現代自動車の非正規雇用労働者が抗議の焼身自殺図る | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

韓国から衝撃的なニュースが入ってきました。日本やアメリカでもブランドが認められている韓国の現代自動車で開かれた民主労総の嶺南圏決意大会に参加していた黄某氏(34)という非正規職労働者が、焼身自殺を図ったのです。


焼身自殺を図った労働者は現代自動車の蔚山第4工場の社内下請け会社に所属していますが、10年にわたって現代自動車で非正規雇用労働者として働いてきました。黄氏はすでに6日目に突入した第1工場での占拠ストに応援として参加していましたが、17日に、母親が病に倒れたとの知らせに工場を離れ、18日に再び同工場を訪れましたが、社側の制止に何度も遭遇し、非正規職支会の事務所で過ごしていました。

そして20日15時から始まった民主労総決意大会に参加し、16時20分頃、突然舞台に駆け上り灯油を頭からは被りライターで火をつけ焼身自殺を図ったのです。


集会参加者らがすぐに駆け寄り火を消しましたが、黄氏は手と腕、顔、耳などにひどい火傷を負い救急車で近くのベスティアン病院に運ばれましたが、不幸中の幸いというか意識はしっかりしており、病院に到着した後も同僚に向かって「最後まで闘おう」と訴えていたといいます。彼の行動が挫折感や悲観によるものではなく、抗議の焼身行為だったということがわかります。


ⓒ레프트21(임수현)


民主労総は集会をすぐに中断し、1000余人の参加者全員が48時間の屋外篭城に入ると宣言しました。また民主労働党は論評を発表し、「現代自動車の暴力的鎮圧に抗議して非正規職労働者が焼身する極限的事態が生まれた」とし、「非正規職労働者を永遠に奴隷としてこき使うための反人権的蛮行をためらいも無く加える現代自動車にはたして人間の血が流れているのか」と強く非難しました。


民主労働党がこのように強く非難するのにはわけがあります。実は去る7月、裁判所が現代自動車の社内下請けは不法派遣であるとし、非正規職労働者も現代自動車が直接雇用したものであると見るべきだとの判決を下しています。つまり非正規職労働者は実態は不法派遣であるとし、正規職として雇用しなければならないという判決が下りたということです。


判決の理由は、現代自動車が非正規職労働者に直接具体的な指揮、命令などの労務管理を行っていたことが認められ、現代自動車は労働部の許可を得なかったばかりか、製造業の直接的生産工程業務は労働者の派遣対象業務から除外されているなどの理由から、不法な派遣であるというものです。地裁はまた2年以上勤務したものは改定前の派遣法により、現代側が直接雇用すべきだというものです。ソウル高裁も同様の判決を下しています。さらに高裁は現代側が「2年以上勤務した派遣労働者は直接雇用したものとみなす」という判決は違憲だとして提出した違憲法律提請申請を棄却しています。現代側は現在この判決に不服し、違憲裁判所へ提訴するかどうかを検討しているといいます。


つまり現代側はこの判決を受け入れず、引き続き正規職への雇用転換を避けてきたわけです。そのため、非正規職労働者らで組織された非正規職労組の組合員が現代自動車の各地の製造工場で、判決に従い正規職への転換を実現すべきだとの要求を会社側に同時多発的に訴えていたのです。


しかし会社側は裁判判決や、非正規職労働者の雇用の実態をまったく無視し、会社が直接雇用した社員ではないとして、非正規職労組が9月以降5回にわたって交渉を要求したにもかかわらず、一切の交渉に姿を見せず衝突が予想されていました。

焼身自殺事件が起きた蔚山第1工場では非正規職労組員約550人が2006年以降4年ぶりに15日から工場を占拠し篭城に突入していました。蔚山だけではなく全州、峨山工場でも同じような事態が生じているといいます。


焼身自殺の起きた日、警察が篭城している労働者を襲い49人を連行し、多数の負傷者を出したと伝えられます。また、15日の明け方に26人の非正規労働者がシート1向上のフロントラインを占拠して、篭城を始めたところ一時間あまり後には全員が警察に連行されています。この過程で会社側管理者や用益職員(主にスト対策要員)が消火器と催涙益を撒き、フレームを振りかざして頭部や耳が裂ける傷を負う組合員が続出しています。その後夜間組みの組合員400人が工場近隣で篭城を始め、納品車両の進入を阻止するなどしましたが、すぐに警察と衝突し20余人が連行されています。


ところが問題はこうした会社側の強硬な姿勢が警察の後ろ盾によって加えられているということです。そしてこうした警察のすばやい行動が、警察と会社側の密な連携に基づいていると信じるだけの証拠が出てきました。それは15日の衝突時に蔚山中部警察署の「現代自動車シート作業部トンソン社(社内下請け会社)廃業関連警備対策」という書類が発見され、社側と警察が、労組の動きを事前に察知し、強調して弾圧に当たったことを示していたのです。


その書類には「15日6時30分頃、(労組側による)納品車両の出入り阻止を予定してコンテナー4つとバス7台で正門を遮断し、警備員を動員して非正規労働者の出入りを阻止するとの計画に従って管理者760余人を動員して納品車両の移動導線に待機させる」と書かれていたといいます。そして実際に会社側要員と警察はそのとおりに動いているのです。

もっとも韓国ではこうしたことは当たり前のことになっています。警察は常に労働者よりも企業を大事にし、労働者の権利を守ることよりも企業の横暴を助けることに従事しています。しかもきわめて露骨にです。つい最近ですが(ブログでも紹介しました)、今年は勤労基準法死守を訴えて韓国労働運動再生のたたかいに火を付けた全泰一青年の抗議の焼身自殺から40年に当たります。


韓国では「全泰一烈士精神継承2010全国労働者大会」がソウル広場で行われ」「全泰一精神継承を決意することの今日的意味は、80万組合員すべてが全泰一のように思考し、活動し、非正規職、中小零細の低賃金労働者、移住労働者との階級的団結を最優先し、市民社会民衆陣営との連帯を通じて反労働、反民主、反統一勢力である李明博政権を審判する闘争に打って出ることだ」とし、「2011年に80万人が参加する一大総ストライキを含む大衆闘争を組織展開する」「労働者の政治勢力化をいっそう組織的に進め、労働者、農民、汗を流して働く人々を真に代弁することのできる政治権力を打ち立てるための闘争をより後半に展開する」との決意を表明しています。

http://ameblo.jp/khbong/entry-10700391358.html


黄某氏の焼身の闘いがブランドの陰に隠れた現代自動車の悪魔的姿を暴き出しています。黄某氏の闘いは現代自動車でこき使われている非正規労働者の決意を一層強めるでしょう。