””本当の美しさ”” | はんこや夫婦のつれづれ日記

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黄綬褒章受章・現代の名工・なにわの名工・厚生労働大臣検定一級印章彫刻技能士・愛知県印章協同組合技術講習会特別講師・全国印章技術大競技会審査員の「きあんおじさん」が、はんこのうんちく・職人としての生き方・はんこ業界のあり方を綴っております

「美について」より

 

一つの道具が、暮らしに役立っているということが、

とりもなおさず、美しいということではありませんか。

よく切れる、ということが

包丁の場合には、美しさなのです。

よく切れるためには、包丁は錆びひとつなく

光っていなければならないし、

柄もしっかりした丈夫なものでなければなりません。

しかし、その柄には色んな飾りがついているとしたら、

それは包丁の切れ味には関係ないし、

だから包丁の美しさを、

それだけで傷つけることにもなるのです。

 

(以上、花森安治さんの文章)

印章の場合も、押捺した時に

約束し合う双方に、朱肉の色鮮やかさや香しさと共に

美しいと思う心を与えてきた

姿の美しい印影美が、そこにはある

印章文字から発せられる気品と約束への自信を感じさせるものでなければならない

しかし、その印影にいろんな飾りがついているとしたら、

開運、金運、健康運などのために歪められた印章文字

本の挿絵のような付録の絵柄、動物のキャラ

それは、印影の美とは関係ないし、

だから印影の美しさを、

それだけで傷つけることにもなるのです。

 

 

印章と美は、常に作り手により意識されてきたもので

先人はそれを大切に後進に繋いできた

その意識が大切で、その意識は使い手(社会)により育て上げられてきた

だから一生懸命に彫刻を繰り返して、

その腕を上げるために努力してきた

結論として美と出会えることができる職人をつくり上げてきた

たくさんの印章を彫ることにより

生まれてきた美である

また使用者が社会で使うことにより

その美は、作り手に意識されるようになる

そんな当たり前のことが大切で

職人道徳として繋いできた

 

 

今、敢えて言うのは

印章技術は、印章彫刻技術のみではないということ

手彫りであるとか、機械彫りであるとか

どのようにして彫刻したのかが

印章の価値を決める全てではないということ

それを肝に銘じないと

きちんと工藝として

これからの時代を切り拓いていく印章として

生き残れないと強く思う

工藝の精神性とともに

印章の精神性

・・・それは、「おしで」という神との約束から生じた

人と人との約束を

きちんと示す道具であるということ

それこそが根本であり出発点である

だから大陸の律令制度と共に

印章や篆書という印章文字を受け入れてきて、繋いできたのではないだろうか

希薄になってしまった人と人との約束という関係を取り戻す役割が

印章にはある

そして、工藝として歩む必要性が

今、問われている。