「天安艦」事件の真相 アメリカは何を考えたのか-その1 | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

韓国の南部・全羅南道の「羅老(ナロ)宇宙センター」から10日夕、人工衛星搭載ロケット「ナロ号」が発射されたましたが、韓国教育科学技術省などによると、残念なことに2分17秒後、高度約70キロ付近でロケットが爆発し、打ち上げに失敗したようです。


前回の打ち上げも失敗し、万全を期しての打ち上げでしたが、惨めな失敗に終わりました。「天安号」事件で6.2地方選挙を切り抜けようとした企てが完全に失敗し、ここでなにか世論の雰囲気を変えたいところでしたが、思うようには行かないようです。


中央日報、ソウル放送、東北アジア研究所が合同で4月24~26日にかけて行った世論調査によれば、有権者の65%が地方選の結果は李明博政権に対する審判だと認識していると言うことです。さらに目を引くのは62.7%が与党(したがって李明博政権)が天安艦事件を、地方選挙に利用したと認識している事が明らかになりました。5月30日のSBSの夜の番組「8ニュース」でもパネル調査の結果67.2%が天安艦事件の調査結果には政治的意図があると答えています。


つまり有権者は「選択」をしたのではなく「審判」を下したのです。そう、李明博政権に対してです。それが今回の地方選挙が見せた本質的な側面でしょう。ですから「民主党が勝った」のではなく「国民が勝った」と評価されているのです。


これは天安艦事件を口実に吹き荒れたいわゆる「北風」が、今回の地方選挙では威力を発揮できなかったばかりか、逆に鉄槌となってブロー・バックしたことを物語っています。つまり李明博政権の狙いが完全に外れたということです。その狙いはなんだったのかと言う点については9日のブログで指摘したアメリカの狙いの中で一応書いておきました。


ところが、読者の方からのメッセージで、アメリカの狙いについてもう少し掘り下げてもらいたいとの要望があったので、今回からその点について数回にわけて指摘したいと思います。


ここで気になるのはアメリカの民間シンクタンクである「新アメリカ安保センター」(CNAS)が天安艦事件以後、オバマ行政府は既存の対北「抱擁政策」の代わりに北朝鮮との制限的な対決(limitedconfrontation)を念頭に置いた状態で、韓国が主導する対北制裁を積極的に支援するという、新たな対北接近法を採択すべきだと主張したことです。


「自由アジア放送」によればCNASは10日の年例コンファレンスを前に8日、公開した報告書で「天安艦事件はその間、北朝鮮を抱擁し変化を誘導してきたバラク・オバマアメリカ行政府に純粋な意味での対北抱擁政策が事実上不可能だという事実を見せ付けた」と明かしています。


つまりオバマ政権の対北朝鮮政策は破綻していることを示したというわけですが、「天安艦」事件がでっち上げであるとしたら、この報告書は次のように、つまり「天安艦事件はこれまでのオバマ行政府の対北朝鮮政策が失敗したことを認め、方向転換したことを示した」と言いかえる必要がありそうです。


オバマ政権の対北朝鮮政策が「抱擁政策」であったと規定するのもどうかと思いますが、オバマ政権の対北朝鮮政策が完全に行き詰っていることは確かでしょう。それは北朝鮮の平和条約締結に関する提案に未だに明快な回答を与えられないでいることからも分かります。


だいたいからしてアメリカにとって6者会談は、北朝鮮の核武装を阻止し、それがもたらしうる核拡散の恐れを排除するために必要だったわけですから、北朝鮮が核武装をしてしまった時点で6者会談の存在意味は無くなっているわけです。それでも6者会談に固執したいのであれば別のイッシューを提示し、6者の合意を見なければなりません。北朝鮮はその新たなイッシューとして、朝鮮休戦協定の朝米平和協定への発展的意向を通じて、東北アジアの平和と安定の構造をt繰り上げることを提案していることは既にブログでも指摘しました。


ですが、アメリカは未だに既存の6者会談に固執し、北朝鮮の核武装という新たな状況に対応した政策を打ち出せないままでいます。こうしたオバマ政権にとって「天安艦」事件は新たな政策変更のうまい口実になるというわけです。そしてそうした政策変更は少なくとも「抱擁政策」ではないということです。つまり敵対的対抗政策にならざるを得ないということになるでしょう。


李明博大統領が24日に発表した「天安艦対国民談話」は▼北朝鮮船舶に対する海上交通路封鎖、▼南北交易交流の中断、▼北朝鮮の挑発に対する積極的抑制原則、▼「天安艦」事件の国連安保理への回付などを核心的ないようとする極めて強硬なものものでしたが、それはオバマ政権の意思を汲んでのものでしょう。


こうした推測は「天安艦」事件直後からの、アメリカの対応を見れば妥当な推測だという事がわかると思います。もっとも「天安艦」事件が起きた直後と、現在のアメリカの動きには落差があり、一貫しない姿が見受けられますが、それは思わぬ事態の変化が当初の思惑をひっくり返したことから生じた緊急対応の意味が強く、その変化が今後の対朝鮮政策にどのような影をもたらすかはもう少し時間を置いてみた方がよいようです。


しかしいずれにせよアメリカがこの事件を対北朝鮮政策に利用しようとしたのは明確であり、とくにオバマ大統領は11月には中間選挙の洗礼を受けねばならない事情は、先に見た李政権の強硬政策が李明博大統領の口を借りたアメリカの政策変化だという推測をいっそう現実的なものにします。この点については次回からもうすこし詳しく指摘したいと思います。(つづく)