対北心理戦は立派な軍事作戦 いつまで続く南の軍事強硬策 | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

実は金正恩朝鮮労働党軍事委員会副委員長の漢字表記が正式に公表されるなど、金正恩氏にまつわるニュースが溢れているのでそれについて書こうとも思いましたが、「顔整形」の話までが飛び出したのを聞き、一気にその気が失せてしまいました。


こうした低次元のばかげた話についていちいち書いていたのではブログの品位が落ちると思ったからです。少なくとも他人の書いた記事などを批判、批評している者として、内容はともあれブログの品位だけは落としたくないと思っている管理人にとって、過去の「金正日替え玉説」を思い起こさせるような低次元の話に引き込まれる筋合いはないというのが管理人の考えです。


というわけで、他のネタを探したわけですが、一つ見つけました。それについて書こうと思います。(ここ数3日ブログを休みましたが、たいした理由があるわけではありません。気候のせいか体がだるく、なんとも意欲が湧かないので、いわゆるずる休みをしたわけです。コメントで体のことを心配してくれた「無題」さん、ありがとうございます。がんばります。)


さて韓国の連合ニュースによれば5日、ソウル龍山の国防部大会議室で開かれた国会国防委員会国政監査に出席した金泰栄国防長官が、北朝鮮に対する心理戦をいっそう強化する方針であり、近くAMラジオを散布する計画であることを明かしました。


国防部は「天安艦」事件語、いわゆる「報復措置」として対北宣伝ビラの散布、拡声器およびラジオ電波による対北放送などの対北心理戦を再開すると発表し、ラジオ電波放送は実際に行ってきました。拡声器は11箇所に設置しましたが、拡声器放送を実施すればピンポイント攻撃を行うとの北朝鮮軍部の警告もあってか、いまだに放送を開始してはいないようです。もっとも追加で3箇所にスピーカーを設置すると言っているので、あきらめたわけではないようです。


今回の発表は、5.24措置の具体化の意味もあり、これまで心理戦をFM放送で行っていたものをAM放送に切り替え、受信の出来るラジオを大量にばら撒くというのです。金国防長官は次のように語っています。


「対北心理戦放送をFMからAM方式に転換する一方、北地域でこれを聞けるようにラジオを散布する作戦を準備中だ」、「過去にもラジオを大量に散布した。今回も対北ビラ散布作戦と結合した形でラジオの物資散布作戦を準備中だ」「対北拡声器を11箇所に設置したことだけでも北に心理的な圧迫を与えている」「北を圧迫しなければならないという判断が降りたときには拡声器放送を実施し、すでに印刷されているビラを即刻散布する計画だ」


これまで韓国政府は休戦戦での対北ビラの配布は民間でやっているので強制的に取り締まることは出来ない」として、北側の中止要求の受け入れを避けてきましたが、金国防長官の発言は対北心理戦が、韓国軍の軍事作戦として準備され実施されてきたことを明らかにしたもので、民間の行動はその事実を覆い隠すためのカモフラージュの役割を担ってきた面があることを自ら暴露したものだといえるでしょう。


問題はこの発言が8月30日の南北軍事実務会談で、北側が韓国の保守団体によるビラ散布を問題視し、「特に前線一帯の我が砲兵部隊は、発見した散布地点を打撃する万端の射撃体勢を整えている」と警告した後の発言だということです。北側はこれまでにも南側が大型スピーカーによる心理戦放送を実施した場合にはこれを撃破すると警告してきました。


金国防長官の発言はこうした北側の強硬な警告をまったく無視していることを示しており、当然に北側の強い反発を招くことになるでしょう。仮に韓国軍部が計画している作戦を実行した場合、武力衝突の危険も考えなければならない状況が生まれています。


もちろん韓国の世論は国防部のこうした強硬な姿勢を拒否しています。4日、民主党のウォン・へヨン議員が調査期間の「ウリ・リサーチ」に依頼し、全国20歳以上の男女1024人を対象に電話調査方式で行った世論調査(誤差範囲は信頼水準95%、最大許容誤差±3.1)結果を公表した「10.4南北頂上会談祈念泰北統一政策国民世論調査」によれば韓国民の62.3%が李明博大統領は金大中、ノ・ムヒョン政権が推進した対北政策を受け入れるべきだと答え、歴代政権では金大中政権下の統一政策に対する支持が最も高くて34.5%、ノ・ムヒョン政権15.7%、全斗煥政権2.8%、金泳三政権2.2%、ノ・テウ政権1.3%と続いています。


また対北政策について圧迫政策(13.9%)よりも南北対話(55.2%)を望んでおり、統一問題の主務部署である統一部の役割については良くやっていない(45.2%)、まったく良くやっていない(18.6%)が63.8%に達しています。


韓国民の統一に関する国民感情の居所が良くわかりますが、金国防長官が公表した軍部の対北心理戦の作戦がこうした国民感情とまったく相容れないことがわかります。国民は対決を望んでおらず6.15,10.4南北共同宣言に基づく対話による相互理解と接触、交流をどんどん進めていくことを願っているのです。


にもかかわらず金国防長官の示したような軍事的強硬策がなぜ採用されるのでしょうか。
やはり「天安艦」事件以来、行動の幅が著しく狭まり、北側の対話攻勢を受けきれないことから来るヒステリックな症状だと言っては言いすぎでしょうか。しかし、北側の対話攻勢に何一つ前向きに対処していないというのが今の韓国の姿です。南北離散家族の面会問題にしてもようやく合意を見れたのは北側の大胆な譲歩によるものでした。


韓国が軍事的強硬策を捨てようとしない原因として今ひとつ考えられるのは、11月の中間選挙を前にして、オバマ政権が対北朝鮮政策変更の可能性を見せているためでしょう。現在考えられるオバマ政権の対北朝鮮政策の変更とは、朝米両者対話に対し前向きな変化を見せることです。アメリカはすでにそうしたシグナルを中国や北朝鮮に送っているようでもあります。アメリカの北朝鮮担当高官らの口からもそれを示唆するような発言が続いています。


李明博政権としては心穏やかではないでしょう。特に金国防長官のようなウルトラ反北右翼人には危険さえ感じられているはずです。そうした危機意識が強硬姿勢を取らせているのではないでしょうか。


だとすればこのような強硬策が長く持ちこたえられるものではないと見ることも出来ます。仮に北側がこうした強硬策に正面から打撃を与えるような行動を取った場合、こうした強硬策は一瞬にして萎んでしまうのではないでしょうか。もはや「天安艦」事件のように北側を一方的に非難することは出来そうも無く、逆に自ら招いた結果だと言われるだけでしょうから。そして韓国民の南北関係改善に対する要望はいっそう強くなり、6.15,10.4宣言の実行を迫る運動が急速に拡大していくでしょう。まさに韓国軍部の姿勢は墓穴を掘るようなものだと言わねばなりません。