平和協定締結協議を米に正式提案(下) | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

前回に続いて、今回は北朝鮮外務省の声明で、管理人が注目すべきと思う点を指摘していきたいと思います。

声明は


第1に、朝鮮半島の平和体制を実現するす上で核問題がどのような位置を占め、どのように解決されるべきかという点について北朝鮮の考えを良く知ることができます。


声明は朝鮮半島が決して平和的でなく朝米間の交戦状態にあるという点を冷静に見つめています。声明が指摘しているように朝米間の戦争は1953年の7月23日の停戦協定によって終戦ではなく「休戦」となっています。その後停戦協定に従ってジュネーブ会談が開かれましたが、米側が一方的に席を蹴ったために終戦に至っていません。

つまり今も交戦状態にあるという言うことです。ですから仮に今再び戦端が開かれたとしてもそれは新たな戦争の勃発ではなく過去の朝鮮戦争の再開と言うことになります。交戦関係にある以上、何かの拍子で全面戦争の戦端が開かれるかもしれないのです。


北朝鮮はこうした交戦状態の下でアメリカの政治、軍事、経済的圧力と干渉、「制裁」を受け続けてきたのです。こうした軍事的緊張を抜きにして現在の北朝鮮を理解しているとわけが判らなくなくなってしまいます。核の問題もそうです。
北朝鮮外務省の声明はこの点を強調しています。それが北朝鮮の核問題理解の前提にならなくてはいけないということです。北朝鮮が何よりもまず朝米が平和条約を締結すべきだと主張している所以です。


第2に、3,4項を見ればはっきりしますが、朝鮮半島の核問題が徹底して朝米敵対関係を解消する問題であると言う点を明確にしている点です。


第3に、平和協定当事国として韓国の地位を留保していると言う点です。

声明は「停戦協定当事国」と言っていますが、これには韓国が含まれません。朝鮮戦争の終戦宣言と平和協定は繋がっており、同時実現の可能性が濃いようです。実は韓国軍は米軍に指揮権を預けたのであって軍事的主体としてのの地位を自ら投げ出したのです。つまり停戦協定に調印する資格がなかったのです。ましてや韓国は停戦協定に最後まで抵抗した経歴を持っています。つまり韓国には終戦宣言にお参加する資格も平和協定にサインする資格も無いわけです。


しかし他方で北朝鮮は別のところで、つまり朝鮮半島平和フォーラムの参加国の中に韓国を加えても良いと言う柔軟な態度を見せています。なぜ柔軟な態度かと言うと、未だに韓国軍の戦時指揮権は米軍が握っているからです。つまり軍事的主体となっていない韓国も朝鮮半島平和フォーラムのメンバーに入れているのです。したがって留保的態度を取っているというわけです。つぎにも見るようにそれは韓国の態度を注視するということなのでしょう。


第4に制裁と言う差別と障壁が除去されたら6者会談自体も即刻開かれるだろうとした点です。

ここでは「制裁」と6者会談が直線で結び付けられています。つまり6者会談が朝米平和協定よりも「制裁」と直接結び付けられているということです。「制裁」が解かれれば即刻6者会談に復帰するといっているわけですから、6者会談再開へのアプローチに変化があったようです。


現在米日韓3国は6者会談に復帰しても「制裁」を解除しないとして、「制裁」を非核化の問題と結び付けていますが、今後論難の対象になると思われます。例えば韓国のリュウ・ミョンファン外交通商部長官は6日のインタビューで、「北朝鮮が平和体制問題を先に論議しようといっているのは非核化を遅延させようと言う戦術」だと誹謗しましたが、こうした態度は韓国を平和協定当事者として認めるかどうかという北朝鮮の判断に、影響を与えるしかないでしょう。


北朝鮮は例えば韓国は平和協定当事国には含まれなくても平和体制構築の際の関連国には含まれると言うふうに、平和協定当事者と平和体制関連国を使い分けている節があります。韓国が盲目的に自己主張ばかりしていては、結局のところ米中の圧力に李明博政権がさらされるという事になるのではないでしょうか。


第5に、9.19共同宣言における行動順位を前倒しするかたちで平和協定締結問題を論議することができると指摘している点です。これは管理人も指摘したボズワース朝鮮政策特別大使の訪朝を通じて浮上した「併行説」を念頭に置いているものと思われます。

http://ameblo.jp/khbong/entry-10414422930.html


第6に、平和協定締結問題を別途のフォーラムで進めることもできるし、6者会談の枠の中で進めることもできると指摘している点です。ただし6者会談の枠の中で行われる場合、参加国は明らかに限られます。韓国は含まれますが日本とロシアは除外されるでしょう。声明では「朝米会談のように…」というように参加国を限定しています。


もっともアメリカは、国連安保理の尋常でない決議に従って作られた国連軍の司令官の地位を占めたことから、国連軍を代表して停戦協定に調印しており、したがって平和協定には国連軍司令官として調印することになるので、6者会談の枠の中でこの問題が論議されるのは特に問題は無いと思われます。


ボズワースの訪朝-オバマ親書伝達-朝米会談の後、一息入れていた所に突然の声明でした。朝米を比べると北朝鮮の方が一歩先を進んでいるようです。つまり主導権を握っているということでしょう。アメリカに対し直球で政策変更の明確な態度表明を迫っているわけですから、北朝鮮の戦略的判断の鋭さが際立っています。


日本外務省もこうした北朝鮮の外交術をよく分析し、相当の準備をしてから対面するように心がける必要がありそうです。拉致問題のように嘘をつく外交は二度と通じないということを肝に命じるべきでしょう。韓国も考える必要があります。リュ・ミョンファン外交通商部長官の新年のインタビューの内容と、北朝鮮外務省の声明のずれをどのように理解しているのでしょうか。多分北朝鮮の出方が韓国政府の予想を超えているのでしょう。


北朝鮮外務省声明に対する関係各国の反応がどんなものか興味深深です。日本のマスコミは概ね北朝鮮が「頭を下げ始めた」といった認識を示していますが、これでは先の展開を読むことなど無理でしょう。北朝鮮の洗練された外交がまったくわかっていない証拠です。アメリカの視点から見るのはもう止めた方が良いと思うのですが、どうでしょうか。