韓国では天安艦事件1周年を迎えて、再び「北の仕業論」をめぐる論難が起きています。ただし政府側は白書の刊行、記念碑の建造などのパフォーマンスに集中して「北の仕業」を既定事実化使用と躍起であり(朝中東の3紙が積極的)、民間側は真実の究明に集中しています。
民間側は真実の徹底究明は事実究明とともに、韓国で民主主義をいかに守るかという問題と直結していると指摘しています。23日に行われた市民社会各界の人士による共同記者会見がそれをよく物語っています。
共同会見でイ・テホ参与連帯事務処長は記者会見で表現の自由について語りながら、「政府の調査結果に疑問を提起すれば,国論を分裂させ安保を危険にさらすものだと烙印を押し、利敵行為だとして公権力を使って一方的に広報するのは民主国家ではあり得ないこと」だと指摘しています。
さらに「言論は社会的に異見がある場合、その異見を伝える媒体としての役割を果たすべきだ」としながら「言論が利敵行為であり反国家的行為というフレームから接するのでは、言論の社会的役割を放棄するものだと言わざるを得ない」と強調し、「市民団体は天安艦問題の真実を追究しようとする活動に対する政府、守旧言論の非理性的な攻撃にもかかわらず、市民とともに真実の究明を続けていく」としています。
また、チョン・ヨンスク民主社会のための弁護士の集い(民弁)事務総長は、「天安艦の真実を暴かねばならないと言う声をより高めたのは国民ではなく政府である」とし「政府の調査結果に対して、国家の主人である国民が個人であれ、団体であれ疑問を突きつけるのは憲法で保障された国民の基本権」だと強調した上で、「しかし問題を提起したという理由だけで告訴され、捜査対象となり、発言と日常生活で支障をきたしている人々が数え切れない」「法曹界は天安艦の真実を越え、去る1年間わが社会に表現の自由が存在したのかについて一層注目したい」と主張しています。
そして「法廷であれ歴史の法廷であれ真実はいつかは明らかになる」としながら「歴史に任せるのではなく、当代に真相を明らかにし(天安艦で)死亡した霊魂を慰労しなければならない」と主張します。
この一年間政府は学校教育でも「天安艦問題」について「北の仕業」だと一方的に教えるように強制し、それに従わない教師に不利益を与えるというファシズム的取り締まりさえも行ってきました。
イ・ガンテク全国言論労働組合委員長は「政府は天安艦に関して口では科学を言いながら実際には信仰を作っている」と指摘しながら「過去に宗教会議が力で異端を作り上げ、本を焼き、疑いを持つ人々を異端に追い込み殺した」「いまの政府の行いはまさにその前段階の作業だ」と指摘しています。
この日の共同記者会見では「政府と国会に送る提言」という会見文が朗読され、これに署名した各界人士97名は天安艦沈没の原因究明のための追加調査と検証が必要だと主張しています。とくに「国会が国民を代表して国政調査などの方法で検証をしなければならず」「関連国家および北朝鮮も参加する国際的な検証作業を実現すべき」だと主張しました。
さらに△天安艦事件と関連した一次資料と調査結果に関する情報の公開、△政府はアメリカなどと締結した情報非公開了解覚書の改正,情報統制を緩和、市民の請求する情報の即刻公開、△天安艦問題に関する意思表現の自由の保障、合理的疑問点を調査報道した言論に対する不利益措置の撤回、不当な圧力の根絶などを要求しています。
こうした市民運動の中で新たな疑問が生まれています。やはり市民運動の中で明らかになったことです。
その疑問とは例の北朝鮮製「1番魚雷」のスクリュウの周辺に、なんと事件の起きた西海ではなく、朝鮮東海に生殖する赤い海鞘の赤ちゃんがくっついていたのです。その写真がこれです(下)。
この写真は「秋の夜」というハンドルネームを持つ韓国のブロガーが、魚雷の展示されている「戦争記念館」を訪れ、魚雷の写真を2度にわたって撮影したのを拡大する過程で、長さ0.3㍉程度のこの物体を発見したものです。国防部当局はこの物体を認識していなかったと言っています。やはり検証はいい加減に行われていました。
ところで問題は、韓国科学界誌2009年第18巻に掲載された国立農水産科学院東海水産研究所の論文、「赤い海鞘の発生に関する水温および塩分の影響」によれば、この海鞘はロシア、カナダ、アメリカベーリング海、日本の北海道、朝鮮半島の東海の水深20~100㍍のところで生殖すると言われているばかりか、大きさと状態から見て11月ころに付着したと見られるものだと言うのです(赤い海鞘の産卵期は9~12月)。
韓国最大の海鞘産地である慶尚南道トンヨンスハ殖水産業協同組合の関係者はオーマイ・ニュースの電話取材に対し、赤い海鞘はこの一体では棲息しない」と言い、西海5道地域を統括する仁川水協関係者も「仁川水協管内には海鞘養殖場はひとつもない」と語っています。
と言うことはこの「一番魚雷」は天安艦我沈没する5ヶ月ほど前、つまり一昨年の9~12月の間は天安艦が沈没した西海ではなく、東海の海底にあったことになります。
実はこれと同じことが以前に暴露されたことがあります。ホタテ貝の赤ちゃんが魚雷のスクリュウ軸の周辺に棲息していたのです。漁業関係者らはそのホタテも色合いから東海に棲息するものだと指摘していましたが、これが社会に知れるや国防当局が人知れず魚雷からそれを取り出してつぶし、かけらの一部だけを検査してホタテではなく他の貝だと強弁したことがありました。
どうせ今回も同じような下劣なことをするのでしょう。
天安艦事件はまだ終わっていません。何よりも韓国政府はこの事件を口実に北との対話を拒み、緊張緩和を妨げています。韓国の対北行動はこの天安艦事件に縛られたままです。かといって真相の究明は李明博政権の命取りになりかねません。また反北守旧右翼、韓国版ネオコンの命脈が断ち切られる恐れもあります。対米関係も影響を受けます。そのため李明博政権はこの事件を迷宮入りさせたまま「北の仕業」を既成事実化するために狂奔することでしょう。もっとも日本の言論もこうした李明確政権の動きを脇で支えているようなものですが。やはり日本の言論は死んでいるか眠っているのでしょう。
ホタテに続き海鞘の赤ちゃんが主張する事実をどのように受け止めるか見物です。