本社主筆の記事に見る朝日の劣化の程度 | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

昨日のブログで書いたように、今回は朝日新聞の船橋洋一主筆の書いた、実に稚拙な記事について意見を書きたいと思います。


その記事とは7日付けの朝刊1面にはじまるコラム「日本@地球」の「権力継承の危うさ」と題した長文の記事です。記事の長さから見ても異様ですが、その内容はこれが記者の書く記事かと、それこそ尋常なものではありませんでした。皮肉を言うつもりはありませんが、ここまで劣化した朝日の姿の危うさがひしひしと感じられます。


書き手が主筆だけに主筆に見合った批評が望まれるでしょう。そこで基本的なことをまず確認して行きたいと思います。まず、報道は事実に基づいたものである必要があり、事実を追求するための取材が不可欠だという点です。 憶測や推測に基づく記事は、信憑性が失われる原因となり、結果として信頼関係を失うことになります。 取材をして裏付けを取り、事実を報道することが、報道の原則でしょう。「報道は、事実をありのままに伝えること(事実を曲げないこと)」と言うのはこういうことでしょう。


ところがどの事実を、どのように報道するかは記者自信が選択すべき問題です。またその事実をどう理解し、判断するかははり記者本人の問題です。そこでジャーナリズムの具体的な担い手たちがジャーナリズムの理念を理解しているのか、もしくはそれを避けているのかという問題が生まれます。これこそジャーナリズムの根源的問題だと言っても良いでしょう。ジャーナリストが厳しい訓練を受ける必要性がここにあります。


このもっとも単純かつ基本的要素と照らして船橋主筆の書いた記事を検討してみました。が、具体的に検討する必要性がまったくない事に気がつきました。なぜなら記事全体がこの基本的要素、要求から逸脱しているからです。記事に反論を加えるべき要素が見当たらないのです。すべて事実無根なのですから反論を加えようがありません。あえて加えるならば無知をひけらかすなとでもいうべきでしょうか。船橋主筆が「ジョンウン氏直々に攻撃の指示を出した」とのCIA発の情報を、検証することもなく鵜呑みしているバカさ加減を見るにつれそうした思いが込みあがってきました。


「平壌中枢で・・・キム・ヨンチョル偵察総局長らの勢力と、張成沢氏の側近勢力との忠誠心競争から来る緊張、対立が取りざたされている。金正日氏とジョンウン氏の間の権力闘争が起きる可能性も否定できない。大韓航空機爆破に見られたような、権力継承期特有の恐ろしく危険な状況が生まれつつある」と書いた部分に来ては、失笑するしかありませんでした。彼は3文ミステリー小説家になりえても、ジャーナリストの巨匠にはどうあがいてもなれそうもありません。


彼の文章のところどころに出てくるCIA情報、「日本政府の北朝鮮情報担当官」、「情報系等のプロ」、「米政府の北朝鮮担当官」、「日米間の情報機関」「米軍情報分析センター」、「米研究所」などが真実を語るとは到底思えません。情報機関が自ら得た情報を生のまま外に流すことはありえず、必ずマッサージをして流すのは常識に属します。


どだい「日本政府の北朝鮮情報担当官」、「情報系等のプロ」、「米政府の北朝鮮担当官」、「日米間の情報機関」とはいったい誰のことなのでしょうか。匿名のニュース・ソースほど危険なものはありません。そのため、慎重な検証がともなわなければなりません。報道人にはその義務があります。


ましてや北朝鮮はCIAが世界で唯一高級情報に接する機会を持つことの出来るヒューミントを持てないでいる国であり、それはCIAも認めていることです。もちろん日本の情報機関はもっと情けない状態でしょう。これら情報機関の掌握している情報とはすべからく二次情報か伝聞によるもの(その多くがいわゆる脱北者らの金欲しさのでっち上げか、北朝鮮の敵対勢力が意図的に流す謀略情報ですが)であり、確認されたものではありません。


キム・ジョンイル国防委員長の後継問題と関連した話はその典型です。若しこれらの情報が事実だとしたら、朝米あるいは朝日、南北の外交戦で米日韓が苦戦を強いられてきた事実を説明しようがありません。つまり船橋主筆がソースとしているもの自体が信用できない憶測、推測の類を超えるものではないのです。その憶測や推測を基にしてさらに憶測、推測の類の記事を書いているわけですからとても新聞記事と呼べるものではないでしょう。簡単に言ってしまえば、井戸端会議の無邪気な会話の内容を報道に載せることで、世間を騒がせただけのことです。主筆のすることではないでしょう。おかげで朝日が恥をかくことになりました。


実際、船橋主筆が引用している事柄の一つでも立証できるものがあるのでしょうか?
立証も出来ない憶測、推測の類に基づいて記事を書くなどとは、ジャーナリストの良心があればとてもできるものではありません。「天安艦」事件に対する彼の判断を見てもそれは言えます。はたして彼は「天安艦」合同調査団が、自ら発表した同事件の調査結果に対する科学的反駁に直面し、次々と調査結果が嘘であったことを認めていることを知っているのでしょうか?仮に知っていたとしたら、このような無責任きわまる記事を書くことは出来なかったはずです。では知らなかったのでしょうか?かりにそうだとしたら、彼はジャーナリストを名乗るべきではありません。彼は主筆です。韓国には特派員が何人もいます。彼らを使っていくらでも情報を収集できたはずです。にも拘らずそれを試みなかったことになるのですから完璧な職務怠慢です。ジャーナリストとしての任務放棄だと言われても仕方ないでしょう。管理人がブログのはじめに書いたジャーナリストに求められる最低の要求さえも充足させられないでいるのです。


主筆がこの体たらくですから、他の記者の程度も知れています。そのため管理人は朝日新聞の劣化を憂いており、新聞ジャーナリズムの危機を考えざるを得ません。船橋主筆も一度、貴方が情報ソースとしている輩の本名を掲げ、その真偽を判断してみてはいかがでしょうか。これほどの長文の記事を確認のしようがない憶測、推測を元にそれみよがしに書いたのです。その責任はあるでしょう。そして主筆の地位を賭けて書いているのですから、内容が嘘八百であった事が明らかになったときには辞任することも考える必要があるのでは。もっともそれは船橋氏の道義感、道徳観が決めることではありますが。


最後にひと言。

アメリカ保守言論媒体で10余年間活動した後、1997年に右翼と決別しした保守言論人デービット・ブロック(Davit Brock)によれば、アメリカのネオコン週刊誌「ウィークリー・スタンダードの作家メット・ラベッシュがコロンビア・ジャーナリズム・リビュー」とのインタビューで次のように語ったと言います。
「(…)保守メディアはリベラル・メディアが客観的でないと攻撃するのを好む。しかしわれわれは、われわれの媒体には客観的でない事がより利益になるということを知っている。(…)他人には客観的でないと非難せよ。しかし自身は望むだけ主観的に行動しろ。これは収支の合う脅迫である」


船橋主筆がこれをじで行っているとは思いませんが、注意を喚起する意味で付け足しました。