李明博大統領と中井洽(ひろし)の違い | 朝鮮問題深掘りすると?

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初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

ワシントンを訪問中の韓国の李明博大統領が現地時間の21日に、アメリカ外交協会、コリアソサイエティー、アジアソサイエティー共同主催の午餐での演説で、「北朝鮮の核問題」の解決方としていわゆる「グランド・バーゲン」なるものを持ち出した。


一言で言うと一種のビッグ・ディール政策だが、論議の最初の段階で北朝鮮の核プログラムの核心部分の廃棄を最終目標として非可逆的な核放棄を確保するというもので、北朝鮮が「国際社会の容認できる」水準にまで、核兵器及び核物質の廃棄と関連する根本的措置に応じた場合に、一度で意味のある反対給付を与えると言うもの。


かつて6者会談で採用された方法の「行動対行動」の原則に従って、段階的に問題を解決していく方式ではなく、一挙に全ての問題について合意を見た後、北朝鮮がなすべきこと、つまり「核廃棄」もしくは「核開発プランの廃棄」のすべてを「容認できる水準にまで」実行した暁に、米中ロ韓日の5カ国が約束した支援措置を取るというもの。


李明博大統領が自信を持って出した提案だが、アメリカの反応は極めて冷たいようだ。
カート・キャンベル東アジア担当次官補は、同じ日にあった米韓外務長官会議直後のブリーフィングで、「米韓外務会談ではグランド・バーゲン問題についてまったく扱われなかったし、率直に言って内容をよく知らない」と語っている。同盟国の高位官僚が、相手国の大統領が自信を持って公表した発言について、「内容を良く知らない」と語るのも異例であろう。


ケリー報道官もこの日の定例ブリーフィングで、「これは李明博大統領の政策であり、彼の演説」であって「私がコメントするものではない」と切って捨てている。


一方でアメリカの言論を見ると、22日付けニューヨーク・ダイムスは、「李明博大統領の提案はアメリカを驚かせた」としながら、アメリカの高位当局者の次のような言葉を紹介している。「アメリカは韓国の指導者を尊敬しており、韓国政府と良く協力しているが、北朝鮮の核問題を一気に解決しようと言う試みは、現実化される可能性は別にないようだ」


アメリカが驚くのもわからないことではない。李明博大統領の言っていることは結局、「先核放棄」を北朝鮮に強要しようと言うもので、それはすでに不可能であることが明らかになり、排除された方式である。実際、それが不可能だという判断から生まれたのが、「行動対行動」の原則に基づいた段階的解決方式ではなかったのか。つまり李大統領が持ち出した案は、またもや問題を出発点に引き戻し、再び実現しそうもない問題を持ち出して、延々と解決を先延ばしするのに役立つだけのものだ。アメリカが驚くのも無理のない話しだろう。


それでも李明博大統領は、新たなアプローチを示そうとしているという意味で、まだ評価はできる。もちろんバカにされるだけの案を持ち出して笑われるのもなんだが、瓢箪から駒の例えもあるではないか。いずれにしても「考えている」ことだけは伝わってくる。


振り返って拉致問題を抱えている日本が、何がしかの新たな解決案を示したという情報はない。拉致担当相に指名された後、これまでの中井担当相の発言からは、新たなアプローチに関する言質や、これまで解決しなかったことの原因に対する思索は微塵も見られない。拉致問題を含む日朝共同宣言の実現を目指す方法論が出てこないのだ。むろん「核・ミサイル・拉致問題の包括的解決」といううたい文句があるにはある。が、それ以上のものではない。李明博大統領の発言には、それでもなんとか形だけでも付けようという、それなりの思いが伝わっては来るが、中井担当相にはそれさえも感じられないのだ。


実際、「包括的」ということでそれぞれ違った内容、原因を持つ問題を一緒にして解決しようすることが、はたして可能なのか?核とミサイル問題は性質上、緊密な関係にあるので同時に扱うことは出来てもこれらの問題と拉致問題を一緒にすることは出来まい。実際、それを一緒にしてきたからこそ、アメリカにも疎まれ、6者会談でも疎んじられ、日本の発言権を著しく縮小してきたのではなかったか。


政権も交代したことだし、そろそろ拉致問題解決のための「グランド・デザイン」のようなものが出てもいいはずだと思うが、いかがか。北朝鮮はすでに入り口について述べており、アプローチをしているのにだ。

http://ameblo.jp/khbong/entry-10344258509.html


もちろん「従来の政府の制裁は生ぬるい」とし、「『圧力と対話』ではなく『圧力と圧力』だ」とのたまう単細胞の中井担当相には荷が重過ぎるだろう。むろん韓国にも「北による赤化統一」という、一時代遅れの使い古された文言を再び持ち出すユ・ミョンファン外相(18日の大韓商工会議所での講演)のように、頭の中が一時代前で固まっている単純な人物もいるが、中井担当相の単純な頭で、微妙で複雑に絡み合ったこの問題を解決するための「グランド・デザイン」を描き始めたら、すぐさま頭が爆発するのではないだろうか。この問題の解決には算数ではなく微分・積分が必要なのである。