ガルドマンジェからパティシエに配置換え。オリヴィエと出会うのです。
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しばらくガルド・マンジェで働いた後、人手が足らないということでパティスリーに配属された。パティスリーにはオリヴィエという、僕より二つ年上のキュイジニエ(コックさんのこと)がパティシエをやっていた。普通はル・クロくらいの規模のレストランとなると、パティスリーには専門のパティシエがいて、デザートはもとより、パンやアペリティフ(本来アペリティフとは食前酒のことを指すが、一緒につまむ小さなパイ料理などのことも一般にアペリティフと呼ばれる)も担当している。パティシエには、レストランでデザートを担当するパティシエと、お菓子屋で働くパティシエと、2種類いる。どちらも同じパティシエの専門学校を出るのだが、就職する際にどちらかを選ぶのだ。僕の知る限り、レストランのパティシエを選んだ人が、お菓子屋に転向した例は聞いたことがない。彼らに聞くと、レストランのパティシエのほうが、絶対面白いのだそうだ。たぶんお菓子屋で働くパティシエに聞けば、その反対の答えが返ってくるに違いない。
ル・クロにもやがて専門のパティシエが入ってくるのだが、わりと小規模のレストランにおいてはキュイジニエがパティシエを兼ねることが多い。学校でひと通り習っているので、それなりに知識もあるし、デザートをそれほど充実させる必要がなければ、デザートの仕込みと同時に、あるいはそのあとに料理の仕込みも、キュイジニエであれば両方出来るから効率が良いのだ。
デザートのレシピはシェフのバンゾー氏が全部決めるので、そのレシピ通りに作ればいいし、盛りつけに多少のセンスが必要だが、まあこれも料理を盛り付けるセンスがあれば問題ない。デザートは日本で働いていた時も担当していたことがあるので、それほど難しいことはなかったが、パンは初めての経験だったので、ランチの分とディナーの分を毎日焼くのは大変だった。パン生地の仕込みをしないことにはデザートの仕込みもできないし、またオープン間際にパンを焼かなくてはいけないので、毎日時間ぎりぎりの戦いだった。
当時のル・クロのデザートのスぺシャリテは、「fondant au chocolat(フォンダン・オ・ショコラ)」といって、日本でも一時流行ったデザートだが、熱々のチョコレートの焼き菓子をナイフで切ると中からトロトロのチョコレートが出てくるというものだ。もう20年以上前の話だから、当時はフランスでも珍しかったにちがいない。ル・クロのフォンダンは、周りのショコラ生地がサクサクで縦長の形状なので、ナイフを入れると中からチョコレートが出てきながらフォンダン自体がはかなく崩れていくような感じで、ちょっと変わったフォンダンだった。付け合わせにピスタッチオのアイスクリームを添えていたので、チョコレートもピスタッチオも両方大好きな僕にとっても一番のお気に入りのデザートだった。崩れやすく、盛りつけの時に失敗しやすいため、オーダーが通るたびにひとつ余分に焼くので、余ったフォンダンは本当によく食べた記憶がある。
パティスリーを任されていたオリヴィエとはウマが合い、オリヴィエの彼女と、デニと4人でよくバーやブラッスリーに飲みに出かけた。オリヴィエは、僕が分からないフランス語があると、いつもとことん、半ばムキになって分かるまで教えてくれる、なかなかお節介(親切)で本当にいい奴だった。
次回、OLIVIER後編。