ミクシィの戦略の裏側をリリースの端々からビジネス的に読み解きたいと思います。

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2009 年春には、既存ユーザーからの招待状が無くても『mixi』に登録して利用できる登録制を導入する予定です。

 登録制への移行は、プラットフォームのオープン化と密接に結びついています。アプリも自由に導入できるのに、ユーザー自体が招待でしか集まらないとなれば、アプリ開発側としても客寄せも何もできず、ただ漫然と今いる人にしかサービスを提供できないことになるでしょう。プラットフォームのオープン化をする以上、登録制の導入は必然だと考えます。

 オープン化をするに当たっては、ズルズルと引き伸ばしても何の得もありませんから、一定のものが出来上がってくる時期というのが分かっているはずです。それが2009年春であり、それに合わせての登録制導入ということなのかもしれません。


なお、『mixi』の健全性維持の観点から実施している新規登録時の携帯電話端末認証に関しましては、今後も引き
続き継続してまいります。

 ミクシィの二大タブーは、青少年ユーザーが本当は多数存在することと、多数の複数アカウントが生成されていることではないでしょうか。

 新規登録時について携帯電話認証を行うことは、当たり前の話と言えるでしょう。問題は過去の部分にまで踏み込むかという点です。過去に登録したユーザー情報の正確性については、プレスリリースであっても、社長のインタビューにおいても一切触れられていません。言及を避けているとさえ言えるでしょう。今回の発表を機に、過去の異常分を正常化する施策も実行するのではないかと推測していたのですが、そうはならないようですね。あくまで過去の分についてはノーコメントとしつつ、今後の部分は正確であるとアピールしていく方針のようです。


mixi年齢引き下げ措置


 しかしながら、過去に不正に登録されたアカウントの数は膨大であり、今後不適切な投稿をしたユーザーを強制退会させたところで、容易に複アカウントの譲受が可能であるため、強硬策がほとんど機能しないことが想定されます。過去分の正常化をしないままで、第三者機関の認定を得られるのか、極めて疑問があります。さらなる施策がなされる可能性は十分あると推測します。

 また青少年にとって、正確な年齢で登録させることにメリットがあるものを導入するとインタビュー等で説明しているようですが、コミュニティというmixiの機能の中でも、非常に価値の高いものが利用できないデメリットは、ちょっとしたメリットのあるサービス程度ではカバーできないもののように感じます。


年齢制限の引き下げに伴い、これまで以上に安心・安全にご利用頂ける環境を整えるため、『mixi』の健全性をより強化する新たな施策を導入いたします。
• ユーザーサポート体制の強化
多数のユーザーの皆さまのお問い合わせに対応できるようサポート体制を大幅に強化いたします。

 本筋からすれば一番最初に書くべきは、問い合わせ対応よりも監視体制・パトロール体制といったところだと思いますが、「悪への対応」というものを前面に押し立てるわけにはいかず、まず最初にユーザーサポートに触れたというところでしょうか。

 サポート「人員」とも言わなかったところや、実施時期を書かなかったところもミソですね。15歳以上へと拡大する日時にまでに何らかの策を講ずるべきところですが、それを明言しないというのは、当初から15歳-17歳のユーザーはそれほど多くは入ってこないという見通しがあるのかもしれません。


• セキュリティシステムの増強
利用規約に反する書き込みを監視するシステムを増強いたします。

 サポートは「体制」としていたのに、こちらでは「システム」が強化対象となっています。100人体制から200人体制にするという記事も出ていますが、IRとしての意味を持つこちらのリリース書面ではより正確な記述を心がけているはずです。実際インタビューの中には、商用利用ユーザーによる異常なアクセスを検知することに、表現の重きを置いたものもあり、監視人員の増員は、現状では明確ではないもののようです。

監視体制

 とりあえず現時点で確約できるのは「システム増強」という禁止ワードの追加やサーバーの増設などでも嘘にはならない点だったのではないでしょうか。モバゲータウンやGREEほどのノウハウが無いと思われるmixiでは、セキュリティの強化は急務です。現時点で確約するものがこの程度でしかないのは、甚だ心配です。


• 青少年ユーザーの一部機能の利用制限
コミュニティの閲覧・投稿、友人検索機能に関して、青少年ユーザーの皆さまの利用を制限いたします。

 mixiのコミュニティにはアダルト的なものも多数存在しており、多感な青少年にとっては危険な機能と言えるでしょう。しかしながらコミュニティへの閲覧制限があるということは、ユーザーにとって非常に大きな制約であり、青少年が正しい年齢で登録すると有益なコンテンツという程度で、そのデメリットをカバーできるのかというと非常に疑問があるところです。

 特に青少年ユーザーは、モバゲーやGREEのようなバーチャルなSNS利用に慣れており、先入観を持っている人も多数いることでしょう。バーチャルな人格を使って、仮想の人間関係を構築することに魅力を感じている人も相当数いるはずです。リアルな学校の友達と結びつく施策は、古い世代のSNS観を反映したものであり、青少年に強い魅力を感じさせるか強い疑問があります。

 青少年によるコミュニティへのアクセスを全面的に遮断することで、現在のコミュニティについて青少年にふさわしくないもののも温存するというやり方は、携帯電話を持たせないことで、青少年に有害なサイトへのアクセスを防ぐとする安直な発想と類似した構造を持ちます。この発想は、現にコミュニティにアクセスできる青少年や、現に携帯電話を持っている、あるいは持とうとする青少年についての危険性を、全く考慮していないことに問題があります。自己申告を一つ偽っただけで生じる安全性の落差は、私が「mixiは業界のセキュリティホールになるのか 」で書いた状況と変わっていないように思います。

 今まで自己申告制がほぼ崩壊状態になったmixiですから、今後は自己申告が適正化されることを担保するものが必要です。そして、その自己申告が不適切だったとしても、容易に極端なアダルトコンテンツに触れることができてしまう現状を防ぐ、セーフティネットが必要だと思われます。単に同級生とつながるサービスがあるだけでは、セーフティネットでも何でもないでしょう。


また、青少年に相応しくない一部のレビュー、広告に関して、閲覧を制限いたします。

 青少年アカウントに対しては広告等を配信しないというだけで、通常のアカウントに対しては、アダルトが目立つ電子書籍等の広告であっても、現状通りとする余地を残しているものと思われます。

 この青少年対策の項目で、一つ重要な部分が脱落しています。それは日記です。

 mixiにおいては日記こそが中心であるのは間違いなく、そのパーソナリティを表現する一番大きな機能となっています。どんなにアダルトな書き込みであれ、暴力的な書き込みであっても、青少年にふさわしくないものという観点からは禁止にはなっておらず、12月10日からの利用規約改定後も違法性の懸念される部分では禁止となっていても、青少年に不適切なレベルという点では禁止行為とはされていません。


 例えば、モバゲータウンでは「性行為や性器に該当する言葉等、わいせつな内容やそれらを想像させる内容を投稿または他の会員へ送信する行為」「その他上記に該当するおそれがあると当サイトが判断した行為」を禁止としています。

利用規約の比較

 しかしmixiでは、「わいせつ、児童ポルノ又は児童虐待に相当する日記等の情報について、次に掲げるいずれかの行為を行うこと。 (ア) これらの情報を投稿又は表示する行為。」としているだけです。一見すると「わいせつ」にあたるものは広いから大丈夫なように見えるところですが、それは間違いです。判例上「わいせつ」の定義がありますが、ここであてはまるのはほぼ無修正の性器画像といったレベル感であり、モバゲーのいう「わいせつな内容」「を想像させる内容」というレベルとは大きな落差があります。

 もちろんこの定めは、リテラシーの高い表現者にとっては自由度の高いスペースと評価できるものであり、そのことを考慮して定めている背景はあるのでしょうが、青少年ユーザーに参入の余地を広げる今回の施策は、この基準設定趣旨に真っ向からぶつかるものです。青少年へアクセス範囲を拡大するのであれば、日記表現への対応は不十分と言うほかありません。

 青少年に配慮した削除基準をEMAが認定基準に設けているかと思いますが、運用実態を問うまでも無く利用規約がこのままでは審査を通らないのではないでしょうか。


• 新規登録時の生年月日登録必須化
新規登録時において、生年月日の登録を必須といたします。

 当然とも言える項目ですが、そもそも今まで生年月日が必須ではなかったことに驚かされます。営業上も正確な年齢を取得できていることは利点だと思われますが、なぜ必須にしてこなかったのかが気になります。

 生年月日が登録されていないユーザーは、今後15-17歳設定と同様になるのでしょうか。もしそうしないとなると、年齢が不明にも関わらず、広告などの制限が成人向けという扱いになってしまいます。利用規約上は18歳未満はいないということになっていますから、現時点で年齢が不明でも、少なくとも18歳以上であると強弁することは可能でしょう。しかし、それが通用するほど年齢詐称ユーザーが僅少であるとは到底思えません。この点も第三者機関の認定の兼ね合いで、問題が生じる要素だと思われます。


『mixi』の健全性に関して、当社基準だけでなく第三者機関の客観的な基準においても確認するため、有限責任中間法人モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)の認定を申請しており、2009 年中には認定を受ける予定です。

 2008年度中ではなく、「2009年中」としたところに見通しの不透明さを読み取ることができます。と同時にあえて明かす必要も無い認定申請を公言する点から、体制整備の自信をアピールする意図が感じられます。

 しかし現時点で青少年ユーザーがいないため、青少年向けの利用環境整備がなされているわけがなく、青少年対応の実績もありません。巨大サイトでありながら実績ゼロというわけですから、相当シビアに見られることは確実だと思います。

 今後は様々な軌道修正があるでしょうから、利用規約改定や設定変更などの動きをウォッチしたいところです。これによりEMAの審査内容も透けて見えるのではないかと思います。


利用制限のみではなく、青少年ユーザー向けの新しいコミュニケーションサービスや友人・知人・家族みんなで使える便利なサービスの提供も予定しております。

 12月10日からのスタートを宣言できなかった点も注目です。

 青少年向けのサービスというのはいいアピールになるため、年齢制限引き下げと同時に実現すべき話であろうと思います。そして年齢詐称を防ぐためにも最初からやるべき話であろうと思います。しかし現時点でスタート時期が確定していないのですから、せっかくのサービスも効果半減といったところでしょう。

 改めて年齢制限の引き下げが、他の施策とのバランスを欠くほど先行している点が浮き彫りになります。この点は「ミクシィ「招待制廃止」リリースの徹底分析 (1) 」で記載しましたが、フィルタリング制限を早急に解除するためにEMAへの申請を急いでおり、そのため曲りなりにも青少年ユーザーの存在が必要であった・・・・・・という仮説は、十分ありうるのではないかと思います。また12月17日に予定されているGREEの上場にぶつけるという意図も多少はあるでしょうが、アピール以上の効果は無く、登録制が実施されるまでは実際上GREEに大きな影響を与えないものと思われます。

 登録制開始+年齢制限引き下げの両方が本格的に機能するのは来年春です。それまでにフィルタリングの解除ができればいいという発想だろうと思います。実際そう上手くいくかは疑問のあるところですが。



関連ブログ

オープン化に踏み切ったミクシィの今後と株価 (Social Networking.jpさん)
http://www.socialnetworking.jp/archives/2008/11/post_818.html

 プラットフォームポータルを狙う戦略上、ポータルサイトの地位と競合するのは間違いないですね。ただし、今回の改変は追い込まれた感が強く、現状の仕組みで十分な利益が出せなかった(成長できなかった)ことも見逃すことが出来ない点だと思います。

2008年末、mixi の「オープン化」が本当にもたらすもの (スパイスボックス・ラボさん)
http://blog.spicebox.jp/labs/2008/11/mixi_3.html

 OpenSocialについての詳しい分析をされています。今回の施策は、Webにi-modeをつくるようなものであり、課金インフラが整うことは、小額課金や都度課金の容易性を高めるものとして、非常に興味深いものだと思います。



関連記事

mixiが招待制廃止、15歳以上から参加可能に--「mixiアプリ」提供も(CNET)
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20384279,00.htm

ミクシィ笠原社長に聞く、mixiが登録制に移行したワケ(CNET)
http://japan.cnet.com/interview/story/0,2000055954,20384383,00.htm

mixiがオープン化、SNSに与える影響は?(CNET)
http://japan.cnet.com/panel/story/0,3800077799,20384348,00.htm

「mixiを小さなインターネットに」 招待制・“18禁”廃止の狙いを笠原社長に聞く(ITmedia)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0811/27/news126.html

mixiが招待制廃止へ 来春から登録制、年齢制限も緩和(ITmedia)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0811/27/news070.html

mixi、年齢制限を15歳に引き下げ。2009年春に招待制から登録制へ(InternetWatch)
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/11/27/21677.html

ミクシィ、招待制廃止へ-年齢制限緩和、「mixi アプリ」提供も
http://www.shibukei.com/headline/5756/