令和2年1月11日(土)14:00〜、俳優座劇場にて。

作/横山拓也(iaku)
演出/眞鍋卓嗣
美術/杉山至
照明/桜井真澄(株式会社 東京舞台照明)
効果/木内拓(株式会社 音映)
衣裳/樋口藍(アトリエ藍)
舞台監督/関裕麻
舞台写真/森田貢三
宣伝美術/西村教生
制作/劇団俳優座 制作部
主催/劇団俳優座
協力/iaku

出演/
天野 眞由美
山下 裕子
河内 浩
塩山 誠司
清水 直子
若井なおみ
保 亜美
宮川 崇
深堀 啓太朗
後藤 佑里奈
八頭司 悠友

あらすじ/
『例えば彼女が教師じゃなかったら、あの恋愛はスタートしていたのだろうか』
『もしも彼が大人だったら、あの恋は成就していたのだろうか』
小さい囲いの中で形成される数百人のコミュニティ。
彼らの眼に映る世界の先に、実社会はつながっているのだろうか…。
(公式サイトより)


iakuの横山拓也さんの脚本を俳優座の眞鍋卓嗣さんが演出。

チラシの文面や写真からの漠然とした(メロドラマチックな)予想などかすりもしない切実な内容にしっかりと惹きつけられた約2時間。

戯曲・演出・キャストそれぞれの確かさが美しく実を結んだ、見応えのある舞台だった。

高校生。まだ大人とはいえない。けれどもう子どもでもない。さまざまなことを感じ、そして考えながら、理不尽な親から逃げ出す手立てはない。

彼が小学生だったら、迷うことなく抱きしめてなぐさめてやれただろう。

でも三十代の女性教師と男子高校生となると、相談に乗り、相手の心を落ち着かせるためのハグだとしても、いろいろと難しいこともある。

でもたぶん、それは恋ではない。そんな気がした。

そもそも彼女自身、人に言えない相手と関係を持っていたり、そのくせ結婚願望があったりもして、高校生相手に心を動かしてる場合じゃないのだ。

彼の方だって先生が好きと言いながら、それは恋というより頼るべき人を持たない彼がようやく見つけた安心できる場所だったのかもしれない。

父は家を出て居場所がしれない。母はいつも疲れて苛立ち、彼を怒鳴ったり脅したりするヒリヒリするような家庭。もう、無理かもしれない、と彼は呟く。姿を消した彼を皆が探し、その名を呼ぶ。「健、ケーン!」と繰り返される名前が、雉の鳴く声のように聞こえる。

途中で何度か挿入される中年の男と年老いた女性の会話は、少年の父とその母親だと思って観ていると実はそうではなくて。 たぶんこれは意図されたミスリードだろう。

クライマックスで彼女が示した強い意志は観客にとって小気味よかったけれど、それ以上に彼がその先も生きていく上で大事なことだったに違いない。



ヒロインの同僚……というか、不倫相手を演じる宮川崇さん。

不倫相手に対するズルさや身勝手さは悪気がないだけになおさら憎らしくて、でも憎みきれない。そういう男の部分と、教師としての誠実さをそれぞれ丁寧に演じた。

コミュ力高過ぎるスクールカウンセラー。きちんと周囲を見渡せる校長。それとは真逆なタイプの教頭。健に惹かれている女生徒。健の部活仲間。

それぞれにリアリティがあって、いろんな場面で身につまされる。なかでも健の母親を演じた清水直子さんの演技は凄まじかった。

老舗劇団らしいしっかりと細やかで誠実な舞台。よいものを見せていただいた、と思う。