焦るアメリカ、またも外交敗北の韓国、ノー天気な毎日の社説 | 朝鮮問題深掘りすると?

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初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

23日、ハノイで東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)が開かれました。東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)の議長国ベトナムは24日、ハノイで前日に開かれたARF閣僚会議の議長声明を発表しました。声明は韓国哨戒艦沈没について「攻撃により引き起こされた韓国の哨戒艦沈没に深い懸念を表明」としたものの、北朝鮮の名指し非難は避けました。安保理外交戦に続き米韓日の外交的敗北です。


新聞の社説がこの問題をどのように捉えているのかをを見てみました。毎日新聞は24日の社説「北朝鮮ARF参加 言い逃れは通らない」を載せましたが、結局何も言っていないのと同じだといっても良い低質なものでした。


社説はまず、今回の「(ARF)最大の焦点は韓国哨戒艦の沈没事件である」と書きましたが、極めて恣意的な評価です。議長声明が閉会までに作成されず、閉会した翌日になって発表された要因がなによりも南シナ海問題を巡る中国―アセアンー米国の利害衝突にあったことは確認されており、そのことから見ても「最大の焦点は韓国哨戒艦の沈没事件である」とした判断はやはり恣意的だというべきでしょう。もちろん焦点の一つであったことに間違いはありませんが。


同社説はまた「安保理の会合では韓国と北朝鮮から個別に説明を聞いただけだったため、ARFでの議論が国際舞台での『初の南北直接対決』となった」と書いていますがそうであれば、この直接対決でも米韓は惨めな敗退を喫したというべきでしょう。


なぜならARF議長声明は国連安保理議長声明以上のものではなく、より温和な表現を多く使っているからです。そのため社説は「問題解決への近道はないことを覚悟して、北朝鮮の責任逃れを許さず、『対話と圧力』を続けるしかあるまい」と主張しますが、その根底に「韓国側の多国籍調査団は哨戒艦の沈没原因を『北朝鮮の魚雷攻撃』と結論した。十分な説得力があり、本来は安保理で北朝鮮の責任を明確に問うべきであった」と言う認識があることに間違いないでしょう。


社説の最大の問題点はまさにここにあります。韓国の軍民合同調査団の下した結論が「十分な説得力がある」と見ている社説の筆者は、はたしてこの問題を真剣に検討した上でそのような判断を下したのでしょうか?だとすれば筆者の脳内を調べて見る必要性が生まれてきます。はたして彼は管理人がブログで紹介してきた疑惑、それは合同調査団でさえ合理的な解明を放棄し、見ザル言わザル聴かザルの三猿を決め込んでいる問題ですが、それらを全て解明する事ができるはずです。管理人としてはどうあっても一度聞いてみたいものです。


無理な要求であることは十分に承知しています。この要求は「いじめ」に近いものかも知れません。しかし社説で堂々とそのように主張しているのですから、筆者にはその準備がなければならず、その要求に応えるべき義務があるはずです。


しかし日本社会の一般的認識の程度が、この社説のレベルを超えないものであることが現実のようです。社説は大衆迎合を選択したということです。ジャーナリストの義務放棄です。


そのため朝鮮東海(日本海)で今日から始まった米韓合同軍事演習に対しても極めて無関心です。毎日の社説は「そこで米韓は、日本海での大規模な合同軍事演習をはじめとする一連の長期的な軍事演習を決めた。ソウルでの外務・国防担当閣僚会議の際にはクリントン米国務長官が新たな対北朝鮮制裁を予告した。その上で、日米韓が共同歩調をとる構えでハノイに乗り込んだのだ。」と書くことで、史上最大の米韓合同軍事演習をはじめとする長期的な軍事演習が対北圧迫の軍事的手段であり、それは米日韓の共同歩調の現れであることをほのめかしています。


ところが国連安保理議長声明もARF議長声明も、こぞって緊張激化反対、問題の平和的解決を主張しています。ARF議長声明は8項で「長官らは朝鮮半島と地域の平和・安定維持の重要性を強調し、関連当事者らがあらゆる紛争を平和的手段で解決することを促した。このような脈絡にしたがって長官らは2010年7月9日付け国連安保理議長声明への支持を表明した」と明らかにしています。


毎日の社説はこの部分をまったく無視し、一触即発の軍事的緊張激化をもたらす他ない米韓合同軍事演習を、対北圧迫手段として強行することになんの疑問も示していません。むしろそれを当然の選択のように受け入れています。それが安保理議長声明やARF議長声明を拒否した行動であることに気が付いているからわざとそうしたのでしょうか?だとしたら、社説の筆者は実に腹黒い人物だといわれるでしょう。


ARF議長声明はまた第9項で「長官らは完全で検証可能な朝鮮半島非核化に対する支持を再確認し、当事者らが6者会談に復帰することを勧告した。また長官らは関連国連安保理決議の重要性を協商した」と明かしています。


しかし、軍事的圧迫に希望を持つ以外に手段を見い出せないアメリカは、対北「制裁」に重きを置き、6者会談に向かう気は今のところ無いようです。21日に行われた韓米外交国防長官会議長官記者会見で、クリントン米国務長官は「北朝鮮の核拡散防止、核プログラム財政支援中断、挑発活動中断のために新たな制裁措置を取ることになる」としながら、6者会談再開問題については「我われはいまだ追求してはいない」とし、「北朝鮮が一定の措置を取り天安艦事件に対する責任を認め、不可逆的な非核化の意思を見せ、挑発的で好戦的な行動を中断すること」を条件として打ち出しています。


さらにクリントン米国務長官は、「ドアはまだ開いている」とも述べたようですが、扉の周辺を重武装した軍隊で囲みながら扉を開けてもだれも入らないでしょう。子供だましの随分とばかげた言い分です。


北朝鮮が、自国とはまったく関係ないと主張している天安艦事件で「責任を取る」ことはありえず、「不可逆的な非核化」に関する北朝鮮の主張は、なによりも朝鮮半島全域を前提にしている点で、北朝鮮に限定している米韓の主張とは相容れないものであることを考えれば、結局クリントン国務長官の言葉は、当分6者会談の再開については考えていないと言うことになります。


つまりアメリカや韓国、日本は天安艦事件後の緊張した情勢を、平和・安定に向かわせようと言う国際社会の要求に耳を傾けていないということであり、従ってこれに対抗する北朝鮮も軍事的緊張激化にともなう準備を着々と推し進めるという悪循環を生み出しているということです。


もちろん北朝鮮は問題解決の道筋を提示しています。それが現在板門店で断続的に行われている朝米軍事会談です。今のところはまだ実務者会談(大佐レベル)ですが、北朝鮮側はこの会談を「天安艦事件の真相究明」を目的としたものにすることを主張し、議題もそのように設定されたと明かしています。

http://blog.ameba.jp/ucs/entry/srventryupdateinput.do?id=10592894561



しかし第2回実務者協議でアメリカ側は会談の性格を、天安艦事件が「軍事停戦協定にどのように違反しているかを合同評価する」為のものであると主張し、早くから前途を危ういものにしています。この第2回実務接触で北朝鮮側は国防委員会検閲団の構成、活動内容などについて具体的な提案を行っていますが、米側がこれを受け入れることは無いでしょう。ここにもアメリカのダブル・スタンダードが見られます。


北側に対して「責任を取れ」と言いながら、真相究明に極めて消極的なのは何故でしょう?
何故アメリカは北朝鮮に対して「そこまで否定するのなら合同で検証しよう」とは言わないのでしょうか?答えははっきりしています。明らかになっては困る事実があるからです。
その事実とは何でしょう。明らかに天安艦沈没の真相です。そしてその真相が明らかになれば米日韓の共同による北朝鮮圧迫策が根底から崩れることになるでしょう。


韓国の連合ニュースよると、24日、ARFに参加した北朝鮮消息筋が、記者と会い「ロシア代表団が我が方(北朝鮮)に天安艦調査結果に対して信頼できないと通報してきた」と伝えながら「真相が公開されれば韓国とアメリカが極めて困難な状況に陥ることになると言った」と伝えています。

http://www.yonhapnews.co.kr/bulletin/2010/07/24/0200000000AKR20100724001600043.HTML


調査団を韓国に派遣し、合同調査団の結論を信憑性が無いと評価した後、具体的な検証結果を発表していないロシアが、その結果を持って米韓両国と某種の「交渉」を持とうとしているのかもしれません。信憑性のある話です。問題はそのタイミングをどう計っているかでしょう。


こうしてみるとアメリカは不用意にも、天安艦事件に自国の対北朝鮮政策の命運をかけてしまったことがわかります。この問題を南北朝鮮に任せればよかったものを、李明博政権に不必要なてこ入れをすることでそうなってしまいました。ですから天安艦事件の真相を明らかにせよという、韓国の犠牲者家族をはじめとする韓国民の声を黙殺するのに躍起になっているのです。しかしこの賭博は極めて危険です。もはや多くの韓国民が感じている疑惑は到底隠し通せるもので無いところまで来てしまっています。そして7月28日には補選があります。これに負ければレーム・ダックの始まりとなりそうです。またオバマ政権は4ヵ月後に中間選挙を控えています。


こうして米韓には時間の余裕がありません。真相が明らかになる前にやるべきことを全て済ませなければなりません。天安艦事件以来の米国の一定しない発言、急速な「制裁」局面への突入準備など、一貫性の見られないアメリカの対北政策はその現われなのでしょう。しかしこれほど余裕が無く混乱し、焦っているアメリカを見るのは久しぶりです。


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