北朝鮮国防委員長「訪中まじか説」を巡るマスコミの稚拙さ | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

昨年から日本のマスメディアで北朝鮮のキム・ジョンイル国防委員長の訪中まじか説」が乱舞してきましたが、いまもってその動きは感知されていません。やはり眉唾物であったと言ってもいいようです。


その間の日本の報道を見てみると、金総書記訪中の下準備? 北朝鮮が入国統制と韓国紙2009.12.16 13:06【ソウル=水沼啓子】(MSN産経)、【朝鮮半島ウオッチ】金正日総書記の訪中説、動く側近たち 2009.12.19 12:00(久保田るり子、同)、金総書記、来年早々に訪中か…北高官が準備(12月21日08時54分読売オンライン)、金総書記、1月にも訪中か ジョンウン氏の同行焦点(2009年12月31日3時2分asahi.com)、中国:遼寧省に「特別保安体制」、金総書記訪中に関係か(2010年1月5日 14時35分毎日JP)、金総書記訪中の兆候か 国境、鉄道警備も強化 往来も統制(2010.1.7 23:00産経)、金総書記の訪中、間近か…国境で特別警戒態勢(1月7日03時04分読売オンライン)、金総書記、近く訪中か 中朝国境、税関を閉鎖(北京=品田卓)(日経ネット01.07:00)などに続いて次のようなものもありました。
アメリカの自由アジア放送(9日)が「9日、平壌出発、10日北京到着予定」だと報じたのです。だが朝鮮中央通信は10日、国防委員長がカンドン弱電器具工場を視察したと報じています。通常、現地指導の翌日には報道されており、「自由アジア放送」の「9日、平壌出発」はまったくの嘘であったことがはっきりしました。ついでに言うならば事実9日夜から10日朝までに丹東に入った北朝鮮の列車は確認されていません。


その間、日本のマスコミがキム国防委員長の訪中まじか説の根拠として挙げて来た、丹東税関の取り締まりや警備の強化、瀋陽-平壌間列車の定時運行中断などの報道も事実と違っていたり、歪曲されたいたことが明らかになりつつあります。実際には12~15日にかけて開催される予定の両会(全人代と全国人民政治協商会議)、さらに2月の春節を控えて警備が若干強化されたという程度で、キム国防委員長の訪中が差し迫ったことを感知させる端緒はまったく発見されていません。


中国当局もはっきりと否定しています。7日、姜瑜外交部スポークスマンは定例のブリーフィングでキム国防委員長の「訪中ま近説」について、「現在までその方面の情報を聞いた事は無い」と明かしています。アメリカのフィリップ・クローリー国務省広報担当次官補もこの日の記者会見で「キム委員長の中国訪問に関する情報は無い」と語り、韓国政府の対北事情通は9日、一歩踏み込んで「直ちに中国を訪問するようには見えない」と一蹴しています。


韓国の連合ニュース(1月7日)は「対北消息通」の「(警備強化について)一般的現象であり、無理やり繋げた推測」に過ぎないと伝えています。同記事によると「5日に丹東に付いたというある日本メディアの記者は「警戒が強化され、税関が統制されたという報道のために急いで丹東に来たが、平素と別段違わない」と言いつつ「この状況ではキム委員長の訪中がま近だとは見られないので撤収するかどうか迷っている」と語ったと言います。
http://www.yonhapnews.co.kr/bulletin/2010/01/07/0200000000AKR20100107185300097.HTML


ところが今も丹東には韓国や日本など10余カ国のマスコミ媒体が、鴨緑江沿いのホテルに陣取り、取材競争を行っていると言います。


まったくあきれた話です。韓国の統一ニュースは丹東の住民や外交消息筋に話として、「最近の言論報道で指摘している内容は(「訪中ま近説」の)根拠にはなりえない」と口をそろえて指摘したと伝えています。
http://www.tongilnews.com/news/articleView.html?idxno=88171


丹東の住民らの話によると丹東公安当局が昨年12月20日から治安の強化、駅と海関(税関)周辺などに対する検問を強化したが、元旦から春祭を経て3月に開催される両会までの全国的範囲での治安強化の一環であり、慣行に従ったものだと言っています。これを「キム国防委員長の訪中と結びつけるのは無理」だというのが市民の一般的観測だと言っていいでしょう。税関の統制についても住民らは「北朝鮮は毎年12月中旬から1月初まで、一時的に税関業務を中断し、ふたたび2月中旬まで中断してきた」とし、「北朝鮮の事情を知らない状況下で言論が行過ぎた想像力を発揮したもの」だと皮肉っています。


つまりキム国防委員長の「訪中まじか説」はマスメディアの勝手な思い込みによって作られ、マスメディアによって増幅されてきたというわけです。


もっとも昨年中国の胡錦濤国家主席が10月28日に北京で行われた北朝鮮の崔泰福朝鮮労働党書記との会談で、金正日総書記の「都合の良い時期」の中国訪問を要請していますので、北朝鮮としてもキム国防委員長の訪中を念頭に置いていることでしょう。しかしアメリカのボズワース対北特別代表の訪朝後、詰めの会談が行われておらず朝米の合意が生まれていないときにキム国防委員長が訪中するとは思えません。


なぜなら国防委員長の訪中では明らかに、朝鮮半島の平和定着問題(朝米終戦宣言―平和体制の構築)で協議する必要があるので、同問題に対するアメリカの態度がはっきりしない限り訪中は控えると思われるからです。


それにしても年初からの日本のマスコミのいい加減さには閉口します。勝手な憶測と思い込みに基づく解説が多すぎます。はたして自分の書いた記事に責任を持てる記者が一体何人いるのでしょうか。