『桜雪』
町外れの小さな公園にある
たった一本の桜の木
あの時は雪が降っていて
枝に積もった雪が花の様だった
「綺麗だね」
赤いビニール傘の下
君は静かな声で言った
傘に隠れて顔は見えなかったけど
「そうだね」
僕も白いビニール傘の下で頷いた。
まるで雪が音も時間も食べてしまったみたいに
その公園の中は永遠の中にあって
僕らは互いの傘の所為にして
繋げない手をポケットに仕舞った。
未来がどんなに遠くても 儚くても
この桜が咲く頃の話くらいは現実味を帯びていて
二人で見に来ようねと
笑ったのは君だったのに
君だったのに。
僕は一人で満開になった桜を見る。
もう散り始めていて、
それは何となく雪みたいだと思った。
散ってしまう
君の下へ。
思わず視界が滲んで
俯いた瞬間
「綺麗だね」
静かに通る、君の、声。
顔を上げると赤いビニール傘
花びらの雪を積もらせて
笑顔で僕を見る、君
溢れた涙を拭えば
そこには散り逝く桜の雨。
残像だと解っている
それでも僕は無理矢理に笑った
「そうだね」
僕は自分に積もった花びらを拾って
あの日のようにポケットに仕舞った。
二人分の温もりが、そこにある気がした。
大団円
世の中とか、現実とか
そういうものの中での出来事に
大団円なんてありえないと思っています。
昔の人の理屈
「あちらが立てばこちらが立たず」
とはよく言ったもので、
本当に
誰かの幸せは誰かの不幸の上でしか成り立たないのだと
痛感します。
死に際で
「良い人生だった」
なんて言える人間は
とても限られている筈で、
それは人によって長さの違う物差しで計るものだから
まぁ”絶対に無い”とは言えないけれど、
不幸の上に幸福が成り立つなら
その不幸を忘れでもしない限り
”絶対的な幸せ”は完成しないのです。
ちなみに死に際の人間の脳内では脳内麻薬が活躍し
幸福な気持ちになるそうです。
要するに、「良い人生だった」も
厳密に言うと脳が見せる錯覚なのです。
幸不幸は人生を通して同じ分量だけやってくるとも言いますが
それならば自分の人生はこの先なんて幸せが続くんだろう。
なんて馬鹿げたことは考えられません。
世の中には絶対的に勝ち組と負け組がいて
幸せを手にする者と不幸ばかり手にする者とが存在するのです。
これを世間ではよく『籤運が悪い』と言います。
籤運ということになると、
幸不幸は同量ではなくランダムで振り分けられることになります。
その”場”には同じ数だけ幸不幸があって
籤によって自らがどちらかを選び取るのです。
『籤運が悪い』人間はその際いつも不幸を取ってしまう。
だからその人間の人生は不幸で埋め尽くされてしまう。
それこそが人生の真の理なのです。
籤運が悪い人間は、どんなに努力をしても無駄です。
酷いと逆効果になったりします。
幸せになろうと足掻いて、手を伸ばして
掴み取るのはいつだって最上級の不幸。
それなら何もしないで不幸でいるままの方が楽です。
足掻く労力が勿体無い。
この方法論でいくと
「良い人生だった」
と心から言える人間もいそうですが、
人間というものはずっと幸せでいると
それが”当たり前”になってしまいます。
当たり前のものは幸せでもなんでもありません。
もっと幸せを、もっと幸せを、と
幸せを求める欲望に溺れていくのです。
結果的に”幸せかもしれないが何か物足りない”人生になり
満ち足りないまま死んでゆくのです。
大団円なんてありえない。
絶対的な幸せなんてありえない。
人間はいつだって
他人と自分を比較して
”自分より幸せな人”を妬んでいるのです。
僕は籤運が悪い人間なので、もう諦めました。
自分で選び取った全ては
腐って枯れ果ててしまうのだ、と。
ならば僕は自分からは何も選ばない。
寄せ来る不幸の中に沈んでしまえばいいのです。
誰かがそれで幸せになるなら
僕は不幸を享受しよう。
今手にしている小さな幸せも
何れ壊れてしまうのだから。
何もかもに繋がれたこの世界で
この世界は、常に繋がっている。
PCを開けばインターネット
携帯を開けばメール
家に居たって電話が鳴る。
この世界は、繋がっている。
何もかも捨てたって
知らないところで
何かが確実に
まるで伝染みたいに繋がって
情報が行き交う。
そんな世界で
僕はmixiもこのアメブロもツイッターもスカイプも
そしてサイトもやっているけれど
殆ど交流は無い。
無言の世界。
僕だけが独り言を書き連ねるだけの世界。
それでいいと思った。
繋がることは、怖い。
この向こうに人間がいると思うと怖気がする。
僕は無人島から瓶で手紙を流す漂流者みたいに
一方的な関係を望んでいる。
静かな世界。
静寂の音で満たされる世界。
僕の声だけが響く世界。
僕はそれを望んでいる。
そしてそれは
イコール誰からも批難されない世界と言える。
誰も僕を否定しない世界。
誰も僕を傷つけない世界。
僕が望む、独りぼっちの世界。
この世界は何もかもに繋がれている。
そんな世界で
僕は一人で話し続ける。
誰にも聞こえない声で
静かに
静かに。
『永遠の幸せ』
君の声の代わりに
風が窓硝子を叩いて鳴らした。
がたがたと
それは鬼気迫る音だった。
僕は怖くなって君を抱き寄せる。
さっきよりもしなやかさを失った君が
僕を通り越して何処か別の世界を映す。
真っ暗な部屋
濡れている床
体温の無い君
僕の心臓の音
僕らは永遠を誓い合った。
だからもうこの世界には誰も入れない。
二人だけの世界。
待ち焦がれた世界。
絨毯を敷き詰めた窓硝子からは
日の入りも日の出も関係がない。
ほら、永遠を手に入れたよ。
こんなに簡単に手に入れたよ。
誰も僕らを咎めない
誰も僕らを批難しない
理想の世界。
君はもう何も映さないけれど
最後に見たのはきっと僕だから
もう僕以外の誰も見ない。
僕だって君を最後にしたかったから
部屋を真っ暗にしたんだよ。
最後に見た君は笑ってたっけ、泣いてたっけ。
そんな事はもうどうでもいいね。
隙間風に乗って入ってくる音だけがやけに五月蝿くて
あぁ、ほら今17時の鐘が鳴った。
この鐘が鳴ったのは、何回目だったかな。
人形みたいに硬くなった君を抱きしめて
首筋に顔をうずめる。
君の好きな香水の香りとシャンプーの香りが混ざって
それはとても甘い香りになる。
羽虫がそれを目ざとく見つけて飛んでくる。
駄目だよ、これは僕のものなんだから。
酷い目眩がして君の横に寝転がる。
あぁ、もうそろそろなんだな、と思う。
後悔はない。懺悔もしない。
僕らは永遠を誓い合ったのだから。
僕がこのまま眠れば
誓いは完璧になる。
君と永遠という夢の中で笑い合える。
待っていてね。僕の愛しい人。
僕は血で固まった君の髪を撫でる。
僕らは永遠の幸せを手に入れた。
きっと神様も祝福してくれる。
遠くに聞こえるサイレンの音を横目に
僕は君とくちづけをした。
君が笑ってくれたような気がして
嬉しくて僕も笑った。
深夜のベッドタウンにけたたましくサイレンが響く頃
僕らは小指を絡めて眠りに就いた。
何故だろう
俺が必死に追いかけているものは
本当は誰でも持っている筈のもので
自ら捨ててしまったもののような気がしてならない。
捻くれた言葉を繋ぎ合わせても
あの世界には未来永劫届かないというのに。
”愛しい”
それが何なのか本当は知っている。
今の世界の居心地が良いから
遠い場所にそれを置いてきた。
自分の気に入っている人達が
それを手に取って笑っているのを見ると嬉しくなる。
それを手に取るまでの苦難を見ると幸せになる。
あぁ、ちゃんと順序通りにいけばハッピーエンドなんだって。
俺はもう手にすることは出来ないから。
代わりに周りの人達のそれを見て満足する。
自分が手にすることは怖い。
今の世界を失うのが怖い。
つくりもののせかいでも
レンタルのやきましでも
レトルトのまがいものでもかまわない。
むしろにせものであってくれたほうがいい。
”愛しい”
俺が口に出すには
きっとグロテスク過ぎる言葉。
何故だろう
追いかけるふりをして
遠ざけてしまうのは。
すべてのぬくもりが
いまはただ
きもちわるくてしかたがない。
じぶんのたいおんさえ
きもちわるくてしかたがない。
しんぞうがうるさい。
だからかなしみだけ連れて眠る。
なぜだろう
そんな生産性の無い生活が
おわりばかり生産する生活が
とても楽しい。
かなしいくらい楽しい。
楽しいはかなしいから。
なぜだろう
からから からから
まわるのは。