平成28年11月3日(木・祝)14:30〜、梅ヶ丘BOXにて。

脚本・演出/
須貝英(monophonicorchestra)

出演/
名和多恵(雑誌記者。県内のアパート在住):佐藤みゆき
柊薫(フリーター。母親と二人暮らし):浅野千鶴(味わい堂々)
東孝介(小学校の用務員。ほぼ家にいない):須貝英

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お前を殺す。
七十分でお前を殺す。
そのための悪巧み。
そのための、夜。

北関東のある場所にひっそり佇む一軒の児童養護施設、「いちじくの家」。
東孝介、名和多恵、柊薫は同い年で、三人ともいちじくの家の出身者だった。
2015年11月、多恵と懇意にしていた女性が突然失踪する。
彼女もいちじくの家の出身者であり、職員として働いていた。
彼女を探し、彼女の残した痕跡を辿っていくうちに、三人は現園長がある犯罪に手を染めている可能性に行き当たる…。

今夜は誰も眠らない。
お前が死ぬまで眠らない。
(公式サイト・配役表等より)

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1984年生まれ(「同級生」なのだから、1984年度生まれ、というべきか?)の3人が立ち上げたユニット 同級生演劇部の旗揚げ公演を観てきた。

小学校のプールの下にある小さな部屋で、同じ児童養護施設で育った男女が奇妙な事件に関わっていく様子を約75分で描く。

この作品と同じ須貝さんの作・演出の『この町に手紙は来ない』は、何処か遠い異国やいっそ違う星の上の出来事のような物語だった。しかし『悪巧みの夜』は、この地上で、この日本で、あるいは自分の住む町の片隅で、人間というものがどれだけ愚かで無慈悲なことができるのか、それにどう向き合うのか、ということについての物語だ。

子どもへの搾取。人身売買。性的虐待。ネグレクト。

友人の行方探しから始まった3人の会話によって、幼くして異国の花嫁とされた少女や性的虐待によって容易に心を開けなくなった男の子の姿が浮き彫りになっていく。

そういう明らかな搾取や虐待だけでなく、施設で育って頼るもののない彼らの鬱屈は、社会においてハンデイキャップを背負いながら暮らし続ける若者の姿を感じさせた。

劇中の3人の個性や背景が物語が進むに従ってしだいに鮮やかになり、第一印象から変わっていく様子も印象的だった。行動力はあるが大雑把な雰囲気の薫が抱える痛み。冷静に見えた孝介の激昂する姿。多恵の迷いと切実さ。それぞれの心の揺らぎがささいな仕草や表情から伝わってきた。

印象に残ったのは、事件の展開や登場人物の名前ばかりではない。

塩素の匂いの立ち込める天井の低い部屋。積み上げられた本や冷蔵庫の中の飲み物。部屋の時計の動き。薫の走らせるスクーターの音。彼らの生きる世界が、手に触れられそうな確かさで眼前に立ち現れる。

脚本や演出の細やかさ、こだわりを感じさせる美術、音や光の確かさなど、観客にとって繊細で濃密な時間となっていた。

以前の作品では近親相姦を、今回の作品では児童虐待を描きながら、観終わって人間に対する希望が感じられるのは、須貝氏のお書きになる脚本の持ち味かもしれない。

旗揚げ公演ということなので、このユニットの今後の動向が楽しみだ。