今回の報道があり、大変驚いている部分はたくさんあるのですが、いくつかバラバラに記事にしていきたいと思います。

まず、気になったのが読売新聞にあったこのコメントです。

インターネット・ホットラインセンターの吉川誠司・副センター長は「子供の利用するサイトとして交流サイトがEMAの認定を受けるのには疑問を感じる。このまま次々と認定サイトが増えればフィルタリングが実質的に機能しなくなるかもしれない」と懸念を示した。


ちょっと待ってください。インターネット・ホットラインセンターは民間のサイバーパトロール団体ではありません。警察庁の総務に事務局を置き、総合セキュリティ対策会議を通じて設置が決められた、100%警察業務の委託のみで経営が成り立っている組織です。

このことは総合セキュリティ対策会議の議事録を見れば明らかです。外部からどの程度出資を受けるか、民間としての永続性に留意していくかなど、明らかに警察庁からアウトソースするという視点で設置が決められた団体なのです。しかも運営上、警察のインターネット通報を独占的に受け持っており(パトロール業務を行う民間企業はたくさんあるのになぜか随意契約)、一方で民間事業者に関する受付などは一切受託していません。いわば警察庁の「子会社」なのです。

公権力の中心たる警察そのものと言える団体のNo.2が、民間のサイトの表現方針についてコメントすることは不適切としか言いようがありません。


しかも、「交流サイトがEMAの認定を受けるのには疑問を感じる」として、EMAの機能を全否定しています。


EMAへの見解は置いておくとして、公の場でここまで踏み込んだ発言をするネット関係者を見たことがありません(むしろEMAの審査が非常に厳しいという評価が圧倒的だと思います)。にも関わらず、業務の中立性について極めて慎重な立場を要する団体の有力者が、ここまで踏み込んで発言をするというのは異常としか言いようが無いです。組織の中立性に強い疑問を与えることになるのではないでしょうか。


インターネット・ホットラインセンターは、通報を受け付けて分類を行い、警察として対応が必要なものを振り分けるだけの組織です。コミュニケーションサイトについて知見を有する団体でもないですし、対象となるサイトに指導を行う権限も当然ありません。自分の権限外のことについて、組織の中立性にミソを付けてまでこのような発言をするのですから、吉川副センター長という人は、よほど自己顕示欲が強いのか、警察庁からのコントロールが効いているのかどちらかなのでしょう。

そしてよく読むと、「子どもの利用するサイトとして」「EMAの認定を受けるのには」「疑問」となっています。子どもが利用しないサイトであれば、EMAの認定を受ける必要性はありません。「子どもの利用しないサイトとして」認定を受けることはありえないのです。つまり前文は全く無駄な修飾節になるので、つまるところ彼が言いたいのは、いかなる事情のあるサイトであれ、コミュニケーションサイトがEMAの認定を受けるのは疑問という意味になります。

つまり、警察の削除要請という客観的事実からEMAの認定制度設計が疑問だと言うのではなく、「審査を受けることが自体が疑問」という踏み込み過ぎ、かつ、的外れなコメント(制度の不備ではなく、運営者の主観にコメントしている)になっているのです。そんなものを、あえて掲載することに記者の恣意を感じざるを得ません。

恐らく読売新聞の記者が、今回の記事を書くに当たって、有力サイトのことのみならずEMAと絡めた主観的論説を展開したかったのでしょう。だからこそのこの発言は打ってつけなのでしょう。ただ、副センター長発言はEMAが機能していないということを前提にして結論が成り立っているわけですが、EMAは表現そのものに基準を定める機関ではありません。あくまで運営体制をチェックする機関です。一方で警察の解釈に従えば、女性向けマーケティングのように、性差に着目したSNSでさえ、「出会い系サイト」に当てはまることになります。警察の考える表現基準は非常に広範であるにも関わらず、それを当たり前のように前提とし、そのような表現をカバーせずに認定を出したEMAが機能していないとする見解は、ロジカルに見ると非常に無理のある取り上げ方と言わざるを得ません。

また、通常の報道の仕方として、有識者からの賛論と反論を並べるのが通例ですが、警察のしたことについて、警察の「子会社」の有力者がコメントするのは賛論の取り上げ方として不適切です。このようなことをチェックできないデスクの能力にも疑問を感じます。


今回の件を通じて、インターネット・ホットラインセンターという組織のあり方が、色々と怖くなりました。恐らく警察としての姿勢を示唆したかったのでしょう。しかし、通報受付団体が警察のスポークスマンを務めるなんて前代未聞の事態です。そしてそんな危険な警察の姿勢に、表現の自由の最前線に立つ報道機関が、特ダネ欲しさに便乗するというのも異常としか言いようがありません。背筋の凍るようなニュースだと感じています。



関連リンク
改正出会い系サイト規制法について、自主的な勉強会をきっかけにエントリーとしてまとめていたものがありました。ただあまり対外的にお見せするのも勿体無いかなと思い、ある時期から公表を差し控えていました。

しかし、mixiやモバゲータウンに対して、警察からの削除要請があったというニュースがあり、非常に強いショックを受けております。私自身は警察のターゲットになるような立場にはいませんが、このようなことが起きたことは、日本のインターネット全体における危機だと思います。なぜなら、巨大サイト運営企業に対してだけでなく、中小サイト、2ちゃんねるのような個人運営サイトはもちろん、個人の表現の場に対しても警察からの「指導」という言論統制がまかり通ることになることを意味するからです。

今回のエントリーによって、「出会いにつながる悪いサイトがあるから」という極めて安直な印象論を理由に、過剰な規制を肯定するような風潮に警鐘を鳴らす、一つのナレッジとして機能したいと考えています。

以下、自分が昨年秋に書いた内容です。

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出会いを誘う書き込みへの社外モニタリング機関として、EMA(モバイルコンテンツ審査・運用監視 機構)が機能しはじめていますが、今後は出会い系サイト規制法の改正により、警察が中心的な役割を占めるのかもしれません。

先日、パブリックコメントを募集していた、インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律(出会い系サイト規制法)における「「インターネット異性紹介事業」の定義に関するガイドライン案」及び「インターネット異性紹介事業者の閲覧防止措置義務(いわゆる削除義務)に関するガイドライン案」について、警察庁による結果と修正が発表されました。


結果はほとんど変わらずで、警察庁の示すガイドラインに基づいて運用がなされることになります。

しかしこの定義ガイドラインの示す範囲がなかなか強烈であり、日本のネット界に大きな影響を与える内容となっています。


「インターネット異性紹介事業」とは?

出会い系サイト規制法上の定義
異性交際(面識のない異性との交際をいう。以下同じ。)を希望する者(以下「異性交際希望者」という。)の求めに応じ、その異性交際に関する情報をインターネットを利用して公衆が閲覧することができる状態に置いてこれに伝達し、かつ、当該情報の伝達を受けた異性交際希望者が電子メールその他の電気通信を利用して当該情報に係る異性交際希望者と相互に連絡することができるようにする役務を提供する事業

        ↓

ガイドラインでの解説
これを言い換えると、「インターネット異性紹介事業」とは、次の①~④のすべての要件を満たすものということになります。

① 面識のない異性との交際を希望する者(異性交際希望者)の求めに応じて、その者の異性交際に関する情報をインターネット上の電子掲示板に掲載するサービスを提供していること。

② 異性交際希望者の異性交際に関する情報を公衆が閲覧できるサービスであること。

③ インターネット上の電子掲示板に掲載された情報を閲覧した異性交際希望者が、その情報を掲載した異性交際希望者と電子メール等を利用して相互に連絡することができるようにするサービスであること。

④ 有償、無償を問わず、これらのサービスを反復継続して提供していること。


ここで一番重要なのは①の定義です。
① 面識のない異性との交際を希望する者(異性交際希望者)の求めに応じて、その者の異性交際に関する情報をインターネット上の電子掲示板に掲載するサービスを提供していること。

○ 「面識のない」とは、「インターネット異性紹介事業」をきっかけとして知り合うまで、お互いに全く関係のなかった、見ず知らずの関係であることをいいます。

○ 「異性との交際」とは、男女の性に着目した交際、すなわち相手が男であること又は女であることへの関心が重要な要素となっている感情(性的な感情)に基づく交際をいい、性交等を目的とする交際に限りません。

○ 「交際」とは、つきあい、まじわりのことであり、他人と知り合い、交流する行為全般をいいます。直接対面して行うもののほか、電話、手紙、電子メール等の手段による会話、文通等の対面しないで行うものも含みます。

○ 結局、「異性交際希望者」とは、性的な感情に基づいて面識のない異性と知り合うことを希望する者となります。

○ 異性交際希望者の「求めに応じ」とは、サイト開設者がサイトの運営方針として、「異性交際希望者」を対象としてサービスを提供していることを意味します。個々の利用者(書き込み者及び閲覧者)が実際にどのような意図をもってそのサイトを利用しているかにはかかわりません。
ここでいう「運営方針」については、
 ・サイト開設者が示している規約やサイト名その他利用案内、告知等のサイト上の記載等
 ・サイトのシステム(例えば、書き込みをした者の性別を表示する機能の有無等)
 ・利用者の規約等違反行為に対するサイト開設者の措置

等の事項から判断することになります。

なお、異性交際目的での利用を禁ずる規約等に反して利用者が異性交際目的で利用している実態がある場合でも、サイト開設者が異性交際を求める書き込みの削除や当該投稿者の利用停止措置を行っていれば、当該サイトは、基本的には「インターネット異性紹介事業」に該当しませんが、当該書き込みを知りながら放置するなど、サイト開設者がその実態を許容していると認められるときは「インターネット異性紹介事業」に該当する場合があります。

○ 「異性交際に関する情報」とは、「異性交際希望者」が不特定又は多数の異性の注目を集めるために記載する、自分に関する情報、交際を希望する相手の条件に関する情報、交際の方法(電話番号等の連絡方法に関する情報、実際に出会うための日時・場所に関する情報もこれに当たります。)に関する情報等をいいます。

○ 「インターネット上の電子掲示板」には、チャットのように、掲載内容が刻々と変化する形態の掲示板も含みます。



出会い系サイト規制法ガイドラインのキモとなる定義部分は、ずばり「異性との交際」についてです。上記ガイドラインに従うとこういうことになります。

異性交際=
相手が男であること又は女であることへの関心が重要な要素となっている感情に基づくつきあい、まじわり。

ガイドラインでは性的感情に基づくという言葉が頻繁に出てきますが、実はここで言う「相手が男であること又は女であることへの関心が重要な要素となっている感情」のことを性的感情と定義しているのであり、性交や性交類似行為を目的とした感情ではないのです。したがって、性的感情という言葉の定義は相手の肉体的側面にも着目したものでもありません。


性的感情=
  1. 異性に対する性的・肉体的接触やそれを欲求する感情とは関係ない
  2. 理由はともかく異性であることへの関心が重要な要素であればよい

あくまでジェンダーの違いへの関心が重要な要素となっていれば、それはすなわち「性的感情」であり、その感情に基づくつきあいやまじわりというものが「異性交際」に当たるのです。

この定義の広さは、後半部分で連発される「交際」にも直接響いてきます。一般的に「交際」と言うと、恋愛的目的や性的・肉体的な目的を持った人間的交流を指すことになるかと思いますが、ここで言うところの「交際」はもっと広いことになるのです。

ちなみにガイドラインへの回答で「性的感情」「異性交際に関する情報」という用語を頻繁に使って返答しているのですが、この定義が一般的な名詞として用いる語意よりも広い範囲になることは、ちゃんと調べている人しか分からないので、うまく言いくるめられている印象の回答となっています。

以上から、①の範囲に限って言うところのインターネット異性紹介事業者(出会い系サイト)の定義はこうなります。


インターネット異性紹介事業者(出会い系サイト)=
異性であることへの関心が重要な要素となっている感情に基づく交流に関する情報を、インターネット上の電子掲示板に掲載するサービスを提供している者

※②、③、④の定義は当たり前過ぎるので省略



広すぎる定義
やはりこの定義はいくらなんでも広すぎるのではないでしょうか。

例えば、女性向けマーケティングを行うため、相手の性差に着目したメッセージ配信を行うビジネスSNSやマッチングサイトがあった場合や、女性の歴史的・社会的な地位について研究している男性研究者たちが、研究対象として女性を募り、コミュニケーションのやり方等の研究の見地から交流を図るサイトがあった場合においても、「相手が男であること又は女であることへの関心が重要な要素となっている感情」と言い得るように思われます。

つまり、異性に対する社会学的、ビジネス的、科学的側面へ重大な関心を持つ交流サイトも、法規制の対象から外すことができないことになるのです。

そもそもこの定義には重大な欠陥があるように思われます。現代社会において、単純に性差に注目しているからといって、それが性的接触に直結するものではありません。性の持つ意味が、単純に肉体的なものだけでなく、社会的、産業経済的、生物科学的にも重要な意味を持つようになっているなど、極めて多様かつ高度な側面を持っていることを十分に想定していない定義であるように思われます。

ガイドラインは「異性交際目的での利用を禁ずる規約」を定め、運用していれば「インターネット異性紹介事業」からは除外されるとしている救済規定を置いていますが、そもそも「異性交際目的」の定義が広すぎるので、救済として機能していません。男女のビジネスユーザーのニーズをマッチさせることを目的としているサイトで、そのようなマッチングを禁止する規定を設けるわけがないからです。

(2009/4/2 注:やはりこの除外規定の実効性の無さが、mixiやモバゲータウンに対する警察の削除要請という形に反映されたわけです。例えば、裏でスタッフがイケメンキャラを動かす恋愛シュミレーション的なSNSがあり、絶対にオフラインに結びつかない「バーチャル恋愛」が楽しめたとしても、これは相手の性差に着目して成り立つ付き合いということになりますから、「異性交際」の定義に該当することになります。ですから、このような場で、バーチャルな恋愛を熱望するような投稿も削除している運営がなされていなければ、除外規定に当てはまらず出会い系サイトとして認定されてしまうのです。しかし現実問題としてバーチャル恋愛や恋愛ごっこ的なものまで削除しろというのは、出会い系サイトを通じ児童が被害を受ける事態を防ぐことを目的としていた法の制定趣旨(法第1条)からは大きく外れます。実際の被害者が生じることを防ぐのではなく、健全な恋愛道徳観の維持が法の目的と入れ替わってしまうからです。つまるところこのガイドラインを前提にすると、法の立法目的と法の規制手段がかみ合わないことになるのです。)


多くのSNSサイトや掲示板サイト、ブログサイトでは、男女間で会話がなされうるシステム(サイト内メール、スレッド投稿機能、コメント機能)を備えているものの、直接的な出会い系勧誘書き込みを禁止しているところが大半でしょう。ところが、男女で交流するオフ会をしましょうというものだけでなく、男女問わずビジネスマンの交流を図りましょうと呼びかけるものまで禁止対応としているサイトはほとんどないと思われます。

したがって、今回の出会い系サイト規制法ガイドラインの文言を読む限りでは、ネット上のコミュニケーションサイトのほとんどに影響が及ぶことになるのではないでしょうか。


関連リンク
 ネット業界の中でも最も注目が集まるSNS3社、モバゲータウンを運営するディーエヌエー(DeNA)、mixiを運営するミクシィ、GREEを運営するグリーの経営分析について、時系列的な推移を中心にメモ程度にまとめてみました。色々な事業を行う企業もありますが、ここではSNSサイトでの儲け方に焦点を当てて見てみます。

 日経業界地図など、その年の財務資料をベースに企業規模の位置づけを分かりやすく記載した本が刊行されていますが、切り口が業態と売上高比較程度でしかないものが多く、まして四半期ベースの変化まで記載しているものはほとんど無いため、動きの激しいネット業界の情勢を知るには不十分です。結局自分に役立つ資料は自分で作るしかないわけでして、そのような趣旨からこのエントリーを作成しております。

 以下ではネット業界でも特に勢いがあり、色々な参考になるSNS業界に着目して記載していきます。勉強用の片手間な分析でしかないので、ミス等もありえますが、その点はご理解下さい。

きみどりのブログ-売上高・営業利益比較

 SNS3社の売上高・営業利益の推移を比較したものです。ディーエヌエー(DeNA)については、モバゲータウン事業だけでなくモバオクなどを含んだモバイル事業全体の数値です。ミクシィは、求人サイトの「FindJob!」事業を含んだ全社の数値ですので、モバイルSNSという点だけで考える場合は若干割り引いて考える必要があります。グリーは単一事業なのでそのまま「GREE」の数値だと考えていいと思います。上場資料を利用していますが、四半期ベースの記載が平成19年度7月-9月期からしかありませんので、それ以後の数値を反映させたグラフとなっています。

 ディーエヌエーの事業規模の大きさがよく分かります。ディーエヌエーが運営しているのはモバイル事業だけではないため、実際の会社規模ではもっと大きく(意外と他部門も売上が大きい)なります。企業間の規模比較としては圧倒的にディーエヌエーが大きいことになり、潜在的な経営体力の差は、このグラフ以上にあると考えた方がいいでしょう。

 ただ昨今の部門減収・減益はその幅が大きく、先行きが分からない状況となっています。会員数の鈍化ということ以上に経営数値の落ち込みは深刻だと評価すべきでしょう。

 逆にグリーの伸びが光ります。会員数の伸びが増しているという記事を以前に掲載しましたが、会員数の伸びよりも鮮やかだったのは業績の鋭い伸びの方でしたね。四半期ベースの営業利益がすでにミクシィ(全体)を追い越していたというのは、衝撃的な事実です。

 決算数値の出てこない非上場企業は、企業比較をする上で忘れがちですが、そのことを注意しなければならないと改めて感じます。そして動きの激しいネット業界では、四半期ベースで推移を分析しないと、実態が全く分からないばかりか、重大な変化も見逃してしまう点もこの事実が教えてくれているように思います。

 グリーの営業利益率が高い点も見逃せません。広告費で営業利益が大きく落ち込んでいる四半期がありますが、売上自体がこのまま成長していけば、広告費の割合は相対的に低くなっていくことでしょう。

 ミクシィは安定した売上を見せていますが、巨大な会員数を抱え、抜群の知名度を得ている割には営業利益の額や伸びも物足りないところであり、特にグリーとの比較を見せ付けられてしまうと、現在のサイト収益構造には疑問符が付くところです。やはり単純な広告モデルだけでは収益力の点で厳しいのでしょう。ただ逆にある程度の規模のサイトであれば、広告収入は業績のセーフティネットになり、いきなり経営がクラッシュすることは無さそうです。

 グリーの上場とタイミングが重なりましたが、前々から言われていたようにプラットフォームのオープン化を進めていくとの方針をミクシィは発表しています。広告ビジネスだけでは成長に限界があり、プラットフォーム化することで手数料収入を得ていくのでしょう。いわばWeb上のi-modeをつくる発想とも言え、中期的には面白い試みとは思いますが、グリーのような急激な業績の拡大には結びつかないように思います(そういうことは期待してないのでしょうが)。

 個人的な観測として、この試みが成功するかは疑問があります。アプリ運営事業者としては課金インフラが整うことのメリットがありますが、ミクシィの会員費用というものは、携帯電話におけるi-modeとは違って必ず月に払うものとセットで決済するわけではないので、決済インフラという点での魅力が欠落しているように感じます。ユーザーの視点からすれば、あえてmixi経由で決済する必要性が感じられないですし、他のモバイル公式サイトが多数ある中で、mixiにあるアプリというのがそれほど魅力的かは疑問があります。逆にアプリ運営事業者の視点からすれば、コンテンツサイトを単体で運営する実力のあるサイトであれば、ミクシィに各種の手数料等を吸い取られてまで出店する必要が無いですし、特にモバイル事業者であれば課金・決済インフラがキャリアによって整えられているので尚更です。

 プラットフォームのオープン化を進めるほど、mixiはサイトの個性よりも、集客力で勝負するサイトとなってしまい、結局のところ「専門店への場所貸しで何とか経営しているダメ百貨店」みたいな構造になりかねない恐れがあります。このようなダメ百貨店であっても、往々にして駅の近くにあるという不動産的な利便性で経営が成り立っているわけですが、どこへでもアクセスできるネットの世界では、個性を失うことで不動産的価値を一気に喪失する可能性があります。したがって、他にアプリ開発業者を集めることよりも、mixiの価値を高めるmixiらしいアプリをディレクションしていくことが、この戦略の鍵になるのではないかと見ています。

 会員一人当たりの売上を四半期ベースで記載したものです。3で割ると月額一人当たりの売上額(ARPU)になります。やはり目に付くモバゲータウン事業のARPUの高さですが、ここに来て急減しているのが大変気がかりです。

 モバゲータウンでは今も会員数が伸び続けているため、売上額全体の減少は一人当たりの支払額が大きく減少していることが要因となります。モバゲータウンは、アバター等のアイテム購入が売上の大きな部分を占めていますが、この部分になかなかお金を落とさなくなったというなのでしょう。DeNAの成長要因は、モバイル事業の中でも特にこのモバゲータウンにおけるアバター販売によるものが大きかった訳であり、今はここでの落ち込みを何としてでも防がなければなりません。

 一方グリーが想像以上の結果を見せており、モバゲーの水準に急速に接近しています。会員数の伸び以上に業績が伸びているわけですから、当然掛け算の関係上ここに原因があるとは推測が付いていたのですが、改めてグラフで見ると相当インパクトがありますね。会員数については、ある程度の人気があればそれなりに伸びていくものでしょうが、ARPUは放っておいても伸びるものではありません。それだけ金を落とすだけの魅力が増しているのでしょう。

 GREEとの競争環境の激化はDeNAにとって間違いなくマイナス要因ですが、健全な企業間競争が進むことは市場にとって大きなプラス要因です。第三者である私としては、大いに争うことでこの市場の先進性を高めてもらいたいと期待しています。

 ミクシィは広告モデルということもあり、会員数の割には収益には生かしきれていない様子ですね。しかもARPUが減少傾向であり、会員の活動レベルの低下を感じます。恐らく広告の単価は上がっているはずなので、それでいて落ち込みを見せているとなると、現状を打開する必要性を痛感します。オープン化戦略は前々から進められていた話でしたが、経営的に見ると2007年夏には傾向が見えていた問題について、やっと対策を打ったという印象はぬぐえません。

きみどりのブログ-純増数・売上高変化比較

 ここで四半期ベースのサイト会員の純増数と、売上高の増減を比較してみます。はっきりした傾向の違いが見て取れますね。(ミクシィはmixi事業の数値)

 堅実なのはmixiで、純増数の増減に大きく影響されずに売上が発生している様子が伺えます。広告モデルということを考えれば当然と言えるでしょう。とはいえ若干の相関関係はあるのが興味深いところです。

 一方でモバゲータウンは、近似直線の傾きが大きく、純増数に売上が大きく影響している様子が伺えます。つまり新規ユーザーの多さに、ある程度売上が依存していることを示しているわけです。アバターは一通り着飾るとお金を落とさなくなるため、新規ユーザーの獲得が業績に影響を与えるからだと推測されます。ただし全般にばらつきが大きいため、純増数以外の他の要素が売上高に与える影響を考えなければなりません。

 なお近似直線よりもはるか下方に直近2四半期の数値がプロットされ、減収となっています。純増数が鈍化することは当然予期できるわけであり、純増数が減っても売上が出るサイト構造へと徐々にシフトしていくべきものでしょう。したがって過去の分布を反映した近似直線よりも、新しい分布は徐々に左から左上へとシフトしていかなければなりません。ところが、逆に近似直線よりも大きく下回った分布となってしまったわけですから、単に鈍化ということが原因なのではなく、もっと質的に大きなサイト収益構造の悪化が背景にあると推測されます。

 GREEについてはサンプルが少なく、参考程度ですが、モバゲーほど純増数に依存しておらず、モバゲーよりも長期的なスパンで支払を行うユーザーが多いと言えそうです。また分布がモバゲーやmixiよりも上方にある(Y切片の数値が大きい)ため売上を生み出す水準が全般的に高いことを示しています。今後の変化が気になるところです。


関連の記事

ミクシィ笠原社長に聞く、mixiが登録制に移行したワケ(CNET)
http://japan.cnet.com/interview/story/0,2000055954,20384383,00.htm

「mixiを小さなインターネットに」 招待制・“18禁”廃止の狙いを笠原社長に聞く(ITmedia)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0811/27/news126.html

「GREE」がマザーズ上場へ
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0811/13/news087.html

DeNA、通期予想を下方修正--アバターの売り上げが下げ止まらず
http://japan.cnet.com/mobile/story/0,3800078151,20382716,00.htm
 ミクシィの戦略の裏側をリリースの端々からビジネス的に読み解きたいと思います。

→ 前頁はこちら ミクシィ「招待制廃止」リリースの徹底分析 (1)


2009 年春には、既存ユーザーからの招待状が無くても『mixi』に登録して利用できる登録制を導入する予定です。

 登録制への移行は、プラットフォームのオープン化と密接に結びついています。アプリも自由に導入できるのに、ユーザー自体が招待でしか集まらないとなれば、アプリ開発側としても客寄せも何もできず、ただ漫然と今いる人にしかサービスを提供できないことになるでしょう。プラットフォームのオープン化をする以上、登録制の導入は必然だと考えます。

 オープン化をするに当たっては、ズルズルと引き伸ばしても何の得もありませんから、一定のものが出来上がってくる時期というのが分かっているはずです。それが2009年春であり、それに合わせての登録制導入ということなのかもしれません。


なお、『mixi』の健全性維持の観点から実施している新規登録時の携帯電話端末認証に関しましては、今後も引き
続き継続してまいります。

 ミクシィの二大タブーは、青少年ユーザーが本当は多数存在することと、多数の複数アカウントが生成されていることではないでしょうか。

 新規登録時について携帯電話認証を行うことは、当たり前の話と言えるでしょう。問題は過去の部分にまで踏み込むかという点です。過去に登録したユーザー情報の正確性については、プレスリリースであっても、社長のインタビューにおいても一切触れられていません。言及を避けているとさえ言えるでしょう。今回の発表を機に、過去の異常分を正常化する施策も実行するのではないかと推測していたのですが、そうはならないようですね。あくまで過去の分についてはノーコメントとしつつ、今後の部分は正確であるとアピールしていく方針のようです。


mixi年齢引き下げ措置


 しかしながら、過去に不正に登録されたアカウントの数は膨大であり、今後不適切な投稿をしたユーザーを強制退会させたところで、容易に複アカウントの譲受が可能であるため、強硬策がほとんど機能しないことが想定されます。過去分の正常化をしないままで、第三者機関の認定を得られるのか、極めて疑問があります。さらなる施策がなされる可能性は十分あると推測します。

 また青少年にとって、正確な年齢で登録させることにメリットがあるものを導入するとインタビュー等で説明しているようですが、コミュニティというmixiの機能の中でも、非常に価値の高いものが利用できないデメリットは、ちょっとしたメリットのあるサービス程度ではカバーできないもののように感じます。


年齢制限の引き下げに伴い、これまで以上に安心・安全にご利用頂ける環境を整えるため、『mixi』の健全性をより強化する新たな施策を導入いたします。
• ユーザーサポート体制の強化
多数のユーザーの皆さまのお問い合わせに対応できるようサポート体制を大幅に強化いたします。

 本筋からすれば一番最初に書くべきは、問い合わせ対応よりも監視体制・パトロール体制といったところだと思いますが、「悪への対応」というものを前面に押し立てるわけにはいかず、まず最初にユーザーサポートに触れたというところでしょうか。

 サポート「人員」とも言わなかったところや、実施時期を書かなかったところもミソですね。15歳以上へと拡大する日時にまでに何らかの策を講ずるべきところですが、それを明言しないというのは、当初から15歳-17歳のユーザーはそれほど多くは入ってこないという見通しがあるのかもしれません。


• セキュリティシステムの増強
利用規約に反する書き込みを監視するシステムを増強いたします。

 サポートは「体制」としていたのに、こちらでは「システム」が強化対象となっています。100人体制から200人体制にするという記事も出ていますが、IRとしての意味を持つこちらのリリース書面ではより正確な記述を心がけているはずです。実際インタビューの中には、商用利用ユーザーによる異常なアクセスを検知することに、表現の重きを置いたものもあり、監視人員の増員は、現状では明確ではないもののようです。

監視体制

 とりあえず現時点で確約できるのは「システム増強」という禁止ワードの追加やサーバーの増設などでも嘘にはならない点だったのではないでしょうか。モバゲータウンやGREEほどのノウハウが無いと思われるmixiでは、セキュリティの強化は急務です。現時点で確約するものがこの程度でしかないのは、甚だ心配です。


• 青少年ユーザーの一部機能の利用制限
コミュニティの閲覧・投稿、友人検索機能に関して、青少年ユーザーの皆さまの利用を制限いたします。

 mixiのコミュニティにはアダルト的なものも多数存在しており、多感な青少年にとっては危険な機能と言えるでしょう。しかしながらコミュニティへの閲覧制限があるということは、ユーザーにとって非常に大きな制約であり、青少年が正しい年齢で登録すると有益なコンテンツという程度で、そのデメリットをカバーできるのかというと非常に疑問があるところです。

 特に青少年ユーザーは、モバゲーやGREEのようなバーチャルなSNS利用に慣れており、先入観を持っている人も多数いることでしょう。バーチャルな人格を使って、仮想の人間関係を構築することに魅力を感じている人も相当数いるはずです。リアルな学校の友達と結びつく施策は、古い世代のSNS観を反映したものであり、青少年に強い魅力を感じさせるか強い疑問があります。

 青少年によるコミュニティへのアクセスを全面的に遮断することで、現在のコミュニティについて青少年にふさわしくないもののも温存するというやり方は、携帯電話を持たせないことで、青少年に有害なサイトへのアクセスを防ぐとする安直な発想と類似した構造を持ちます。この発想は、現にコミュニティにアクセスできる青少年や、現に携帯電話を持っている、あるいは持とうとする青少年についての危険性を、全く考慮していないことに問題があります。自己申告を一つ偽っただけで生じる安全性の落差は、私が「mixiは業界のセキュリティホールになるのか 」で書いた状況と変わっていないように思います。

 今まで自己申告制がほぼ崩壊状態になったmixiですから、今後は自己申告が適正化されることを担保するものが必要です。そして、その自己申告が不適切だったとしても、容易に極端なアダルトコンテンツに触れることができてしまう現状を防ぐ、セーフティネットが必要だと思われます。単に同級生とつながるサービスがあるだけでは、セーフティネットでも何でもないでしょう。


また、青少年に相応しくない一部のレビュー、広告に関して、閲覧を制限いたします。

 青少年アカウントに対しては広告等を配信しないというだけで、通常のアカウントに対しては、アダルトが目立つ電子書籍等の広告であっても、現状通りとする余地を残しているものと思われます。

 この青少年対策の項目で、一つ重要な部分が脱落しています。それは日記です。

 mixiにおいては日記こそが中心であるのは間違いなく、そのパーソナリティを表現する一番大きな機能となっています。どんなにアダルトな書き込みであれ、暴力的な書き込みであっても、青少年にふさわしくないものという観点からは禁止にはなっておらず、12月10日からの利用規約改定後も違法性の懸念される部分では禁止となっていても、青少年に不適切なレベルという点では禁止行為とはされていません。


 例えば、モバゲータウンでは「性行為や性器に該当する言葉等、わいせつな内容やそれらを想像させる内容を投稿または他の会員へ送信する行為」「その他上記に該当するおそれがあると当サイトが判断した行為」を禁止としています。

利用規約の比較

 しかしmixiでは、「わいせつ、児童ポルノ又は児童虐待に相当する日記等の情報について、次に掲げるいずれかの行為を行うこと。 (ア) これらの情報を投稿又は表示する行為。」としているだけです。一見すると「わいせつ」にあたるものは広いから大丈夫なように見えるところですが、それは間違いです。判例上「わいせつ」の定義がありますが、ここであてはまるのはほぼ無修正の性器画像といったレベル感であり、モバゲーのいう「わいせつな内容」「を想像させる内容」というレベルとは大きな落差があります。

 もちろんこの定めは、リテラシーの高い表現者にとっては自由度の高いスペースと評価できるものであり、そのことを考慮して定めている背景はあるのでしょうが、青少年ユーザーに参入の余地を広げる今回の施策は、この基準設定趣旨に真っ向からぶつかるものです。青少年へアクセス範囲を拡大するのであれば、日記表現への対応は不十分と言うほかありません。

 青少年に配慮した削除基準をEMAが認定基準に設けているかと思いますが、運用実態を問うまでも無く利用規約がこのままでは審査を通らないのではないでしょうか。


• 新規登録時の生年月日登録必須化
新規登録時において、生年月日の登録を必須といたします。

 当然とも言える項目ですが、そもそも今まで生年月日が必須ではなかったことに驚かされます。営業上も正確な年齢を取得できていることは利点だと思われますが、なぜ必須にしてこなかったのかが気になります。

 生年月日が登録されていないユーザーは、今後15-17歳設定と同様になるのでしょうか。もしそうしないとなると、年齢が不明にも関わらず、広告などの制限が成人向けという扱いになってしまいます。利用規約上は18歳未満はいないということになっていますから、現時点で年齢が不明でも、少なくとも18歳以上であると強弁することは可能でしょう。しかし、それが通用するほど年齢詐称ユーザーが僅少であるとは到底思えません。この点も第三者機関の認定の兼ね合いで、問題が生じる要素だと思われます。


『mixi』の健全性に関して、当社基準だけでなく第三者機関の客観的な基準においても確認するため、有限責任中間法人モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)の認定を申請しており、2009 年中には認定を受ける予定です。

 2008年度中ではなく、「2009年中」としたところに見通しの不透明さを読み取ることができます。と同時にあえて明かす必要も無い認定申請を公言する点から、体制整備の自信をアピールする意図が感じられます。

 しかし現時点で青少年ユーザーがいないため、青少年向けの利用環境整備がなされているわけがなく、青少年対応の実績もありません。巨大サイトでありながら実績ゼロというわけですから、相当シビアに見られることは確実だと思います。

 今後は様々な軌道修正があるでしょうから、利用規約改定や設定変更などの動きをウォッチしたいところです。これによりEMAの審査内容も透けて見えるのではないかと思います。


利用制限のみではなく、青少年ユーザー向けの新しいコミュニケーションサービスや友人・知人・家族みんなで使える便利なサービスの提供も予定しております。

 12月10日からのスタートを宣言できなかった点も注目です。

 青少年向けのサービスというのはいいアピールになるため、年齢制限引き下げと同時に実現すべき話であろうと思います。そして年齢詐称を防ぐためにも最初からやるべき話であろうと思います。しかし現時点でスタート時期が確定していないのですから、せっかくのサービスも効果半減といったところでしょう。

 改めて年齢制限の引き下げが、他の施策とのバランスを欠くほど先行している点が浮き彫りになります。この点は「ミクシィ「招待制廃止」リリースの徹底分析 (1) 」で記載しましたが、フィルタリング制限を早急に解除するためにEMAへの申請を急いでおり、そのため曲りなりにも青少年ユーザーの存在が必要であった・・・・・・という仮説は、十分ありうるのではないかと思います。また12月17日に予定されているGREEの上場にぶつけるという意図も多少はあるでしょうが、アピール以上の効果は無く、登録制が実施されるまでは実際上GREEに大きな影響を与えないものと思われます。

 登録制開始+年齢制限引き下げの両方が本格的に機能するのは来年春です。それまでにフィルタリングの解除ができればいいという発想だろうと思います。実際そう上手くいくかは疑問のあるところですが。



関連ブログ

オープン化に踏み切ったミクシィの今後と株価 (Social Networking.jpさん)
http://www.socialnetworking.jp/archives/2008/11/post_818.html

 プラットフォームポータルを狙う戦略上、ポータルサイトの地位と競合するのは間違いないですね。ただし、今回の改変は追い込まれた感が強く、現状の仕組みで十分な利益が出せなかった(成長できなかった)ことも見逃すことが出来ない点だと思います。

2008年末、mixi の「オープン化」が本当にもたらすもの (スパイスボックス・ラボさん)
http://blog.spicebox.jp/labs/2008/11/mixi_3.html

 OpenSocialについての詳しい分析をされています。今回の施策は、Webにi-modeをつくるようなものであり、課金インフラが整うことは、小額課金や都度課金の容易性を高めるものとして、非常に興味深いものだと思います。



関連記事

mixiが招待制廃止、15歳以上から参加可能に--「mixiアプリ」提供も(CNET)
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20384279,00.htm

ミクシィ笠原社長に聞く、mixiが登録制に移行したワケ(CNET)
http://japan.cnet.com/interview/story/0,2000055954,20384383,00.htm

mixiがオープン化、SNSに与える影響は?(CNET)
http://japan.cnet.com/panel/story/0,3800077799,20384348,00.htm

「mixiを小さなインターネットに」 招待制・“18禁”廃止の狙いを笠原社長に聞く(ITmedia)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0811/27/news126.html

mixiが招待制廃止へ 来春から登録制、年齢制限も緩和(ITmedia)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0811/27/news070.html

mixi、年齢制限を15歳に引き下げ。2009年春に招待制から登録制へ(InternetWatch)
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/11/27/21677.html

ミクシィ、招待制廃止へ-年齢制限緩和、「mixi アプリ」提供も
http://www.shibukei.com/headline/5756/

 11月27日にミクシィが、大幅なサービス変更を発表しました。2008年はgoogleやAppleなどの海外勢による革新的な動きが注目され続けましたが、ここにきてGREEの上場などで日本のネット企業への再評価の機運が高まっていたように感じます。その中での今回の発表は、非常に興味深いものと言えそうです。

 公開資料の中には、裏に潜む内部事情を伺わせる記述を往々にして含んでいるものですが、今回の一大発表についても深読みや裏読みをしてみようと思います。

IR資料
http://eir.eol.co.jp/EIR/View.aspx?cat=tdnet&sid=660658



『mixi』の今後のサービス展開について

 mixiの「オープン化」を前面に押し出してアピールするのかと思っていましたが、さすがにIR上の制約があるのでしょうか。ミクシィ側としては、「mixi Platformの開放」を最初に持ってくるなど、とにかくアピールしたい点なのでしょう。とすると「オープン」は絶好の統一テーマだったのですが、それでもタイトルに使えないというのは、プラットフォームの開放と年齢制限の緩和、招待制の廃止というのを丸めるには、IRの表現上は無理があるのだと判断しているからではないでしょうか。


12 月11 日より、『mixi』内に、サービス・アプリケーションを開発・提供できる「mixi アプリ」のパートナー向けβ 版を提供する

 年齢制限を15歳まで拡大するのは12月10日。一日ずらしたのは、システム上のトラブルが発生した場合に備えてということでしょうか。


なお、mixi Platform の開放にあたり、パートナーを資金面で支援するファンドの設立準備も進めております。

 時期を明記できなかったのは、金融機関との交渉がまだ最終段階に至っていないということでしょう。こちらの準備が整わない状態でありながらも、今回のプレスリリースで発表したのは、この時期にプレスを出すことに特別な理由があるからだと思います。


2. mixi 利用制限の緩和
今後のサービスの多様化に伴い、友人・知人・家族みんなで使えるSNS を目指して、利用制限を緩和してまいります。

 「今後のサービスの多様化」はオープン化によって生じる将来の話であって、時間軸的に考えれば「今」について「伴う」はずは無く、今この時点をもって利用制限を緩和するだけの合理的な説明とはいえないように思います。今になって開放を宣言し、実行することには、「サービスの多様化」という会社側のアピールとは別の意味が潜んでいると見るべきでしょう。そしてそれを隠したい意図があるのかもしれません。

 また「サービスの多様化」「友人・知人・家族みんなで使えるSNSを目指して」という余計な修飾節を重ねて記載しているのは、それだけ「利用制限の緩和」というものが、既存ユーザーに大きなインパクトを与えるものだという自覚があるからだと思われます。


2008 年12 月10 日(水)より、15~17 歳の方々が『mixi』をご利用出来るように年齢制限を引き下げます。

 迷惑メール防止法の改正に伴い12月1日をもって利用規約の改定を行うことをミクシィは発表しています。ならば、15歳への引き下げに伴う利用規約の改定もある以上、月曜日である12月1日に合わせればいいのではと思うところです。ところが月初でも無く、極めて中途半端な12月10日を選択したのはなぜかなのでしょうか。

 まず12月1日より前にすることができないのはなぜかという点です。あくまで仮説でしかなく、事情を察知するには材料が乏しいところですが、自分なりに考えるところとしてまず一つ挙げられるのは、「mixiアプリのオープン化とタイミングを合わせたかったが、プラットフォーム側の作業が技術的に間に合いそうに無かった」というということ。そしてもう一つは「EMAの申請を行ったものの、急に年齢に関する対策に迫られ、十分な周知期間がとれなかった」ということです。

 次に年齢制限引き下げのタイミングを、もっと遅くすることができなかったのはなぜかという疑問もあります。

 招待制廃止・登録制移行のタイミングは2009年春であり、これに合わせて年齢制限の引き下げを行うのが合理的でしょう。招待制廃止前に15-17歳を対象に開放したとしても、これらのユーザーは登録制移行までの間は、招待を受けなければ入れないことになります。ところが18歳未満のユーザーがいないことがサイトの建前なのですから、そう簡単には招待を受けられないことになります。特に若年層は大人以上に学年の違いによるつながりの断絶は大きいですから、18歳以上の先輩から招待を受けるにもそう簡単ではないはずです。

 また「サービスの多様化」という微妙な表現がありましたが、12月11日の時点でもアプリのβ版を公開する段階であり、サードパーティが開発したアプリと合わせて楽しんでもらうためという理由も無いことになります。

 とすると、相当な無理をして年齢制限の引き下げを先行させたというべきでしょう。何らかの理由があると見るべきだと私は思います。

 これだけを先行させたことについて、テスト期間と言うには無理があるように思います。登録制移行の日時を現時点でも月単位で特定することができず、「2009年春」という曖昧な表現にしているにも関わらず、年齢制限の引き下げ日については具体的かつ近い日時で特定しています。お尻の日時が不明確なのに、開始日を急ぐ必要があるのでしょうか。テスト期間が無駄に長ければ、最初のプレスのアピール力も薄れてしまうデメリットがあります。このような点を考えると、テストというには不自然に思います。

 このように考えると、経営陣が当初想定していたプラットフォーム面のオープン化や登録制移行へのスケジュール感とは別の要素を唐突に受けたことで、12月10日ということになったのかもしれません。そういう意味で候補になるのは、先も少し触れましたEMA申請との関係でしょうか。こればかりはまさしく推測でしかありませんが。

 ただ、青少年ユーザーが公式には一人もいないことになっているmixiが、すでにEMA認定を申請していたというのは誰がどう見ても不自然な話です。青少年ユーザーへの対応が全くの未経験であるにも関わらず、EMAから認定がもらえるとは到底思えません。一方でフィルタリングの適用原則化は着実に進んでいます。EMA認定を得ることは、急伸するGREE(→以前記載した記事 参照)へ対抗するためにも経営上必要なことでしょうから、EMA認定の手続上、年齢制限の引き下げを遅らせるわけにはいかないと経営陣は判断したのかもしれません。 




mixiが招待制廃止、15歳以上から参加可能に--「mixiアプリ」提供も(CNET)
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20384279,00.htm

ミクシィ笠原社長に聞く、mixiが登録制に移行したワケ(CNET)
http://japan.cnet.com/interview/story/0,2000055954,20384383,00.htm

「mixiを小さなインターネットに」 招待制・“18禁”廃止の狙いを笠原社長に聞く(ITmedia)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0811/27/news126.html

mixiが招待制廃止へ 来春から登録制、年齢制限も緩和(ITmedia)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0811/27/news070.html

mixi、年齢制限を15歳に引き下げ。2009年春に招待制から登録制へ(InternetWatch)
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/11/27/21677.html

ミクシィ、招待制廃止へ-年齢制限緩和、「mixi アプリ」提供も
http://www.shibukei.com/headline/5756/