平成29年11月5日(日)13:00〜、KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオにて。

作・演出/タニノクロウ

構成/玉置潤一郎、山口有紀子、吉野万里雄
美術/稲田美智子
照明/阿部将之(LICHT-ER)
音楽/奥田 祐
音響/佐藤こうじ
舞台監督/久保 勲生・加藤保浩
演出助手/松本ゆい
演出部/夛田友見、志澤香緒里、﨑田雅俊
照明操作/阿久津未歩
音響操作/松宮辰太郎
胡弓指導/川瀬露秋
劇中使用曲/川瀬白秋「鶴の巣ごもり」
人形操作/くぼたま(久保勲生、玉置潤一郎)
宣伝美術/山下浩介
制作助手/柿木初美 米田沙織
制作/小野塚 央 

出演/
倉田百福(人形師・人形遣い):マメ山田
倉田一郎(人形師の息子):村上聡一(中野成樹+フランケンズ)
松尾(男):森準人
滝子(老婆):石川佳代
文枝(芸妓):久保亜津子
いく(芸妓):日高ボブ美(ロ字ック) 
三助(三助):飯田一期

声の出演/田村律子

概要/
「むごいもんだろ。さわってみるか?」

都会から遠く離れた山里にある、名もない湯治宿。
そこで人形師の親子が出会う、孤独な人々。
一夜のうちに湧きだすのは、どれほど深い欲望か。
地獄の名を持つ貧しい秘湯に、いま、鮮烈な光が照らされる。
第60回岸田國士戯曲賞を受賞した、
庭劇団ペニノ代表作の国内最終公演。
(劇団公式サイト・チラシ・当日パンフより)

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昨年の岸田國士戯曲賞を受賞した庭劇団ペニノの『地獄谷温泉 無明ノ宿』国内最終公演を観てきた。

ペニノの舞台は、2月に観た『ダークマスター』に続いて2作目。

美術の仕掛けや入浴場面など人目を驚かす要素もたくさんあったけれど、そこに言及する以前に言いたいことがあるような気がする。

面白かった……というより、懐かしい遠い記憶のような、あるいは迷い込んだ夢の中の景色のような不思議な体験だった。


物語の舞台は、北陸のどこかにある人里離れた温泉宿。そこに東京からやってきた人形遣いの親子は、誰かに手紙で呼び出されたのだという。

宿には主人はおらず、近隣の者たちが適宜利用しているということで、呼び出したのか誰なのかわからない。帰ろうとしても、唯一の交通手段であるバスのこの日の便は終わってしまった。親子は仕方なく宿に泊まることになるが……。

さびれた宿の玄関、二階建ての客室、温泉の脱衣所、湯殿、という4つのセットが、それぞれ背中合わせのようになっていて、回転するにつれて場面が変わる。

それぞれ細部までこだわった精密さとリアルさ。古びた質感、細かい調度のたぐい。客間の窓の向こうに温泉の入り口が見えたり、木の葉や雪が舞い散る様子が見えたりもする。脱衣所の先にある湯殿からは湯気が上るのが見える。

そう、実際に湯をはった温泉の湯殿など初めて観た。

これまでにも舞台の上で湯浴みや行水の場面を観たことはあったが、何人もの登場人物の入浴の場面をこれほどじっくり描いた舞台を観るのは初めてだ。

そういう美術や演出の緻密さと大胆さはもちろん圧倒的だったが、それ以上に、奇妙なくらいリアルなのに現実感を欠くような、どこへ向かうのか息を詰めて見つめずにいられない物語と、それを成立させるキャスト陣の演技が凄まじかった。

小人症の父親に献身的に、恭しく仕える息子。歳が離れ過ぎているようにも思えて、本当の親子なのか、あるいはいっそ本当に2人とも人間なのか、などと思いつつ観てしまう。

老婆、目の不自由な男、2人の芸妓、三助。それぞれの台詞も仕草も、美術と同様に奇妙なくらい緻密なリアルさで演じられていく。そんな彼らの(劇中で描かれる)欲望は、「生きる」ということと密接に結びついているように感じられた。

淡々と描かれる欲望の切実さに比して、舞台上の裸体はエロティックというよりごく当たり前の人間の営みとして感じられた。

山田マメさんの演じる百福と彼の人形の睦み合いにも似た人形芝居。そこから目をそらす年嵩の芸妓。三助の元へ忍んで行く若い芸妓。

朝の湯殿は、夜更けの欲望の名残とある種の後悔をまといつかせながら、それでも明るい陽射しを感じさせるのだった。

新幹線が通り、変わっていくであろうその土地で、それでも新しい命が生まれ、温泉宿は残り続ける。

そして人形遣いの親子は、今頃どこを旅しているのだろう。

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今回の東京と富山ツアーをもってこの作品の国内最終公演となるそうだけれど、実はそのあと国外での公演予定もあるらしい。

2018年7月から2019年2月にかけてフランスのパリ市内を中心にした20超の会場で開催される「ジャポニスム2018:響きあう魂」において上演される、とのこと。この作品がフランスでどんなふうに受け取られるのか気になって仕方がない。