を案じていた気の弱い父親とのやり取りや俗っぽい親類の様子など、さまざまな場面を立ち上げようとする稽古の様子が何度も描かれる。


娘がひとりの人間として、自分の意思で走っていく。それに向けてはなむけに獅子を舞う父。


稽古は進み各地での公演も経て、なお『獅子』の稽古は続く。


激しさを増す戦禍の下で、劇団に属する人々もそれぞれの事情を抱えながら、それでも芝居を続ける方法を模索していく。苦労の中でも時に酒を酌み交わし、笑い合う仲間たちの姿に胸が熱くなる。


そして、桜隊は広島へと向かった……。


写実的な作品のようだけれど、原爆投下後の「現在」とそこに至るまでの「過去」が交差する描き方がとても好みで、ことにラスト近くに演じられる『獅子』劇中の獅子舞の場面が、切ないという言葉では表しきれない深い思いを感じさせて胸に残った。


物語に登場する八田や三好ともゆかりのあるこの劇団が演じるからこその感慨もあるだろう。桜隊同様、各地で公演を続ける劇団でもある。初演に出演されていてのちに病で亡くなった劇団員への思いもあるはずだ。


劇中の人々の芝居への情熱が舞台上で演じている彼らにそのまま重なるような気がして、すでに知ってるはずの展開なのに涙が溢れてしかたなかった。



俳優座劇場は2025年4月末で閉館になるのだとニュースで聞いた。それまでにまだあと何度かここを訪れる機会があるだろうか。


この劇場でたくさんの大切な作品と出会った。この日の観劇もまた、そういう大切な記憶のひとつとなった。